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    s_pa_de_

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    付き合いたての真緒とあんずが、交通トラブルで同じホテルの一室に泊まることになる話。ズ!とズ!!の間くらいの話です。

    #あんスタNL
    anstaNl
    #まおあん
    maoAn

    星灯りの未来を(まおあん)街灯で照らされた道に、スーツケースのタイヤが転がる小さな音だけが聞こえる。駅前だというのにすれ違う人はまばらで、通りを埋める店は軒並みシャッターが閉められていた。時間は夜の九時。そんな、夜中でもないような時間に、全く人気がなくなってしまうような田舎の駅前を、あんずと真緒はお互いスーツケースを引きながら歩いているのであった。
    「あっ、あれホテルだよ」
    「んっ⁉︎あ、そ、そうだな!」
    「真緒くん待ってて。聞いてくる」
    あんずはその場にスーツケースを置いて、少し離れたところで煌々と輝くビジネスホテルへと駆け出していった。その後ろ姿を真緒はぼうっと見つめる。
    ーーこれ結構、やばいんじゃないか?
    事の発端は地方での仕事の依頼が入ったことにある。撮影地近くのホテルに前泊しようということになり、そのつもりで予定を練っていたのだが、真緒は急遽生徒会長の仕事で、身動きが取れなくなってしまったのであった。それをあんずが手伝う形で、夜に宿泊施設に到着できるように遅れて電車に乗り込んだ。それが、野生動物と衝突したとか何とかで止まってしまい、スーツケースひとつで見知らぬ田舎町に放り出されたのが三十分ほど前の話だった。
    「真緒くん、おまたせ。ダメだって」
    「そっか……。こんな田舎っぽいのに、結構ホテル使う人多いんだな〜!意外だよ、はは……」
    真緒のわざとらしい笑い声が夜の闇に溶ける。あんずは眉を下げて、困った顔をしていた。明日すぐに撮影があるのに、とか、そういうことを考えているのだろうーー真緒は何となく勘づいていた。
    「ちょっと佐賀美先生に電話してみるよ。もしかしたら車で迎えにきてくれるかもしれないし!」
    自分のために表情を曇らせるあんずは見たくはない。真緒は急いでポケットの中のスマートフォンを取り出し、今回の件の引率に電話をかけた。しばらくコール音が鳴って、気だるげな声が出る。
    「は〜い。どうした〜?」
    「先生!実は……」
    真緒は急いで事情を話す。事故のおかげで身ひとつで見知らぬ街に投げ出されたこと。次に電車が動くのは明け方であること。近くのホテルに当たってみたが、空いていないこと。
    「そ〜か……。迎えに行きたいのは山々なんだが……そうもいかない理由があってな」
    「も、もしかして……先生、酒飲みました?」
    「ご名答〜☆……って、言ってる場合じゃないな。待ってろよ、今こっちでも調べてやるから……」
    電話の向こうで、陣が誰かと話す声が聞こえる。別の電話を使ってなにやら交渉してくれているようだ。藁にもすがる思いで真緒は聞き耳を立てる。しばらくしたのち、陣の、あ〜……という気の進まなそうな声が聞こえた。
    「セクハラじゃないんだけどさ、おまえら、付き合ってたよな?」
    「えっ‼︎」
    思わず大きな声が出る。あんずがどうしたの、と身を乗り出してきた。真緒はそれを慌てて両手で制し、電話口に向かって噛み付くように言う。
    「先生!それどこから……っていうかそれ、今関係ありますっ⁉︎」
    「それがさ〜、ちょっと調べてみたんだが……。徒歩で移動出来る圏内で空いてるホテルはあったんだけど、一室だけなんだよ。そんでとりあえず予約取ったから、どっちでもいいからお前ら泊まれ」
    「一人は寒空の下じゃないですか‼︎」
    「まあ、一室って言ってもダブルだって言ってたし……。付き合ってんなら二人で泊まってもギリギリセーフだろ。あとは若いもの同士で話し合って決めろよ〜。とりあえず酒が抜けて、動けるようになったらすぐ連絡するから」
    「えっ、え⁉︎ちょ、先生……」
    無惨にも通話は切られ、真緒はひとり顔を赤くしたり青くしたりする。いや、先程までの展開で、もしかして同じ部屋に泊まっちゃうことになっちゃったりしたらどうしようなんていう、男子高校生らしい妄想を膨らませてはいたがーーそれが現実として目の前にやってくるとなると話は別だ。
    あんずと真緒は、付き合ってまだ1ヶ月かそこらの、初々しさ満載のカップルだった。なんなら、キスをするので精一杯なほどの。
    「あ〜……っと。あの、あんずさん……。ご相談したいことがあるんですけど……」
    思わず敬語で話し始めてしまった真緒の言葉を、あんずは黙って聞いている。ーーそして。

