いっそ泣いてくれたほうがましだった。「うっ…ぅ…」
熱に魘されているのか。眠るテメノスが小さく呻き声をあげている。そっと、その肩に触れて大丈夫かと問いかける。
「んっ、」
あまりに細い肩だと。あまりに弱弱しいと。その時、初めてそう思った。
「あぁ、」
ぼんやりと視線がこちらを見やる。テメノスは肩に触れている自分の手をするりと取ってふわりと笑う。
「よかった、クリック君。怖い夢を見たんです。君が死んでしまう夢を……でも、夢だった」
手に指を絡めて、そのまま頬を摺り寄せる。温かい体温でも求めるかのように。
「……生きてる。よかった……」
はっきりとテメノスが目を開けた。その瞬間、翡翠色の瞳が硝子玉のように空虚な色にみるみる変わっていった。迷子の子どもみたいに、いまにも泣き出しそうな顔で。でもテメノスは泣かなかった。声なき悲鳴が聞こえた気がした。
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