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    s_pa_de_

    いつもありがとうございます。
    あんず受け中心にあん⭐️小説を上げています。

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    成人済み、同棲設定のニキあんがちょっとしたことで喧嘩して仲直りする話です。短め。

    喧嘩しちゃったニキあん*はらぺこ
    椎名ニキ×あんず

    カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。ふっと目を開けて、視界に入るその灯りを、とても煩わしく感じた。
     寝返りを打つ。隣には誰もいなかった。椎名ニキは、白いリネンの僅かに凹んだままの部分に手を添えた。望んでいた温度は、そこには無い。
     緩慢な動作で起き上がって、ベッドボードに置いていたゴムで適当に髪を縛った。冬特有の空気にぶるりと震えて、寝室を出てリビング、繋がっているキッチンに足を踏み入れる。机の上には、可愛らしい柄のハンカチで包まれた弁当箱が鎮座していた。
     続いて冷蔵庫を開ける。そこには、昨日作った朝ごはんが二人分、綺麗にそのまま残っていた。ニキの口から、小さく息が漏れる。

     ーー姐さん、やっぱりまだ、怒ってんのかな。

     吐き出した息は、室内であるにも関わらず、なんだか白い靄のように見えた。

    **

     「・・・・・やっちゃった」
     あんずは思わず声をあげた。朝7時から怒涛の仕事、ようやく昼休憩を取れたのは、15時の今になってだった。ぐうぐう鳴る腹の虫は、朝ごはんだって食べていないのに、とあんずに文句を付けてくる。そして彼女はたった今、弁当を家に忘れてきたことに気がついたのであった。
     できれば今日は、コンビニのご飯や携帯食では済ませたくない。時間は確かに空いた、だけれども、十五時ではもうランチは終わっているだろう。なかなか痛い出費だ、と、あんずは少しやつれた顔で事務所を出た。と、そのとき。
    「あれ!プロデューサー、お疲れ様〜☆」
    「スバルくん」

     廊下でばったり遭遇したのは、輝く笑顔を携えた明星スバルだった。スバルは、あんずの浮かない顔に気付いて、どうしたの?と尋ねた。
    「ごはん忘れちゃったの?あはは、あんずってばウッカリさんだね」
    「そうなの。だからどこか食べに行こうと思って」
    「実は俺もごはんまだなんだ!今の時間でもランチメニューあるお店知ってるんだけど、一緒に行かない?」
     スバルの提案に、あんずは目を瞬かせてーーそしてすぐに大きく頷く。その反応に、スバルも花が咲いたように笑った。


    **

     そして数十分後。ピークの時間を過ぎ、あんずとスバルしかいない店の中で、スバルはオムライスを食べる手を止めて言った。
    「ええっ、喧嘩しちゃったの?」
     あんずは小さく頷いた。喧嘩ーーというべきか、昨晩、彼氏兼同居人の椎名ニキと、ただならない雰囲気になってしまったことは確かだ。

     ーーニキはいつだって優しかった。あんずの頑固な一面も(本人には自覚がないが)、ニキは、僕には分からないんで、と笑って許容してくれる。にこにこと笑う傍で、対する人となりをよく観察し、適切な距離感を保つことができる。そんな彼とは、同棲生活を始めて三ヶ月、お互いにとって良い関係を築けていたと、あんずは思っていたのだが。

     あんずの脳裏に、昨日のやりとりが蘇った。

     ーー僕ぁ分かんないっすよ。分かんないけど、それはやめて欲しいって思ってる。
     そう言い放ったニキの青い瞳はぱきりとした色で、ふざけている様子も、普段の柔らかさもどこにも見当たらなかった。あんずはその目に萎縮して、ただ黙りこくったのだった。
    「一体どんなことで怒らせちゃったの?
    「…………仕事をね、持って帰ってきていて」
    あんずがぼそぼそと呟くと、スバルはあー、と大きく頷いた。あんずの仕事に関する姿勢には、本人には決して言えないがーー頑固過ぎて、やや困ったところがある。

