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    銀高真ん中バースデーおめでとうございます!


    ※新刊の『銀高新婚子育本』から抜粋しております。
    ※こちらの銀高は地獄で再会後ひょんなことから現世へと帰ってきた設定です。

    銀高真ん中バースデーおめでとう!! 相模港から弁財船に乗り東海道を経由して長門の港で降りた二人は、慣れた足取りで萩の道を歩いた。この地から離れたのは十五年以上前の話だが、足はしっかりと道順を覚えている。春は桜が咲き、夏は新緑に囲まれ、秋は紅葉を眺めて、冬は霜を見つめた。季節の移ろいを感じ、血の繋がらない家族のような奴らと肩を並べ身を寄せ合っていた。あの時はこの小さな萩という町が全てであり、この町で親愛なる師に武士道を習いどこぞの誰かと所帯を持って天寿を全うする、或いは講道館時代に教授たちに言われていたように出仕を薦められるのではないかなどと考えていたような気がする。出仕は気が進まないが松陽を立てられるのならばと話に乗っていたかもしれない。
     しかし現実は、全てであった松下村塾が燃え尽き、師を奪われ、萩を離れ江戸へと行き戦に参加した。そして師と友を失った。それから十二年後のターミナル戦前に銀時と高杉は松下村塾跡地で再会こそしたが、二人揃ってこの地へと赴いたのは戦争前だったことを考えるとなんだか感慨深い。
     二人分の影が並んで地に描かれている様に銀時の口許は緩み、鼻歌を奏でてしまいそうなところをぐっと堪えて、伸びた影を指さした。

    「この影見てみろ。やっぱりお前全然身長伸びてねえじゃん」
    「伸びたわ」

     照れ隠しも交えて揶揄すれば、隣から肘で強く突かれる。わざとらしくよろけるフリをして、腕を掻っ攫い勢いに任せて手を繋いだ。地に浮かぶふたつの影が先ほどよりも距離を近くにさせる。自ら手を繋いでおきながら耳と頬を赤くさせた銀時は、バレないようにそっぽを向いた。田舎とはいえいつ町人とすれ違うかわからない故に、振り解かれれば甘んじて受けようと思ったが、高杉は振り解くどころか繋がれた手に力を込めた。どういう風の吹き回しなのだと聞いてみたい気持ちもあるが、手を繋いでいることを改めて口に出すのはなんだか気恥ずかしく、銀時も更に手に力を込めてじんわりと手汗をにじませることしかできなかった。
     二人並んで歩いたことは幾度となくあるし、手も繋いだこともある。直近でいえば、体を重ねたときに何度か掌の温度を共有しあった。にもかかわらず、こんなにも気まずいのはどうしてだろうか。銀時は必死に話題を探して、あれやこれやと脳内の引き出しを開け閉めしながら、脳裏に浮かぶは角材で作った簡易な墓の前で手を合わせる高杉の背中である。
     聞けばあの墓は兄弟子の墓なのだという。世界を壊すと言いながらも兄弟子を萩の地に連れていきわざわざ墓を作ってしまうこの男の根は存外優しく情に厚い。しかも事情があるとはいえ、松陽を連れ攫い高杉の左目を小刀で刺し体を錫杖で貫いた男だというのに。ただ、師の大事なものを護るために犠牲にしなければいけないものがあることを痛いほど分かっている銀時は、江戸城や伊賀の地、そして萩で会った男を完全に憎むことができない。きっと高杉も同じなのだろう。

    「そろそろ着くな」
    「あァ」

     春夏秋冬を感じられる木のトンネルがふたりを出迎える。この道を通れば、立派な松の木が立ち小さくも様々な笑顔が飛び交っていた松下村塾が見えてくるはずだ。
     道が開け、陽光がふたりを包む。眩さに手で笠を作り皴を寄せ、そして松下村塾跡地を眺めた。今となっては何も残らない空き地にて、角材が二本立っている。一本は高杉が師匠と兄弟子のために建てた墓で、もう一本の墓は桂と坂本が高杉のために建てた墓だという。銀時の死をきっかけに、一緒に入れてやるついでに墓石に変えようと計画があったのだとか。

    「先生、ただいま」
    「なんか自分の墓に手合わせるのってシュールだな」

     二本の墓の前で膝を折る二人は傍から見れば立派な墓参りであるが、一本は自分たちの墓のため近日に撤去予定とする。
     高杉は持ってきた風呂敷から花立てと香炉を取り出して慣れた手つきで墓の周りを整える。死者の名前が書かれた墓標すらもなく簡易的にしか作られなかった角材の墓だというのに、定期的に清掃が施されているのは、ここを代わりに守ってくれた桂や坂本、鬼兵隊の二人のおかげだろう。高杉が三具足を用意している間、銀時は懐から一枚の紙を取り出し折り目を伸ばしていた。



