2年後の船 山桜の花言葉を知っていますか――。ふと、過った言葉は、松下村塾の縁側で涼んでいた時に、敷地内にある新緑の香りが漂う樹木を眺めながら師が問いかけたものだった。たしか「分かりません」と素直に答えた気がする。桜の季節なんてとうに過ぎていて、青々とした木が雨上がりの湿った風に吹かれながらザアザアと音を立てていたものだから、随分と季節外れだと首を傾げた記憶がある。だからこそ、素直に分かりませんと答えたのかもしれない。
松陽はこちらを見詰める双眸に、にこりと嫋やかな笑みを浮かべると「山桜の花言葉は、」と続けたはずだ。不明瞭な瞼の裏で口許がぱくぱくと開閉するが、生憎音は聞こえない。
(なんて、言っていたか……)
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