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    フシギ

    捧げ用にポイピ活用してみた。
    話し掛けるのは、あまりにも恐れ多いけど、捧げ品はお届けしたい。

    宿虎はまだにわか勢の域を出てないので、そっと主力さまたちを見守ることに。

    作品は見てもらってなんぼじゃ、と思い始めたので、ちょっとずつ公開。

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    POIPOI 4

    フシギ

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    あすかさまへの献上品、第二弾です。
    公開許可いただきましたので、全体公開致しました。

    #宿虎
    sukuita

    無垢を擁いて ――某日、都立呪術高等専門学校所属、虎杖悠仁の秘匿死刑が決行された。

     紆余曲折を経て、千年に一度とされた両面宿儺の器――悠仁は、呪いの王にして最凶最悪最上の呪い、両面宿儺の指二十本を無事その身へ納めた。
     当初より、悠仁の死刑は両面宿儺の指をすべて取り込ませるまで、という執行猶予だった。
     凶悪な呪いをひとつ世から排除出来るならと、呪術界上層部は悠仁の身柄を即座に拘束し、幾重の封を施して処刑の日時まで牢へ幽閉した。
     当然、五条悟ら悠仁の知己の面会が許されるわけはなく、五条も悠仁と再会を果たしたのは、死刑執行の日だった。
     現呪術界に於いて、最強を謳う五条が、悠仁の死刑執行人だったからだ。
     生徒ひとり助けられない無力さに、五条は小刀の呪具を手に、ミイラの如く全身を呪符で拘束される悠仁を前に、言葉を交わす。
    「――悠仁、ゴメンね」
    「……その声、五条、先生?」
    「うん。声、掠れてるね。水も飲ませてもらえないの?」
    「ここ入れられてからは、なんもね。声出したのも、久しぶりな気がする」
    「そう。最期なのに、こんな扱いで、本当にすまない」
    「五条先生が謝ることじゃないじゃん」
    「いいや、これは僕が謝るべきことだ。こんなの、縦社会の汚泥でしかないよ」
    「先生。責めなくていいよ。それに俺の死刑、最初から決まってたことだし」
    「それでも、納得してるわけじゃない」
    「俺もそうだけど、もう……呑み込んだ」
    「悠仁……。宿儺はどうしてるの? 随分大人しいけど」
    「宿儺? いまは静かに、――待ってる」
    「あの宿儺が? 待ってるって、死ぬのを?」
    「そりゃ、最初めっちゃ暴れてたけど。なんか、俺の未来を寄越せって云うから、いいよって云ったら、大人しくなった」
    「未来を寄越せって、宿儺がそう云ったの?」
    「うん、そだよ。でもおかしいっしょ? 俺、アイツ道連れに死ぬのに。未来も何も失いのに」
     失いものが、慾しいなんて――。
    「そういえばさ、伏黒たちは元気?」
    「恵も、野薔薇も、悠仁に会いたがってたよ」
    「うん。俺も会いたかった。でも……、ゴメン。元気で、長生きしろって云っといて」
    「判った。でもそれ、僕にはないわけ?」
    「あはは。先生もみんなも、長生きして、元気で。俺たちの後輩、ジャンジャン育ててよ!」
    「そのつもりだよ。――悠仁、そろそろだ」
    「そっか。……ねぇ、先生」
    「何?」
    「一撃でさ、お願い出来る?」
    「そりゃもちろん♪ 僕だって苦しませずに送ってあげたいからね」
    「よろしくおなしゃす!」
    「それじゃあ、悠仁。おやすみ――」
    「おやすみ、先生」
     ドス、と胸へと深く刃が突き立てられ、悠仁は抵抗することなく意識を手放した。
     ――消えゆく意識の中。誰かに手を握られ、引き寄せられ、抱きしめられたのを、ぼんやりと感じた。