    「おお、先に着いていたか!」

     ふと、後ろから陽気な声が響き、銀時と高杉は同時に振り向いた。そこには右手を挙げて手を振りながらこちらへと歩いてくるもうひとりの幼馴染――桂小太郎の姿がある。呼んだのは自分たちであるのに、二人揃って「ゲッ」と顔を顰めるものだから、「なんでだ!」と咆哮する姿は相変わらずだった。向こう側には見慣れた赤い艦隊が飛んでおり、甲板からは坂本が手を振っている。
    「あれ、辰馬は来ねえの?」
     船を指さしながら銀時が問いかければ、桂はうむと一度頷いて腕を組んだ。

    坂本あいつはせっかく先生の前なのだからまずは三人で挨拶してこいと言ってくれてな。俺だけパラシュートを使って降りてきた次第だ」
    「相変わらずおめェはルパンか」

     指で上から下へと下りていく様を表現した桂に、銀時がつかさず口を挟む。桂が勝気な笑みを見せたために臀部を蹴り飛ばしたが。
     そういえば、更地となり果て代わりに墓が立ったこの場所に三人揃うのは初めてだった。ただ、なかなか高杉の墓へと足を運ぼうとしない銀時と打って変わって、桂は何度もこの場所へと赴いては墓場を掃除したし手入れしたりと手慣れたものだった。

    「ここで三人揃うのは久しいな。……松下村塾吉田松陽が弟子、桂小太郎。ただいま戻りました」

     桂は墓の前で膝をついて手を合わせた。目を瞑り軽く頭を下げる一連の流れは川のせせらぎのように美しい。

    「同じく、坂田銀時」
    「同じく、高杉晋助」

     見守っていた銀時と高杉も桂の隣に腰を下ろすと同じように手を合わせて目を瞑った。あの時代から比べれば、身長が伸び体格に恵まれ、剣術も何もかもが成長したはずだ。




              **

    「ところで、今日は何用でここを集合場所に選んだのだ? さては同窓会か!?」

     師への挨拶を済ませ少しだけしんみりとした雰囲気に包まれる三人だが、それらを壊すようにまず口を開いたのは桂であった。元より、かつての友と懐かしむ場を重んじたり大事にする桂にとって、同窓会のお誘いは手放しで喜んでしまう。先に言ってくれれば余興のために一発芸のひとつやふたつを仕込んだおこうと思っていたのに、本当あんたたちは母さんへの連絡がいつも遅いんだから――とコントを披露しながら目を輝かせている。桂小太郎とは、俊才でかつ冷静に物事が判断できると思われがちだが、意外にも猪突猛進タイプ。「こうしてはおれん。坂本から一発芸用の道具を貸してもらわねばな」と、今にも飛び出し走り出してしまいそうな桂を、銀時が「ちっげーよ!!」と頭を叩いて止める。長髪を揺らし目を剥きながら振り向いた桂を気にせず、銀時は言葉を継ぐ。桂の後ろにはこちらに歩みを進めている坂本が見えた。

    「実はよ、俺たち松陽に報告しに来たんだよ」
    「報告?」

     銀時は懐から一枚の紙を取り出すと皴を伸ばしながらゆっくりと開き桂に渡した。婚姻届と書かれた一枚の紙を桂は慈しむように見つめる。夫の欄にはきちんと『坂田銀時』妻の欄に『高杉晋助』と書いてあるが、実はこの婚姻届が二枚目だということを桂は知らない。印鑑を押す場所にはすでに鬼兵隊と万事屋の判子が押してあり、住所欄や本籍など、ほとんど完成された状態であったが、証人の欄だけが空白となっている。

    「で、だ。高杉と話し合った結果、ここにお前と辰馬の名前を書いてもらおうと思ってよ」
    「俺たちの名を?」
    「おう。そして、完成した婚姻届これはヅラに提出しようってなったわけだ」

     役所なんかに出せねえしな――と頬を掻きながらそっぽを向けた銀時に桂は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。高杉は煙管を咥えて何も言わずに桂を見据えている。

    「ヅラじゃない桂だ。貴様ら……」

     昔から見守ってきた幼馴染ふたりの祝杯。顔を見合わせれば喧嘩するふたりに頭を悩ませ、時には焦れったさにため息を吐き、坂本の両頬を犠牲にしてでも止めた。松陽の介抱から袂を分かちあった後も、桂はなんとか三人昔のように戻られないかと奮闘したが、紅桜の一件を機に三人は本格的に決別をした。それでも烙陽を経て攘夷四天王が揃い、ターミナル戦で三人の決別を清算した。
     桂にとっては家族のようなふたりが本当に家族になった。そして、今ふたりの門出をこうして見守ることができた。

    「そうか……そうだったな。露払いは俺が務めるって言っていたな」
    「おいヅラ、まさか泣きそうになってんのかあ?」
    「ヅラじゃない桂だ。俺が泣いているだと? 武士たるものそう易々と泣きはしない。そうだな、手の焼ける大事な幼馴染たちが結婚報告をしてくるほどのビックなニュースが泣ければ俺は泣かまいよ」
    「そうかよ」
    「……ヅラ。頼まァ」

     穏やかにこちらを見つめる三つの目と紫煙と共に吐き出された言葉に、桂は震える唇を噛んだ。口許を結び双眸を伏せるが、堪えられなかった涙が頬に流れた。ふたつの手が桂の背中に伸びる。