    「佐賀美様からご予約で承っています。こちらがルームキーです。ごゆっくりお過ごしくださいね」
    「あ、はい……」

    そして二人は結局、陣に指示されたビジネスホテルにチェックインしていたのであった。時刻は十時も半ば。二人は連れ立って部屋に向かった。
    (……着いてきてくれたっていうことはーー『そういう』ことだって思っていいんだよな〜?)
    真緒の心臓は忙しなく動いていた。あんずはいつもの通りポーカーフェイスを保ったままで、何を考えているのか窺い知ることはできない。真緒は自分ばかりが焦っているようで、そのこともまた真緒の思考を混乱させた。
    「真緒くん」
    「うおっ⁉︎ど、どうした〜?」
    「部屋、通り過ぎてるよ」
    あんずがくいと真緒の服の裾を引っ張る。真緒は大袈裟に驚いてしまったあとで、あんずがルームキーの番号を示していることに気がついた。大きな声を出してしまったことに気恥ずかしさを覚えながら、真緒はその部屋のドアを開ける。ルームキーを指定の場所に挿すと、自動的に電気が付いた。
    尻込みする真緒をよそに、あんずはするりと部屋の中に入っていく。真緒はドギマギしながら着いていった。ドアが閉まる。ーー二人だけの空間になった。
    「真緒くん、ここに荷物置けるよ。お風呂入ってきたら?」
    「あんずが先入っていいよ!俺、佐賀美先生にまた連絡取るからさ」
    「そう?」
    あんずはいそいそと準備を始め、スーツケースから着替えを取り出してシャワールームに入って行ってしまった。ほどなくして、くぐもった水の音が聞こえてくる。真緒は部屋の真ん中にどんと置かれたダブルベッドに飛び込んで、叫び出したい気持ちをグッと堪え、静かにのたうち回った。
    (今のやり取りーー完全に『アレ』だったよな⁉︎もしそういう雰囲気になったら、どうしたらいいんだ⁉︎ていうか、1ヶ月って、世間的に見てどうなんだろう!あああ、間違うビジョンしか見えないっ!)
    真緒がベッドの端っこで葛藤を繰り返しているうちに、あんずはシャワーを浴び終わったようだ。ホテル備え付けの簡易的な寝巻きに身を包んで、ごめんね真緒くん、遅くなって、と言いながらぺたぺたと歩いてくる。白い頬はお湯のためにほんのり赤くなっていて、濡れた髪と相まって真緒を追い詰めた。真緒は弾かれたように立ち上がって、入れ替わりになるように風呂場に駆け込んだ。
    強めのシャワーを顔面に浴びながら、真緒は思考を停止させた。そしてひとりで、よし、と意気込んで浴室から出る。手早く着替えて、濡れた前髪を後ろに撫で付けた。
    「あんず、お待たせ〜……」
    ベッドルームからはテレビの音が聞こえる。そっと部屋を覗くと、大きなベッドの上には誰もいなかった。部屋に足を踏み入れて、壁際に沿ったソファーの上に、あんずがいることに気が付いた。ーー寝てる。
    長い髪はまだしっとりと濡れていた。決して広くはないソファーに、胎児のように足を縮めて器用に収まっている。このままじゃ風邪を引くし、朝起きた時に節々が痛むだろうーー真緒は、申し訳なく思いながらも、あんずの体を揺らして声をかけた。
    「お〜い、あんず?こんなところで寝たら風邪引くぞ」
    「うん……」
    「ベッドで寝たほうがいいよ。起きれるか?」
    「う……いいよ、真緒くん……。わたし、ここで……」
    あんずは寝ぼけたままのはっきりしない口調で、そう口にした。
    「体痛めるぞ?」
    「真緒くんの方が身長高いし……明日は撮影なのに、何かあったら大変だよ……」
    い、……一緒に寝るって選択肢はないんですかね……。真緒はその言葉をすんでのところで飲み込む。
    あんずらしいといえば、それはそうだ。たぶんここまで着いてきてくれたことも、真緒だけをホテルに押し込んだところで、真緒は自分だけが休むのはおかしいと言って引き下がらないと思っているからだろう。それは大正解ではあるのだが。
    「なあ、あんず」