     話を聞いてみれば、なんでも、帰宅して夕食を楽しんだあとに、あんずは仕事を終わらせようと躍起になってデスクに向かっていたらしい。時間はどんどん遅くなる。明日も早いんすよね、もう寝ましょうよお、何度か声を掛けられてーーそれでも、目の前のことに熱中したあんずは聞く耳を持たなかった。もう少し、もう少しで終わるから。挙げ句の果てには、ニキさんは先に寝ても良いよ。その一言で、ニキの堪忍袋の尾が切れたのだという。
    「あんず、それはダメだよ〜……」
    「う、分かってる。なんだかムキになっちゃって。ニ……椎名さんが心配してくれてること、分かってたのに」
    「うんうんっ、分かっててもやっちゃう時って、あるよね。でも、あんずはそうして後悔してる。帰ったらちゃんと気持ちを伝えれば、許してくれるよ」

     スバルの笑顔に、あんずもつられて微笑んだ。
     ーー普段、お互いのプライベートなことにはほとんど口を出してこないニキが、付き合い出してから初めてあんずの内面に強く踏み込んだ。そのことにただ驚いて、ニキの言葉に何も言えなかった。僕は仕込みするんで、姐さんは早く寝て、と早口で言われるがまま寝室に入り、ベッドでずっと考え込んでしまったのだ。夜遅くなって、ニキが隣に潜り込んできてからもずっと。
     そんなことをしていたら、すっかり寝入るのが遅くなって、目覚めは家を出る15分前。朝ごはんは当たり前のようにパスし、せめてお弁当は持っていこうと大きなハンカチに包んだうえ、忘れてしまったのだ。朝ごはんも、お弁当も、いつもニキが準備をしてくれるのに。きっと、もっと怒らせてしまった。

     手早く食事を済ませて、あんずとスバルはレストランを出た。冬らしく強い風が、突き刺すような温度を伴って頬を打ち付ける。隣のスバルが、寒いね、となんだか嬉しそうに言った。

    **

     その日あんずが、ニキの待つ家に帰ってきたのは日付が変わるギリギリのことだった。
    ゆっくりできた時間はあのスバルとの昼食だけで、オフィスに戻ってからは飛び入りの案件も含めて処理をした。いつも着ているはずのコートがなんだか重く感じて、マンションのエレベーターで大きくため息をついた。
     ーーニキさんは、もう寝てしまっただろうか。

     あんずは、無性にニキの作った食事が食べたくなっていた。優しい味がするお味噌汁や、口に入れたら思わず笑顔になってしまうようなクリームシチュー。肉じゃがも、ハンバーグだって、あんずはニキの作ったご飯なら何でも好きだった。疲れているときは、より一層食べたくなる。
     でも今日は、彼に愛想を尽かされていてもおかしくないのだ。わがままで気を揉ませた挙句、自分のために作ってくれた食事に何一つ手をつけずに家を出た。こんなこと、自分勝手以外の何だというのだろう。

     悶々と考えながら、それでもなんだか足は急いて、あんずはマンションの部屋の目の前に来ていた。意を決してドアノブを捻る。鍵はかかっていない。
     き、と小さく軋む音を立ててドアは開いた。廊下の向こう、キッチンとリビングに灯りが見える。起きているのかなーーそう考えたところで、いい香りが鼻を刺激した。すうっと息を吸って、鼻腔をそれで満たす。この匂いは、ニキの作る料理の匂いだ。あんずは思わず、廊下を早足で抜けた。廊下の先を隔てるドアを開く。上につけられたベルが、ちりちり、と涼しい音を立てた。

    「・・・・・・あんずちゃん、お帰りなさい」
    「ただいま、です・・・・・・」

     音に気がついたのか、キッチンに立っていたニキが振り向いて柔く笑った。それを見たらーーごめんなさいとか、そんなつもりじゃなかった、とか、そんな言葉は喉の奥に吸い込まれて無くなってしまった。ただいま、思わず漏れたその言葉を聞いて、ニキはへにゃりと笑みを深くする。
    「遅かったっすね。大変だった?」
    「はい、いつもより。・・・・・それで、あの」
    「あんずちゃん、晩ご飯食べたっすか?もしまだなら、これ食べて」

     あんずの言葉を遮って、ニキがやや早口で言葉を吐き出す。皿に盛ったのは炒飯で、上にはふんわりとした卵が乗っかっていた。それは、あんずが昼に食べたオムライスを彷彿とさせる。
    勧められるがままに席に座った。ニキも向かい側に座り、あんずよりも多く炒飯を皿に盛る。
    「・・・・・・もしかして、僕のご飯は、もうイヤになっちゃいました?」

