深海のオルゴール——暗闇に光る、翡翠の瞳がそこにあった。
地下街暮らしの頃から今でも、自分の周りは敵だらけだと信じて疑わなかった。今は黒船という身内のテリトリーがあるので周りに敵がいることはほとんどないが、かつての151は常に身の回りの警戒を怠ったりはしなかった。そんな生活に慣れたせいか、151は深い睡眠をとることができず、逆に目が冴えてしまう夜を何度も経験していた。赤いロケットという異名で恐れられていながらも、所詮は草食動物である。気を抜いた拍子に、肉食動物に首根っこを噛みつかれてしまうような心地がするのが、怖かった。
だがそれも、そう簡単に過去の話にはなってくれない。
目が冴えて眠れなくなった151の目線の先には、きれいな男が安らかな寝息を立てていた。深海を掬ったような男は眠っている時も美しく、151は自分と同じ生き物なのかが怪しいとすら思っている。自分より少し上にある13の顔をじっと見つめる。
「13ィ」
月の光も差さない暗闇に、やけに低く甘い声が男の名を呼んだ。深い眠りに落ちている男はそれに応じることなく、すやすやと眠っていた。深海に恋焦がれた陸上生物は、どう足掻いてもそこには辿り着けないのだ。いずれ体内の酸素がなくなって、本能的に酸素を求め、海水を掻き分けるその手を止めてしまう生き物。手を伸ばせば伸ばすほどに、151はなお男に焦がれる。
13はそんなことを知らずに、依然としてベッドの中の暗闇で眠り続けている。一糸纏わぬ姿でいることですらそれが普通に見えてしまうのが何とも面白くて堪らない。男の胸に、甘えるようにして顔を埋めた。男の拍動に合わせて僅かに上下する胸が、151にとってちょうどいい抱き枕のようだった。とくん、とくん、という音に身を委ねてみると、不思議と瞼が重くなる。