    「なに?」
    「俺としては、あんずをこんなところで寝かせたくないんだけどな。その、アイドルとかプロデューサーじゃなくて、今はーー恋人、だし」
    「えっ」
    あんずは素っ頓狂な声を出して、目を数回瞬かせる。そして、今度は暫し考えた上でーーうん、と小さな声で同意を示した。どうやら目が覚めたようだ。
    「起きたか〜?それじゃ、一名様ご案内〜☆」
    「うわ!ちょっと、真緒くん」
    「そうだよ。うん、そうだ。ただのアイドルとプロデューサーが、二人で同じ部屋に泊まるわけないだろ〜?」
    「それはそうなんだけど!え?何の話の繋がり?」
    真緒はひとりでうんうんと頷いて、丸まったままのあんずの背中と太ももの辺りに手を回し、お姫様抱っこのようにしてベッドへ放り投げた。柔いスプリングがあんずの体を優しく受け止める。真緒は頭がぐつぐつ煮えたぎっているような気がした。それでも奥の方は冷静だ。自分達は恋人。それなら、同じベッドで寝ることに何の抵抗があるのだろうか。寝るだけだ。ただ寝るだけ。
    「…………真緒くんは緊張しないの?」
    「いやあ〜、それは……ちょっと言いづらいっていうか」
    「緊張してるのわたしだけなんだ。真緒くんは『こういうの』慣れてそうだもんね」
    「ちょっとあんずさんっ!?カッコつけたかっただけなんだよっ、俺も緊張してます〜!」
    「あはは」
    あんずのじとりのした目に焦って返事をすると、彼女は一転、声をあげて笑った。揶揄われてしまったらしい。真緒は深いため息を吐いたのち、小さく笑った。
    「寝ようか。明日、朝早いもんね」
    「そうだな。あんずは電気消した方が寝れるタイプか?どこか付けておいた方がいい?」
    「ベッドサイドのところが付いてると嬉しいな」
    「おー」
    言われた通りに電気を調整し、あんずと二人シーツに潜り込んだところで、真緒はふと考える。なんか今のやり取り、すごいカレカノっぽいな……。事実として付き合っているのだから当然ではあるが。
    部屋は静まり返り、お互いが身じろぎをするときの布擦れの音しか聞こえない。
    「真緒くん、起きてる?」
    「うん」
    あんずの声が聞こえた。もちろん、とは言えずに真緒は小さく返事をする。シーツが擦れる音がして、あんずが体をこちらに向けた気配がした。心臓が大きく音を鳴らす。真緒も彼女の方へ体を向けた。
    枕元の仄かな明かりに照らされて、あんずの顔がすぐそばに見える。真緒は無意識に唾を飲んだ。
    「生徒会長の仕事、大変だよね」
    「あー、うん。でもまだかいちょ……天祥院先輩に色々聞けるから、そこは助かってるんだよな。3年生になったらって思うと本当に頭が痛いよ」
    「そうだよね。三年生に、なったら……」
    あんずはそこで口を閉ざした。僅かな明かりのせいで分かりにくいが、その表情が曇っているように真緒は感じた。その続きを代弁できると思って、真緒は言った。
    「三年生になったらさ、色々変わるよな。同じクラス……というか、同じ学科でも無くなっちゃうし。ESってどんな感じなのか、今から不安だよ」
    「……そうだね。でも、真緒くんとみんななら、大丈夫だよ」
    「はは、あいつらは頼もしいからな〜。でもさ、俺は」
    ーーやっぱりあんずと会えなくなるってことが、不安だよ。
    この子は、俺のことを、アイドルのことを、誰よりも深く案じてくれている。だからこそ、みんなの前では自分のことを後回しにしちゃうんだ。でも俺は、この子の恋人だからーーあんずの不安や本音の全部を、唯一受け止められる権利を手にしているんだから。
    真緒が先に不安を口にしたことで、あんずの瞳が揺らめいた。睫毛がふるふると揺れて、わたしも、と小さく呟く。ーーこうやって、みんなのお仕事についていくこともできなくなるのかな。
    その小さな声にたまらなくなって、真緒は手を伸ばし、あんずの小さな手を握り込んだ。

