君の降るステージで 愛とは、なんぞや。と、問われる。ふむ、ひとつ考え、天馬司は言った。愛とは、献身であろうか。そうだろう、それも美しい。またひとつ、丸い丸い瞳が真っ直ぐに見つめてくる。愛とは、誠実であろうか。うん、それも清い愛の形。ぱちぱちと瞬きをする睫毛が揺れた。
僕は思う。愛とは、君の姿をしている。
ことり、と小さく音を立てて持ち主から離れた小さなリング。ステージに上がる前には決まって、ロッカーで留守番をするその細いゴールドは、きっと主人の整った指先を恋しんで待ち惚けている。その指先をそっと持ち上げるのは、ぼく。そして僕は知っているんだ。君の指には僕からの贈り物が深く刻んだ痕を付けていることを。取れないね、取れないんだ、もう。そう思って、くすりと笑ってしまう僕は本当に悪趣味だと思う。
燦々と浴びるスポットライトは君を一心に輝かせて、眩しいのだ僕には。でも、君は僕を見ては笑う。眩しそうに目を細め、楽しそうに、跳ねるように。君の瞳に、確かに僕がうつっていた。僕を写して、君はどこまでも綺麗に笑う。僕は問うた。僕で良いのかな。そうすると、君はまた笑う。バカだ、と笑う。そんな愚問を繰り返して、スポットライトが二人を影にするまで。
ここは、そう、ここは。僕の見つけた僕のセカイだ。
君が笑うだけで、舞台は回り出す。明かりが燈る。震えるような心が、僕のど真ん中を貫いて火を点すのだと知った。つよく、つよく。愛は、君の姿をして見えた。
君が言った。つかまえたのは、お前だろう。だから、そうだな。離さなければいい。お前は、お前でいい。良いのかな、良いんだね。そうか。噛み付いた君の薬指。消えないほどに痕を残して。それを大事にしてくれる君が、光の消えた舞台の袖で僕の手を取る。類。オレが思うに、愛は、お前の手から生まれてくるかもしれんな。
参ったな。降参しながら仰いだ宙に、浮かぶ僕の骨張った手。僕の指にも、消えなくなった指輪の痕があること、君は知っている?
僕は、思うよ。そう、愛は、きっと温かい。