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    Unyanyanganyan

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    Unyanyanganyan

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    なんのカップリングでもない小説でもない独り言です。

    無題 一年前の夏。景色はあまりに鮮やかだった。絵の具を零したような彩度で飾られた風景と、全てが物語の一部のような日々だった。私は、彼女が好きだった。彼女が好きで、自分自身も好きになろうとしていた。自分を受け入れようとして、自分を許せる気がしていた。

     きっと上手くいくと思っていた。ゆっくりと、ゆっくりと、新しい何かが生まれてくるような心地に生きていた。

     それを、全部、捨ててしまおうと思ったのはいつからだったか。頑張って、努力して、我慢して、我慢して、我慢して、まだ頑張れて、まだ平気で、進み続けているうちにもうダメな場所にいる事にも気が付けなかった。
     鮮やかだった夏の景色は色褪せた。風に揺れる木の葉の音色が好きだった気がする。でももうそんなものは聴こえてこなかった。鉛玉を舐めているような毎日だった。人を憎んだ。憎くて、憎くて、この世界が消え去って欲しいと願った。何もかもがつまらなかった。くだらなかった。好きではなかった。そんな腐った感情を飲み下して笑った。人と会話を交わした。全ては嘘ばかり。何一つ興味もなくて、何もかもがどうでも良くて、私はただの嘘吐きになった。嘘が嫌いだった。自分も嫌いだった。自分が憎くて憎くて、殺してしまいたかった。つまらないくせに、楽しそうに過ごす自分が憎かった。
     この世の全てを否定したかった。自分の存在も否定したかった。お前が生きていたところで、誰も喜ばない、何も生み出さない、邪魔なんだよ、邪魔でしかないんだよ。そうやって自分を虐めたかった。逃げ出したかった、全ての人間から関係を断たれたかった。彼女からも。この世にあるあらゆる凄惨な言葉で暴力を振るって欲しかった。酷い私に、醜い私に、ぐさぐさと暴言を突き刺して欲しかった。もう良いよ、もう勝手にしろよと呆れられてしまいたかった。突き放されて、必要無いと言い捨てて欲しかった。けれど彼女はそうしなかった。
     毎日、泣きたい気持ちになった。何を持ってしても涙は枯れたままだった。そのうち泣きたい気持ちもどうでも良くなった。全てを他人のせいにして逃げたかった。なんでも良くて、誰でも構わなかった。愛されたくて、縋り付きたかった。それもそのうち興味がなくなった。
     空腹感で支配されるようになった。抗い難い飢餓感に、頭の中はいっぱいだった。口に入ればなんでもよかった。とにかく口に詰め込んで、たいして噛みもせず嚥下した。どれだけ食べても、空腹のままだった。空腹のまま、意味もなくただ物を飲み込み続けた。食べて、食べて、食べて、食べて、空腹が満たされることのないまま胃が苦しくなった。苦しいまま詰め込んで、無理矢理吐き出した。何のためかも分からないまま、止める術もなかった。ゴミみたいな人間だ。
     夜が怖かった。夢の中でも責められた。何かに追われ続けた。失敗ばかりで、価値のカケラもない気がした。寝ても覚めても居場所はなかった。どこにも居ることを許したくなかった。朝が怖かった。一日をまた生き延びる私が憎かった。早く誰かが殺してくれたらいいと願った。毎日。毎日。毎日。生きていた。
     愛さないで欲しかった。慕わないでほしかった。褒めないで欲しかった。大切な物を大切に思いたくなかった。忘れたかった。捨てたかった。感情も思い出も何もかも消し去りたかった。そうしてこの世界から消えて、誰も私を覚えてなかったら良いと思った。
     独りぼっちになりたかった。嫌われて憎まれて、空っぽの自分に気付かれたかった。一緒にいる価値なんてないと見抜かれたかった。けれど、それが何より怖かった。彼女に褒められるのが嬉しかった。彼女が見てくれることが嬉しかった。彼女の声が好きだった。いつか離れていく時が来るのが恐ろしかった。その日が来ることしか信じていなかった。わざと迷惑をかけた。わざと嫌なことを言った。たくさん言った。早く見限ればいいのに、そんなこともせずに、励まされて、認められて、何度だって許された。本当は居なくなって欲しくなんてなくて、ただの小さな子供みたいに我儘を言って困らせて、それでも繋ぎ止めていて欲しかっただけだ。情けない私はそうやって確認したがった。くれる言葉も優しさも何一つ受け取ろうとせずに、何一つ信じようとしなかった。ただ、ただ、怖かった。怖くて仕方なかった。今日が終われば終わるかもしれない。明日が最後かもしれない。毎日が怖くて、怖くて、怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて…!怖くて仕方がなかった。壊れた心は何も生み出してくれなかった。失いたくなくて、怖くて、だから早く消えたかった。諦めてしまいたかった。彼女が好きだと言った私の創作も全部全部無くなってしまえばいい、無かったことになればいい、何も生み出せない私が私の正体だったらいい。そうすれば楽なのにと思った。悲しかった。何故誰も助けてくれないのだろうと世界を恨んだ。何故私は私を助けてあげないんだろう。
     彼女と会えることになった。あんなに望んでいたのに、怖かった。怖くて、逃げてしまいたかった。いつもはじめるのは私のくせに、私は逃げてしまおうとした。楽しみだと言いながら、酷く怯えていた。
     最悪な私の隣に、彼女は平気で並んで、何にもなかったみたいに、一年前の夏が昨日だったみたいな様子で立ってた。あんなに怖くて仕方がなかったのに、何に怯えて生きていたのかよくわからなくなってしまった。思い切り抱きついて子供みたいに甘えてしまった。何一つ咎められなかった。
     苦しくて仕方がなかった空腹感も感じなかった。酷く苦しめられた悪夢に魘されることもなかった。帰ってからも平気だった。朝は普通に訪れた。朝焼けに色が付いていた。出したくてもからからに乾いたままの目からぼろぼろ涙が出てきた。空腹は満たされて、それ以上必要なかった。やっぱり私は彼女が好きだった。大好きだった。これからもずっと大好きで、多分彼女はずっと優しいんだと思った。

     温かい海だった。
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    Unyanyanganyan

    MEMOなんのカップリングでもない小説でもない独り言です。
    無題 一年前の夏。景色はあまりに鮮やかだった。絵の具を零したような彩度で飾られた風景と、全てが物語の一部のような日々だった。私は、彼女が好きだった。彼女が好きで、自分自身も好きになろうとしていた。自分を受け入れようとして、自分を許せる気がしていた。

     きっと上手くいくと思っていた。ゆっくりと、ゆっくりと、新しい何かが生まれてくるような心地に生きていた。

     それを、全部、捨ててしまおうと思ったのはいつからだったか。頑張って、努力して、我慢して、我慢して、我慢して、まだ頑張れて、まだ平気で、進み続けているうちにもうダメな場所にいる事にも気が付けなかった。
     鮮やかだった夏の景色は色褪せた。風に揺れる木の葉の音色が好きだった気がする。でももうそんなものは聴こえてこなかった。鉛玉を舐めているような毎日だった。人を憎んだ。憎くて、憎くて、この世界が消え去って欲しいと願った。何もかもがつまらなかった。くだらなかった。好きではなかった。そんな腐った感情を飲み下して笑った。人と会話を交わした。全ては嘘ばかり。何一つ興味もなくて、何もかもがどうでも良くて、私はただの嘘吐きになった。嘘が嫌いだった。自分も嫌いだった。自分が憎くて憎くて、殺してしまいたかった。つまらないくせに、楽しそうに過ごす自分が憎かった。
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