    「変わることが嫌なわけじゃないんだよな。ただ、知らないところに進んでいくのが不安なんだ。街灯のない暗い道を歩くのと一緒でさ」
    「うん」
    「だけどさ……。ほら、そこは俺を頼ってほしいわけですよ」
    ーー懐中電灯だし。
    真緒は続けた言葉に、あんずは一瞬なにかを言い返そうとしてーー彼の表情を見て、やめた。そこには卑屈であるような、自分を下げるような面持ちは無かったからだ。
    「星よりもずっと身近だろ〜?スイッチを入れるだけで、すぐにバッチリ明るくなるぞ。……って、まあ、半分くらい冗談なんだけど!素直に言うとさ」
    やっぱり俺には、何でも言ってほしいな。やっぱり、彼氏ですし。

    真緒は空いている方の腕を伸ばして、あんずの頬にそっと手を添える。あんずは笑って、そのあたたかな手に寄り添った。ーー真緒くんの手、大きいなあ。
    「ありがとう、真緒くん。真緒くんも……何かあったら、すぐに話してね」「はは、もちろん!毎日、話したいことばかりだよ」繋いだ手から熱が伝わって、暖かな世界にまどろんでいく。どちらともなく、目を閉じた。大切な人が歩んでいく道を、もっと確かな灯りで照らしたい。月よりも、星よりも。
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    s_pa_de_

    DONE付き合いたての真緒とあんずが、交通トラブルで同じホテルの一室に泊まることになる話。ズ!とズ!!の間くらいの話です。
    星灯りの未来を(まおあん)街灯で照らされた道に、スーツケースのタイヤが転がる小さな音だけが聞こえる。駅前だというのにすれ違う人はまばらで、通りを埋める店は軒並みシャッターが閉められていた。時間は夜の九時。そんな、夜中でもないような時間に、全く人気がなくなってしまうような田舎の駅前を、あんずと真緒はお互いスーツケースを引きながら歩いているのであった。
    「あっ、あれホテルだよ」
    「んっ⁉︎あ、そ、そうだな!」
    「真緒くん待ってて。聞いてくる」
    あんずはその場にスーツケースを置いて、少し離れたところで煌々と輝くビジネスホテルへと駆け出していった。その後ろ姿を真緒はぼうっと見つめる。
    ーーこれ結構、やばいんじゃないか?
    事の発端は地方での仕事の依頼が入ったことにある。撮影地近くのホテルに前泊しようということになり、そのつもりで予定を練っていたのだが、真緒は急遽生徒会長の仕事で、身動きが取れなくなってしまったのであった。それをあんずが手伝う形で、夜に宿泊施設に到着できるように遅れて電車に乗り込んだ。それが、野生動物と衝突したとか何とかで止まってしまい、スーツケースひとつで見知らぬ田舎町に放り出されたのが三十分ほど前の話だった。
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