何度でもダンデが初めて画面越しの自分を見たのは、セミファイナルでソニアと戦った時の物だった。
ソニアが留学の為に面と向かって会う機会が激減した時にふと思い立った。
本当は、ソニアの顔が見たかった。
しかし、当時まだ通信環境や機器がそれほど発達していなかった。
声は時々聞けたが会いたい衝動が時折顔を覗かせる。
そんな時は昔の写真を眺めては自身の中に生じる寂しさを慰めていた。
しかし、それでもソニアの顔が見たかった。
故に、各方面に無理を言って当時の映像を入手した。
その映像を見た時は、深夜だった。
無音で映像を流したが、それでも当時の音が脳内で勝手に流れた。
爛々と輝く新緑色の瞳が美しかった。
苛烈に光を乱反射していた。
当時の自分も果敢に黄金瞳を煌めかせていた。
その後、ダンデの決勝戦進出が決まった時、聞こえないはずの喝采がダンデの全身を包んだ。
その中で、ソニアの姿を探した。
しかし、観客はダンデにしか目を向けていなかった。
唐突に行方をくらましたソニアは最後まで画面には映らなかった。
観客は新しい英雄に釘付けだった。
ーーオレは、こんな風に見られているのか。
ダンデは醒めた目で画面越しの自分を眺めた。
*
「あ。変な顔してる」
陽光のような明るい声が聞こえた。
ダンデがろくに見てもいなかったタブレット画面から顔を上げると、向かいに腰を掛けて紅茶を啜るソニアと目があった。
途端、キラキラと光る新緑色の瞳が細められた。
まるで若い柔らかな新芽が朝露に濡れているように見えた。
思わずダンデの右手が伸びる。
そして、新芽の先に滴り落ちそうになっていた朝露を掬うようにソニアの目元を指の背で優しく撫でる。
すると、ソニアは擽ったそうに肩を揺すった。
無邪気なソニアの笑みに思わずダンデも気を緩めた。
「うーん……世間とのギャップが我ながらスゴいなあ、と思って」
「え~?今更じゃん」
カラリカラリと笑う声が心地好い。
ダンデは自然に口元を緩めながら「そうかなあ」と頭を掻いた。
「でも、そんなの気にしてないじゃん。キミは」
「まあ、そうだが」
うん、と素直にダンデが頷くと、ソニアは途端に判眼になった。
あれ?と首を傾げるダンデに、ソニアは「嫌味ぃ」とニヤニヤとしながら頬杖を突いてきた。
むう、とダンデは難しそうに唇を尖らせた。
「……まあ、世間が持っているイメージを利用していたところは正直ある」
世間が持っている、常にひたすらに真っ直ぐに突き進む純粋な自身へのイメージを利用して、ダンデは多くは語らない。
ポジティブなイメージさえ定着させれば、後は相手が勝手にプラスの方向へと解釈してくれる。
これも時間短縮の方法ですよ、と教えてくれた恩人は既に表舞台からも裏舞台からも去ってしまった。
それでも、ダンデは自分の道を歩いていける。
突き進む事を決めた。
それを途中で止めたり、ましてや投げ出すことは決してない。
それでも、ごくごく稀に疲れてもしまう。
そんな時は休息を取るようにしていた。
気の置けない存在と言葉数少なく共に過ごす事をこの上ない贅沢な時間の使い方だと自身に課していた。
ソニアと共にいると、昔の自分に戻れるような気がした。
嗚呼、とダンデはため息を溢した。
「どーしたの?」
「いや……言葉にするのは意外と難しいモノなんだなあ、と思って」
はあ、とダンデは肩を落とす。
ニシシ、と対するソニアは少し得意気に笑みを浮かべた。
「実は今日、話がある」とダンデは珍しくアポイントを取って研究所へと訪れてきたのだ。
それでも、ダンデはソニアに伝えたい言葉が上手く自分の中で纏まりきれていないようであった。
「……明日でも、良いか?」
ダンデが観念して白旗を上げると、「了解」とソニアは嬉しそうにニシシと笑顔を浮かべた。