Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    kinopon_room

    @kinopon_room

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 9

    kinopon_room

    ☆quiet follow

    湯香の問いかけ/キィ蛍


    キィニチくんと蛍ちゃんの、お風呂上がりのひと幕です。バージョン5.4の銭湯イベント楽しみですね〜!

    ※洞天の温泉まわりを捏造しています

    #キィ蛍
    ##キィ蛍

    【キィ蛍】湯香の問いかけ 冷えたショコアトゥル水の甘みが乾いた喉に染み渡る。風呂上がりともなれば尚更だ。
     
     洞天の邸宅からやや離れた場所に設けられた温泉で身を清めたキィニチは、隣接した休憩場所で涼を取っていた。流泉の衆ほどではないものの、一般的な家屋に備え付けられているものより数倍広い湯船がいくつも点在し、にごり湯やバブル湯など、なかなかに趣向を凝らしてあるのが特徴だ。あちこち回ってみたくなるが、水温が高めの為、湯あたりには十分気をつけなければならない。

    「……ふう」

     最後の数滴を流し込み、空になったグラスを洗って所定の位置に片付ける。そろそろか、と新しいグラスを手に取ったところで、女湯の暖簾の奥からぺたぺたと足音が近づいてくるのに気づいた。

    「ごめん、待たせちゃった?」
    「いや、俺もついさっき来たところだ。お前も飲むか?」

     戻ってきたのは、備え付けの浴衣に身を包んだ蛍だ。ショコアトゥル水を注いだグラスを目の前に掲げると、上気した頬を分かりやすく緩めた蛍が受け取ったそれにすぐさま口をつける。ゴクゴクと勢いよく呷り、半分ほど減ったところでぷは、と息を漏らした。

    「いい飲みっぷりだな」
    「うん、もう喉カラカラで……んぐ、」

     残りの半分もあっという間に飲み干し、テーブルにグラスが置かれる。これだけ美味しそうに味わってくれるなら、準備しておいた甲斐があったというものだ。まだ熱が引かない様子の彼女に立てかけてあった団扇で風を送ってやると、心地よさそうに瞳が細められる。

    「何から何までありがとう……」
    「それはこっちの台詞だ。お陰でリラックスできた」
    「本当?」
    「ああ。特に、日替わりの湯が良かったな」

    植物などの精油や自然素材を利用した湯は、毎日ランダムで入れ替わっているらしい。今日は偶然にもナタの森林の香りとのことだったが、懸木の民の集落付近に群生する木々の深い香りがして、よりくつろげた気がする。

    「良かった。……実はね、男湯と女湯で香りが違うんだよ」
    「そうなのか?じゃあ……」 

     そっちは、どんな。そんな問いかけが喉まで出かかって、止まる。彼女の白い手がいきなりこちらに向かって伸ばされたからだ。浴衣の袖からのぞく細腕がキィニチの首に絡みつき、そのままぐい、と引き寄せられれば、たちまち二人の距離がゼロになる。鼓動が早くなるのを、抑えられない。

    「っ、ほた」
    「当ててみて」
     
     キィニチも知ってるナタの香りだよ、という楽しげな囁きとともに、湯上がりの熱を纏う柔らかな肢体が薄い布越しに押し付けられた。彼女本来の匂いとは別のいい香りが鼻先を掠め、同時にキィニチの心に火をつけていく。 
     いいだろう。だが、こちらにも考えがある。答えてみせろというなら、正解の景品、もしくは報酬があって然るべきだ。
     煽られてばかりは性にあわないと、彼女の後頭部に触れ、額同士をすり合わせる。急激に縮まった距離に、いたずらな色を灯していた金色の大きな瞳が見開かれた。
     
    「……もし当てたら」
     
     お前の部屋に行ってもいいか。声を落としながら、添えた手を露出した襟足、うなじへと順に滑らせる。びくりと震える肩には触れずに浴衣の衣紋へ指をかけ、くい、と軽く引けば、恋人の顔がじわじわと赤く色付いた。その様に自然と喉が鳴る。自分から仕掛けたくせに、やり返されるのにはてんで弱い。そんな風だから、いじめたくなるというのに。
     
    「…………は、」
    「ん?」
    「外れたら……来てくれないの?」

     うろうろと視線を彷徨わせたのちにぽつりとこぼされた言葉に、一瞬思考が停止する。前言撤回。とんでもないカウンターを返してくることも、稀にだが、ある。今この時のように。
     だが、見方を変えればこれはチャンスでもあった。彼女がそのつもりなら、もう少し踏み込んだ要求をしてみてもいいだろう。例えば、そう。
     
    「それなら……---」
     
     耳に触れるぎりぎりまで口を寄せ、強請る。この場に二人きりとはいえ、大っぴらに口に出すのは憚られる内容だ。吐息ばかりの声とも言えない声だったが、赤みを増した彼女の顔を見る限り、しっかりと伝わったようだ。
     
    「だめか?」
    「…………あ、当てられたら、だからね」

     消え入りそうな声で呟き、視線をそらされる。了承は得られた。そのことに満足しつつ、最後の確認のためにすん、と鼻を鳴らす。ほんのりと漂う湯の香りの正体は、ナタに住まう誰もが嗅ぎ慣れたもので、すでに見当はついている。間違える方が難しいくらいに。だから、

    「分かった。……答えは、」

     恋人も、正解のご褒美も、丸ごといただく。それだけのことだ。

     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤😍👏💖😭👏💖👏💕💕🌋❤👏👍💖💖💖🙏💕💕💕🙏🙏🙏🙏💖☺💚💛🙏👏😭😭😭💘💯😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭💗💯💕👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works