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    七七四

    Twitter @nana7_yon 版権とホモ的要素のページです。絵柄のお許しいただける方はこっそり覗いていってください

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    七七四

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    去年GWに出した本のなかで憂太が東京から夜行列車に揺られながら出雲に向かうシーンがあるんだけど、夜行列車について調べながら書いてた時にいつか乗りたいなって思ったんだ

    ハロークリスマス「え? もう出ちゃったんですか?」
    どうして僕がこんな間抜けた声が出てるかと言えば、狗巻君が急に実家に帰ってしまった。
    勘違いしないでほしいが、愛想を尽かされた訳では無い。はず。
    午後、僕は任務があってみんなと別れた。五条先生が引率する呪術実習に行くと言っていたのがすごく羨ましくて着いて行きたかった。けど僕を見る真希さんが心底面倒臭そうな顔をしてるのを見てしまったので、ぐっと我慢した僕は偉い。
    僕の任務はひとつひとつは簡単なものだけど、早く帰りたくて手短に終わらせると次々に任務を捩じ込まれてしまい、学校に戻る頃には二十一時を優に越していた。昨日から会話を交わしていない狗巻君と話がしたくて泣きそうになりながら急いで寮へと向かっていた。すると僕を呼び止める声がして振り返れば五条先生がいた。そして、急ぐ目的の彼が帰ったのだと聞かされた。
    寝耳に水とはこう言うことで、ピンクタイツ事件の時よりも間抜けな声が出てると思う。僕の動揺っぷりに先生が少し笑ってる気がするのは気のせいだろうか。
    「あー……どんまい。大丈夫愛想を尽かされた訳じゃないよ」
    「冗談でも愛想尽かされたなんて言わないでください」
    自分でも呆れるほど震えた声だ。この人絶対僕のこと遊んでる。全然フォローになってない。
    「で、狗巻君はなんで帰ったんです?」
    おおよそ察しはついていたが、ちょっと先生には怒りたかったので苛ついたような声にしてみる。
    先生はやんわりと宥めるようにまーまー、と言いながらポケットから一枚の封筒を出して僕に渡してきた。
    「僕からの特別任務。今から出雲に行って神様にご挨拶をしてきてくださーい」
    封筒の中身を確認すると、東京から出雲の寝台列車のチケットが一枚入っていた。日付は今日で。よくよく見ても今日。絶対今日。そしてこの後三十分後に出発。
    「いや、ここからじゃ間に合いませんよ!」
    ここは東京でも山奥だ。普通に都会に出るとして、車で送ってもらっても一時間はかかる。この先生は僕が飛行機がなんかだと思ってるのか?
    「それが、間に合っちゃうんだよなぁ!」
    ククク、と先生が笑う。悪い顔をして。僕はその悪い顔の意味を察してしまった。最悪だ。
    「ちょ、ま」
    「いってらっしゃ〜い」
    選択の余地はなく、僕の抗議を邪魔した合図でぐわりと身体が宙を舞い、強烈に身体が千切れそうな移動をした。この感覚は知っている。先生の術式だ。
    次に目を開けたときには、疲れの浮き出た顔で歩く残業帰りの人がごった返す東京駅だった。時刻は二十一時二十分。先程の出発まで三十分のカウントはほとんど変わらないので時間を持て余すくらいの余裕ができてしまった。先生の無茶振りには何度か苦しめられたなと色々と思い返して見る。けど文句をいう暇すら与えないようにしてるのだから確信犯だ。こうなったらヤケだ。ほとんどが売り切れのシールがディスプレイに貼られた弁当屋で奇跡的にあったちょっと高い牛タン弁当を片手に、着の身着のままで出てきてしまった僕はコンビニで下着やら歯ブラシやらを買い込む。先程のお弁当の分も、普段より少し高いコンビニの買い物もレシートはしっかりもらったのでまとめて先生に押し付けよう。
    そうこうしているうちに、出発まであと十分だった。急いで改札をくぐり抜けて、階段を駆け上がっていく。東京駅が始発の寝台列車は出発の十分前くらいから待っているらしい。僕が車内に入る頃には他の乗客は乗り込み、夜を過ごすための準備をしていた。流石先生と言うべきか廊下をウロウロとチケットに書いてある部屋を探して歩いていると、寝台列車の中でも一番グレードの高い部屋にたどり着いた。電車だというのに立派な扉で、お邪魔しますと開いてみれば窓がでかい。天井まで覆う形の窓は駅のホームからすると丸見えなので、少しソワソワとしてしまうのでそっとカーテンを閉めておく。
    そして僕でも足を伸ばせるくらい大きなベッドと壁に備えつけてある机に椅子が添えられている。感動。これは完全に部屋だ。
    ふとベッドの中央に寝巻きが置かれていることに気がついた。シャワーカードが添えられており、怠さと眠気を感じていたのですぐ寝られるように先に行くことに決めた。

