辻バレからの捕縛からのVRC収容からの身体検査後。
「ヨモツザカ、これはどういうことじゃ」
「どうもこうもない。辻斬りナギリは放っておいてもそう長くは生きられん、という報告書だ」
「じゃから、なぜ」
「チッ、見て分からんのか愚物。
これはヤツの全身を吸血鬼用のスキャニング装置を使って撮影したものだ。
見ろ。俺様もさすがに驚いたが、奴の中身は心臓と血管を残してほぼ空っぽだ。これまでにも一部の下等吸血鬼においては臓器がない個体もままいたが、ヒューマン型では実に珍しい。
食事を常としないヒューマン型には胃や腸の衰退がみられる個体もあるにはあるが、ない、という事例はいまのところ報告されていない」
「あやつは心臓だけで生きている、と?」
「そうだ。ちなみにその心臓も胸部切開で確認したところ僅かだが灰化の兆候がある」
「切開じゃと」
「本人と貴様の上からの許可は得たぞ。麻酔もした。残念ながら合法だ」
「・・・灰化とは」
「そのままの意味だ。吸血鬼が死ぬと灰になるのと同じように臓器が死に、灰になる。
そのうち奴の心臓は機能を失い、そして死ぬ。進行具合から見て、そう長くはかからんだろうな」
「・・・そうか」
「ちなみに、心臓以外の臓器は自分で抉り取ったと言っていた」
「は?自分で?それはどういう」
「分霊体を作る材料に使用した、だそうだ。
現在、奴は分霊体を失っているが、もともと分霊体は骨と臓器によって作られそれ自体にそれほどの強度はないらしい。
あくまでも本体が受けたダメージを肩代わりする依り代であり、蓄積されると壊れる。だから新しいモノを作る度に新しい臓器が必要になり、残ったのが心臓というわけだ」
さすがに心臓がなければ生きられんから、奴はもう分霊体を作れんのさ、とヨモツザカは言った。
辻斬りナギリは、そう遠くない未来に死ぬ。
ヒヨシはこの事実を、ただひたすら辻斬り逮捕に心を燃やしていた部下へどう伝えればいいのかと思いながら、報告書を握りしめた。