     黙ったまま、スプーンも手に持たないあんずを見つめて、ニキはぽつりと言う。あんずは弾かれたように反応して、違う、と大きな声で口にした。予想だにしない大きな反応に、ニキは目を見開く。
    「違うの。ニキさんは悪くない。わたしが、ニキさんにそこまで言わせてしまったことか、なんだか恥ずかしくてーー考えてたらぼうっとして、寝坊しちゃうし、お弁当忘れちゃうし」

     あんずがぼそぼそと続ける。ニキは大きな目をぱちぱちさせながら聴いていて、そしてやがて、大きく口を開けて笑った。

    「ああ!だからお弁当が包まれてたんすね!」
    「わたし、本当に急いでて!だからお昼にようやく気付いたの」
    「……そっかあ。うんうん、そうっすね」

     あんずの必死の弁解に、ニキはなんども頷いた。そして、気にしてないから大丈夫っすよ、と、手を伸ばしてあんずの頭をぽんぽん撫でる。
    「僕もごめんなさい。あんずちゃんの事情、何も知らないのに勝手に口を出したのは僕っす」
    「そんな。だって、わたしも」
    「……はいはい、もうこのやりとり終わりっすよ!埒が明かない!ほら食べましょうよ、冷めちゃう いますし」

     再びニキはあんずの言葉を遮った。ぶすくれる彼女の顔を見て、ニキは声をあげて笑う。顔を見合わせて微笑んでーースプーンを持って、炒飯を口に運ぶ。なんだかとても優しい味で、あんずは胸のあたりにじんわり広がるものを感じた。

    「・・・・・・良かった」
    「ニキさん?」
    「なはは。なんでもないっすよ」

     ニキの小さな呟きを拾ったあんずは、首を傾げて食事に戻る。ニキも大きく腹の虫が鳴るのを感じた。ーー今日一日、アイドルの仕事は休みだったのに、どうしてかニキはずっと空腹感に苛まれていたのだった。
     きっと、昼に見かけたあの光景のせいだなあ、ニキは少し思い返して、すぐに脳裏からその光景を消した。
     ーーやっぱり、彼女には僕の料理が一番だと言って欲しい。
     あんずが、自分の作った料理を口にせず、外で食事をしてくること。それがこんなに、醜い気持ちを作り出すだなんて、知らなかった。
    「ニキさん。これ、すごく美味しいです」
    「ほんとっすか?良かった〜!おかわりある
    っすよ」

     あんずはニキの目の前で、大きな口を開けて自らの作った料理を食べている。それを見ると、先ほどまで感じていた空腹感はすうと薄れていった。ニキは笑った。そして、いただきます、と改めて手を合わせて、ほかほか湯気を立てる自らの料理に手を付けた。
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    s_pa_de_

    DONE付き合いたての真緒とあんずが、交通トラブルで同じホテルの一室に泊まることになる話。ズ!とズ!!の間くらいの話です。
    星灯りの未来を(まおあん)街灯で照らされた道に、スーツケースのタイヤが転がる小さな音だけが聞こえる。駅前だというのにすれ違う人はまばらで、通りを埋める店は軒並みシャッターが閉められていた。時間は夜の九時。そんな、夜中でもないような時間に、全く人気がなくなってしまうような田舎の駅前を、あんずと真緒はお互いスーツケースを引きながら歩いているのであった。
    「あっ、あれホテルだよ」
    「んっ⁉︎あ、そ、そうだな!」
    「真緒くん待ってて。聞いてくる」
    あんずはその場にスーツケースを置いて、少し離れたところで煌々と輝くビジネスホテルへと駆け出していった。その後ろ姿を真緒はぼうっと見つめる。
    ーーこれ結構、やばいんじゃないか?
    事の発端は地方での仕事の依頼が入ったことにある。撮影地近くのホテルに前泊しようということになり、そのつもりで予定を練っていたのだが、真緒は急遽生徒会長の仕事で、身動きが取れなくなってしまったのであった。それをあんずが手伝う形で、夜に宿泊施設に到着できるように遅れて電車に乗り込んだ。それが、野生動物と衝突したとか何とかで止まってしまい、スーツケースひとつで見知らぬ田舎町に放り出されたのが三十分ほど前の話だった。
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