    「ヅラじゃない……お前たちの証人だ」




              **

     証人欄に坂本と桂の名を書いてもらい桂へと提出したふたりは、松陽の墓の前でまた膝をついていた。桂といえば、大事そうに懐に仕舞い、坂本と共に船へと戻っていった。きっと気を利かせたのだろうと銀時と高杉はらしくもないと笑いながら背中を見送った。
     四つの酒器に酒が注がれ、ふたつはふたりの手にもうふたつは墓の前に並んでいる。

    「つーわけだ、松陽。俺たち結婚したんだ」

     銀時が手に持ったグラスの底で地に置かれたグラスの淵をかつんと当てれば、カンっと子気味いい音が辺りに響いた。高杉も同様に、兄弟子のために差し出した酒器にグラスを当てる。そしてふたりで同時に飲み干した。

    「さて、報告も終わったし帰るか」

     土で汚れた膝の土を払いながら先に立ち上がった銀時は、高杉へと手を差し伸べる。「ん、」と眼前に広がる掌に喉の奥で笑うと、その手に導かれるように腕を伸ばした。ふたりの手の皴が重なる。




     行き同様、帰りも影を揺らしながらゆったりと足を進める。

    「俺たちも辰馬の船に乗らせてもらえばよかったな。失敗したぜ」

     萩から江戸へと行くには再度船に乗らなければいけなく、随分と長旅になりそうだ。銀時は長い道のりを考えて億劫そうにため息を吐くが、実のところこのゆったりとした時間は嫌いではない。特に高杉と共に並んで萩の地を歩けることに僥倖さえ芽生えてくる。
     幼少時代に何度も通った道だが一歩の幅が違う。小さい体では三歩必要だった距離が、一歩で事足りてしまう。体の小ささに焦れったさを抱き、抗うように走りあった道だ。

    「この光景もよ、あの時代には当たり前のものだったんだよな」

     松下村塾までの道のりを囲んだ花畑はあの時代からなにも変わっていない。野菊や孔雀草や秋明菊など見事な花が咲き、様々な色と共にたくさんの花の香りが鼻腔の奥を満たす。昔はこの見事な光景のありがたみを気にも留めずに生きていた。昔は、師と共にいられることに、相弟子とバカやれることの僥倖に気づかずに生きてきた。今更そんなことに気づくなんて、年はとってみるものだ。

    「あ、高杉ちょっと待って」

     銀時は高杉を引き留めると、なるべく花を踏まないようにして畑の中へと足を進めていく。高杉も同じように銀時の後を続いた。踝に草が触れ着物の裾を花が揺らす。銀色の御髪が陽光に反射し、たくさんの花びらにきらきらと降りかかる。ここには向日葵は咲いてないのに、花たちが向日葵のように銀時に向って咲いているように見えた。まるで、銀時をモデルとした一枚の絵画のようだ。

    「いつからてめェは花なんぞ似合う男になったかねェ」
    「あ? なんか言った?」
    「なんでもあるめーよ」

     喉を震わせて笑う高杉に銀時は首を傾げるが、正解は教えてもらいそうにない。「まあいいや」といぶかし気にしながらも納得した銀時は、一本の花の前で膝を折った。茎の部分を掴み、プチっと音を鳴らして再度立ち上がる。

    「高杉、左手出して」
    「あ? なんでだよ」
    「いいから! ったく……」

     出してと頼んでおきながらかっ攫った左手を宙に放置し、一度輪郭を確かめるように薬指を撫でると先ほど拝借した一本の花を指に巻き付ける。小さな水色の花の名を銀時も高杉も知らないが、ふたりにとっては重要なことでない。

    「なんの真似だ」
    「ポエミーのくせにこういうことはやっぱり鈍いのな。……言っただろ。俺ァ、てめェとこういうこともやってみたいって」
    「柄にもねェこと言ってんじゃねェ」
    「ぼんぼんが金なし野郎のところに嫁ぐだなんてなあ。後悔しても知らねーよ? 返品はなしだ。俺はてめェを離さないからな」

     左手に添えられた手を握り、高杉は自身へと銀時を抱き寄せた。「うぉっ、」と慌てた声が耳元に響き、傾いた体を胸元で支えて背中に腕を回す。

    「嫁ぐ、ねェ……。俺ァてめェの元に嫁いだ覚えはあるめェよ。てめェが俺の元に来たんだ」
    「はあ?」
    「そもそも先に俺から離れたのはてめェだぜ? 銀時よォ」
    「はあ……、そうかよ」

     自身の背中にも腕が回ってきたことを体温で確認したあと、銀時の肩に顔を乗せて目を瞑る。薬指を顔に近づければ甘い香りが鼻先に触れた。銀時の砂糖みたいな甘い匂いと薬指に巻かれた花の香り。どちらも安心できる太陽のような香りが、昔から好きだった。
     肩にぐりぐりと押し付けられた頭を撫でれば肩口がじわりと濡れていく。

    「またてめェは……」
    「ちげーよ。これは鼻水だ」
    「余計に汚ェ」
    「おい」
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