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    3月、通販申し込みしてくださった方にお付けした無配でした。
    桜と師弟。

    #羅小黒戦記
    TheLegendofHei
    #無限
    infinite
    #小黒
    kuro

    薄青い空を、幼い子が見上げている。
    空には細やかな桜の花弁が散り、風を受けている。小黒は私の見ているところで、私を見ず、只、空を見ていた。
    人の手の行き渡らない自然のはざまで生まれ、育った時間は決してすべてが柔らかく穏やかなものではなかっただろう。けれど今、大木から降り落ちる桜を見つめる瞳は世界の小さな美しさを捉え、硝子玉のようにかがやいている。それをあの子はどう思っているのだろうか。倖せだと、感じているだろうか。
    その瞳を覗き込みたくなった。桜という、私からしてみればもう何度見たか分からない、季節の象りを前にしてかがやく魂を、遠くから見ているだけではきっと飽き足らない。私の心にはそういう、たまに現れるしたたかな欲があった。あの子と過ごすようになって、まろみのある指を握り起き、眠ってを繰り返す毎に、欲は確かなものになっていった。

    あの子が生きている歓びを感じているとき、そばにいたい。
    あの子が見つめ、感じるものを、私も見て、なにかを思いたい。

    そんな風に思っては、こうして季節の巡るときに、小黒と外に連れ立ち、見慣れた光景を見てはそこにいるあの子のたたえる笑みの暖かさを身に沁みさせ、もうじゅうぶん永い時を生きたこと、これから先を生きていくことを交互に思うのだった。

    「ししょう、見て!
    さくらのはなびら、つかめたよ」
    小黒が足音を立て駆け寄ってくる。私はしゃがんで、勢い余って転びそうになる小黒のちいさな身体を抱きとめた。
    「どれ」
    「ほら!」
    私に向かって差し出された掌のなかに、ひとつ、穢れのない桜の花弁が収まっていた。赤子を思わせる透き通った肌にまぎれた桜の薄い色は、ひとたび手を開けば風に攫われてしまいそうに儚く、私は小黒の両手ごと自分の掌で包み込む。
    「大事にしなさい」
    「うん」
    小黒は自分のより大きい私の掌に頬ずりをした。そして光を吸い込み、桜を吹雪かせる風ごと閉じこめたあどけない瞳を私のほうに向けて、うれしそうに言った。
    「来年もいっしょに桜、見ようね。ししょう」
    私は頷いた。桜の形も、どんな風に散るかも、すべて憶えている。けれど、また月日が巡って、この子と見られる桜は、きっと記憶にあるどんなものとも違う。
    そのことをまるでついさっき生まれ落ちたように、倖せに思うのだった。
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    InkLxh

    DONE3月、通販申し込みしてくださった方にお付けした無配でした。
    桜と師弟。
    薄青い空を、幼い子が見上げている。
    空には細やかな桜の花弁が散り、風を受けている。小黒は私の見ているところで、私を見ず、只、空を見ていた。
    人の手の行き渡らない自然のはざまで生まれ、育った時間は決してすべてが柔らかく穏やかなものではなかっただろう。けれど今、大木から降り落ちる桜を見つめる瞳は世界の小さな美しさを捉え、硝子玉のようにかがやいている。それをあの子はどう思っているのだろうか。倖せだと、感じているだろうか。
    その瞳を覗き込みたくなった。桜という、私からしてみればもう何度見たか分からない、季節の象りを前にしてかがやく魂を、遠くから見ているだけではきっと飽き足らない。私の心にはそういう、たまに現れるしたたかな欲があった。あの子と過ごすようになって、まろみのある指を握り起き、眠ってを繰り返す毎に、欲は確かなものになっていった。

    あの子が生きている歓びを感じているとき、そばにいたい。
    あの子が見つめ、感じるものを、私も見て、なにかを思いたい。

    そんな風に思っては、こうして季節の巡るときに、小黒と外に連れ立ち、見慣れた光景を見てはそこにいるあの子のたたえる笑みの暖かさを身に沁みさせ、 958

    InkLxh

    DONE「春と魂」
    kozさんの素敵なイラストに触発されて書かせていただいた北无。
    魂の話。
    向こうから、春の気配がした。

    おもむろに起き、身支度をする。髪は手つかずのままで、外に出た。
    うららかな匂いが立ち込めていた。肥えた土と、その下に埋まっていた植物が根を張り顔を出し、花を咲かせる匂い。遠くから野火のくすぶる匂いも、風に乗ってやってきていた。

    今年もやることが沢山ありそうだ、と思いながら、天高く腕を突き上げ伸びをする。春がやってきたときの匂いが好きだった。背筋がしゃんと伸びて、深呼吸ができて、自分の中のものが洗いざらい真新しくなっていく感じがする。大地から命が生まれ、芽吹くこの季節に、生活に必要なものをこしらえてつつがない生活をすることを、もう何年も好んで続けている。おかげで野山に関する知識はひととおり学び、ひとりでもなんら問題なくこの場所で暮らしていけるようになった。それでも、人と人との結びつきは強い。縁や結びというものはあるようで、傷負いの武人がひとり、俺の世話になりながらこの地で過ごしている。今は眠っているだろう――春の陽気は滋養をつける睡眠にもってこいだ――、あいつのことを少しだけ逡巡し、そして畑に行こうと思い立った。遠くの山々をなぞる稜線が薄墨でぼかしたよう 2992

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    DOODLE映画とwebアニメの中間地点くらいのムゲン様と小黒の話。
    ムゲン様今まで食事どうしてたん??という疑問から想像してみた結果
    ※名前の表記は映画の公式サイトの漢字を採用しています。

    「師匠、僕と会うまで1人で旅してたの?」
    修行兼任務の途中、今夜の寝床に選んだ山奥で、小黒は焚き火に手をかざして暖をとりながら、向かいに座る無限に質問を投げかけた。
    小黒の雪のような真っ白の髪が、焚き火に照らされて、夕暮れに浮かぶ雲のような色を見せている。
    「1人のことが多いけど、いつも1人という訳じゃないよ。鳩老や若水が一緒なこともある」
    「ふうん……」
    答えを得てもなお要領を得ないといった顔つきの弟子に、無限は着地点をあれこれ予想した。連携のとり方か?山で迷子になった時の対処法か?それとも……。
    「食事って、どうしてたの?」
    小黒には、どうしてもそれが分からなかったのだ。師匠である無限は、人間最強の執行人と呼ばれる程度には戦闘にも術にも優れているが、こと料理となると、食材を切る以外はてんでダメなのである。焚き火で魚や鳥を炙るだけでここまで不味い料理が出来るものだろうか。
    離島で天虎から貰った肉は、何の肉か分からなかったけれど、世界が輝いて見えるほど美味しかった。店で買う食べ物もすごく美味しい。
    しかし、今のような山奥で食事に 1869