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    yukihina49

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    タイプリ(暁理前提の理ノイ。理←ノイの片想い)

    ※2月14日にあげたものに、多めに加筆修正を加えて再掲いたしました。

    本編後、勝ち逃げされたなあと思うノイくんの話。

    日中は隊員たちで賑わっている休憩スペースも、この時間帯はしんと静まり返っている。
    自販機の液晶に表示された画像の中から、僕はブラックコーヒーを選択した。ガコンと音を立てて落ちてきた黒い缶は、思ったよりも熱い。
    「理人さんは何にします?」
    返事はない。
    先にベンチに座っていた理人さんは、ぼんやりとした様子でどこかを見ていた。
    「理人さん!」
    もう一度声をかけると、理人さんはびくりと肩を震わせてから僕の方を見た。
    「すまない。じゃあ、ノイと同じものを頼む」
    「わかりました」
    真夜中の休憩スペースに、再度ガコンという音が響いた。

    缶コーヒーを片手に、ぽつりぽつりと雑談が始まる。
    「にしても映画じゃないんだからさあ」
    「まあ、そう言うな」
    話題は、先程まで対応していた任務の事だ。
    未来の科学技術を魔法と称してカルト教団を立ち上げていたタイムジャッカー。奴を追って僕たちは十九世紀末のロンドンを駆け抜けた。
    アンドロイドや信者達の妨害に遭いながらも、どうにか奴を追い詰めることに成功したのだが……。
    『建物に仕掛けた爆弾を起動しました。残り五分で爆発します』
    などと言い出したのだから、たまったもんじゃない。
    「ノイが爆弾を解除してくれたお陰で無事に任務を終えることができたんだ。ありがとう、ノイ」
    理人さんの言葉に思わず口角が上がってしまいそうになった。嬉しいけれど、それを表に出すわけにはいかない。
    「その言葉、そっくりそのまま返しますよ。理人さんのおかげで作業に集中できたんで」
    現TPA最強は伊達じゃない。
    僕が爆弾の解除に取り組んでいる間、理人さんは残りのアンドロイドと信者を一手に引き受けてくれた。
    もしも僕一人だったら、今こうしてコーヒーを飲んではいないだろう。
    「そうか」
    理人さんはそう言うと微かにはにかんだ。
    その後も話題を切り替えながら雑談は続く。
    「ここ最近立て込んでいるが、休めているか?」
    「ちゃんと休んでいるので大丈夫です。これくらいどうってことないですよ」
    TPAは元々激務だ。だが、理人さんの言うように僕達は以前にも増して多忙な日々を送っている。
    これがアスミルの開発を阻止した影響なのかは、まだ分からない。
    「そう言う理人さんこそ、大丈夫ですか?」
    「自分か?はは、心配するな。これくらいの忙しさには慣れているからな」
    なんてことない。そう笑う理人さんに、胸の奥が微かに痛んだ。
    「そろそろ戻るが、ノイはどうする?」
    「先に戻っててください。お疲れさまでした」
    一人ベンチに残った僕は、すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干した。
    (バレてないとでも思ってんのかな)
    あの時、暁さんに向けて引き金を引いてから、理人さんは吹っ切れたように振る舞い続けている。
    傷ついてなんていません。引きずっていません。もう大丈夫です。とでも言うように笑って見せるのだ。
    そうじゃないことくらいすぐに分かった。だって僕は理人さんのバディだから。
    (僕から休むように頼んでも聞かないだろうしな)
    理人さんは時折ぼんやりとした様子でどこかを見るようになった。
    視線の先にあるのは多分――。
    (任務に支障は出てないから良いけど)
    小さくため息を吐きながら、僕は空き缶をゴミ箱へと押し込んだ。

    数日後。

    「うっわ、最悪」
    天気予報が盛大に外れたらしい。
    任務を終えて元の時代へ戻ると、ザーザーと激しい雨が降っていた。
    本部までは少し距離がある。できれば濡れるのは避けたい。
    「理人さん、傘持ってませんか?」
    返事はない。
    雨音で聞こえなかったのだろうか?
    「理人さ……」
    背筋がすっと冷たくなるのを感じた。
    濡れた髪が顔に張り付くのも気にせずに、理人さんはただその場に立ち尽くしていた。 虚ろな瞳は、やはりどこかを見ている。
    このままにしておいたら、連れ去られてしまうんじゃないか。そんな気すらした。
    (やっぱり大丈夫じゃないじゃん)
    理人さんの視線の先にあるのは、多分、暁さんと過ごした日々だ。
    「理人さん」
    僕は、冷たくなってしまっている理人さんの手を掴んだ。
    「…………ノイ?」
    理人さんがゆっくりと僕を見る。 目もとを濡らしているのが雨なのか涙なのかを判断することはできなかった。
    「走るよ。このまま風邪をひきたくないでしょ」
    理人さんの手を引いて、僕は雨の中を走り出した。
    (勝ち逃げじゃん、こんなの)
    暁さんは、いつまでもいつまでも消えない傷のように理人さんの中に残り続けていくのだろう。
    胸の奥がちりちりと焼けるように痛むのを感じながら、僕は鉛色の空を睨み付けた。
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