    電車がレールを走る音。カタンカタン
    時々曲がり、体も傾く。
    初めて電車の車内でシャワーを浴びた感想は「狗巻君なら絶対楽しいと思う」
    いや、僕も面白かった。
    ゆらゆらと車体が揺らぐ度に僕の体も壁についた水も横に流れていく。揺さぶられるとはこういうことかと思っているうちにシャワーカードの時間が切れそうになってしまい、慌てて泡だらけの体を流してしまった。ゆっくりと温まる事は難しかったので早々に部屋に戻ってきてお弁当をかき込めば、牛になるつもりでベッドに潜り込んでしまった。
    心地よいリズムで軋む音、時折通過するホームの光、いつもと違う環境でドキドキしてなかなか寝付くことができなかった。すると枕元でピカリとスマホが光って僕を呼んだ。いつもなら寝つきが悪くなるからと狗巻君からの連絡以外は布団に入ってから見ないけど、どうせ寝られないからと画面を開ける。
    先生からだ。そういえば今回何故出雲に行くのかも聞かされぬまま飛ばされてしまったのでその内容といったところだろうなとメッセージアプリを開けば、長文の内容だ。
    『狗巻家の呪印の話は詳しくはわからない。それを聞きに棘は家に帰っただけだから安心してね(ハート)そんで、憂太には棘の呪印が神様説に則って出雲に向かってもらいまーす(パチパチ)ま、僕も棘を観て神の類だと思うんだよね。今丁度神無月で、出雲には神様の集まりが行われるはず。明日その祭りだから探してきて欲しいなぁと思って(星)』
    いつも先生からはビヨーンとかバヨーンだとか意味が分からない単語ばかり送られてくるのだけど、今回は珍しくまとも……いやそれにしても端々の(ハート)だとか(パチパチ)とか正直表現が古いのが気になる。友達が居なくて、今までメールをする相手が居なかった僕ですらわかる。歳の差が露呈してるよ先生。
    内容としては狗巻君が家に帰った理由も、今回の目的もまとめて書いてあった訳で満点だが分からない。
    狗巻君の神様ってどんな姿なの?!
    ただの蛇か、それとも人の形か、それとも文献で妖怪と言われるような姿か。もやもやと浮かんでは消し、浮かんでは消しと過ごして最後にムカデのように沢山の脚を生やした白い大蛇が華麗に歩く姿を思い浮かべたのを最後に意識が途絶えた。

    遠くで聞き取れない声が聞こえ、電車が軋みを上げて止まった。カーテンの隙間から煌々とした光が漏れており、眠気でまだぼんやりとする手でスマートフォンの電源をつけてみればまだ五時二十五分だ。止まったということは駅だろうか。普通よりも控えめなアナウンスを耳を澄まして聞いていれば姫路駅に停車しているらしい。
    確か昨日見ていた切符には確か出雲には十時くらいに着くはずだった気がするのでもう少し寝よう。案外電車は快適だし、リズムが心地いい。カタン、と電車が動き出してすぐに眠気がやってきて、僕の頭を包んだ。
    次に目を覚ませばゆらゆら揺れるカーテンの隙間からすっかり日が昇っている事がわかった。名残惜しい布団から抜け出して伸びをすれば頭がすっきりとした。昔からどこでも寝られたし短い睡眠時間でも活動できたが、最近はあまりにも寝ていなくて真希さんに怒られたばっかりだったからこれで帳消しだろう。カーテンを開けてみれば光と冷気がぶわりと覆い被さってくる。もう冬だなぁ、なんて呑気にしてたら、体がぶるりと震えた。流石に備え付けの部屋着では耐えられないからさっさと着替えてしまおう。
    顔を洗いに洗面台に行ってみれば「次は宍道〜」とアナウンスが流れてきた。寝癖もなかなかに酷くてびしょびしょに濡らしながら、そういえば今どこだと車内に備え付けられた停車駅の時刻表を見れば
    「やっば」
    終点出雲駅まであと十五分。この滴る水滴をどうしてしまおうと悩む暇なく廊下を濡らしながら慌てて部屋へ戻り、脱ぎ散らかしたものや牛になる前に食べ散らかしたお弁当をせっせと片付けた。
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