         □     ■     □


    「よう、虎杖。久しぶり。元気だった?」
    「……釘崎、それはなんか違くないか」
    「いいのよ。私ら、ここでしかもうコイツに直接会えないんだから。決めてたのよ、そう云ってやろうって」
    「そうか」
     人体が焼けた臭いが残る収骨室にて、五条を筆頭に、悠仁と同期の伏黒恵、釘崎野薔薇、一学年上の乙骨憂太 、禪院真希、狗巻棘、パンダが顔を揃え、悠仁の収骨を行なおうとしている。
     これは、死に際には立ち会わさせられなかった恵たちに、五条がせめてもと、もぎ取った権利だ。第一、両面宿儺を恐れて悠仁の遺体ですら、遠巻きにしている上層部に収骨を任せれば、適当にされるのは目に見えていた。
     ならば悼む場と最期の面会を、生徒たちに与えたところでなんら問題はない。もちろん、これは任意での参加なので、強制ではない。姉妹校である京都校の東堂葵も収骨へ参列したいとあったが、任務の都合により、本日は欠席である。
    「いくら、すじこ」
    「うんうん。それじゃ、始めようか。硝子、手順指導ヨロシク★」
    「キミはこの場でも適当だな。……足から順に入れていくから、まずはふたり一組で大きい骨を御骨箸で拾って、橋渡しにしてくれ」
     家入の指示で収骨をしていき、下半身が終わる頃、伏黒が怪訝な声を出した。
    「なんだ、これ……?」
    「恵、どうしたの?」
    「これ。この胸と腹の辺りにある骨なんですが……」
     崩れた肋に埋もれながら、明らかに違うと判る骨が散乱している。それを家入が御骨箸でひとつ摘み、検分するまでもなくその骨がどの部位か言葉にする。
    「これは――指の骨だね」
    「指……!?」
    「悠仁の指の骨は、ちゃんとここにあるよ」
    「しゃけ、しゃけ」
     そう指したのはパンダであり、悠仁の手先にはしっかりと十本の指の骨が在る。
    「つまり、この指の骨って――」
    「両面宿儺の指、だろうね」
     悠仁の指の骨とは太さが異なる、両面宿儺の指の骨が、二十本。
     その身に収めた呪物の残骸が、確かにここに在ったと主張するように、おそらく心臓が在っただろう場所から胃へかけて残っている。
    「どうするんだ。一緒に骨壺に入れるのか?」
     しんと静まった場に、真希のきっぱりとした言葉に、骨をじっと見つめていた五条が、人差し指を立て、くるくると円を描くように振る。
    「う~ん……。その骨自体には、呪力ないし、一緒に収めちゃっていいんじゃないかな★」
    「呪力がない? 五条先生、それホントなんですか?」
    「うん。きれーに、なんも感じない。ただの骨だよ、それ」
    「ってことは……。虎杖はちゃんと、宿儺のことあの世に引っ張って逝ったんだな――」
     感慨深く恵がそう零し、悠仁の頭部を見つめる。そこにはうろばかりの眼孔しかなかったが、恵にはニッカと笑う悠仁の顔が思い浮かんでいる。
    「ま! 宿儺の指の骨残してもしょーがないしね。下手に残ってると、また上が煩いし。ここはみんなで共犯ってことで、黙ってよ♪」
     ささ、骨を拾っちゃってー、と五条が収骨の続きを促し、生徒たちはまた骨を拾い始める。
    「私は賛成よ。五条先生、虎杖の骨って、宮城の虎杖の墓に入れるんでしょ?」
    「なんも害意が残ってないって、僕が証明するし。一応封印の札は貼らせてもらうけど、戻してあげるつもりだよ。おじいさんの御骨も在るしね」
    「そのほうがいいと思います。虎杖は、強制的にこっちに来てたわけだし」
    「すごく、東京満喫してたらしいけどね……」
    「だったらさ、みんなの旅行兼ねて、年一くらいに悠仁の墓参りしたらいいんじゃないか? 俺牛タン食べたいし」
    「梅、こんぶ、わかめ!」
    「ん? 棘はずんだも食べたいのか?」
    「しゃけしゃけ!」
    「仙台名物って、あと何あったっけ」
    「八月に七夕祭りがあるよ。旧暦での七夕だね」
    「真希さん、仙台に限らず東北制覇しましょ! もち、交通費は五条先生の奢りで!」
    「云うねぇ、野薔薇。まっ、いーけど」
    「いいんですか」
    「そりゃそんくらいは出せるよ。僕は大人だからね★」
    「五条、キミは二十八歳児の間違いだろう」
    「硝子、お土産何がいい?」
    「そうだね、食事に合う日本酒」
    「即答なのが、やっぱ硝子だね!」
    「そして訊いといて買って来ないのが、キミだね、五条」
    「悠仁の墓参りのときは買って来るよ。そんで一緒に飲もうよ」
    「仕方ない。献杯なら付き合ってあげるよ。つまみは私が用意しよう。キミに任せると、ヘンなものを持って来そうだからね」
    「そして抜け目ないのが、硝子だよね」
     収骨に加わらず、生徒たちに任せる五条は家入と取り止めない話をしつつ、目隠しの下ではじっと生徒たちを見つめている。
    「あの……おふたりとも、虎杖くんの遺骨、あと頭部だけなんですが……」
    「ああ。ありがとう、伊地知」
     遺体と共に焼かれた小銭を拾ったりと、伊地知も参列者たちの補助スタッフとして、悠仁の収骨へ参加していた。生徒たちが拾い集めた骨を壺に収め、最後の頭と首になったところで、五条らへ声を掛けたのだ。
     壁から背を離したふたりは、粉と化した骨以外がほぼ残らぬほど、綺麗に拾われた台上を一瞥し、残る頭蓋が崩れないよう丁寧に扱い、そっと骨の頂へ乗せた。
     そうして、お終い、と区切りのように骨壺の蓋を閉じた。


         □     ■     □


     ふ……、と悠仁の意識は浮上した。
     瞳を開けて認識したのは、白、という色だった。
    「……何処、ここ……?」
     茫洋に声を出すも、起き上がろうと思っても身体が重く怠い。白で構成されるこの空間は、明かりもないのに眩しいほどであり、上下左右の感覚はなく、浮いているのか立っているのかさえ判別出来ない。
     最期に憶えているのは、闇に覆われたまま、静かに胸に突き刺された刃の、冷たいようで熱い感覚。スッと意識が失くなっていくのは、本当に眠りに落ちる感覚と酷似していた。
     俺はいったい何回心臓をぶっ壊されるんだ、と思ったのはいま意識があるからだ。
    「起きたか、小僧」
    「……すく、な……?」
     悠仁の傍らに立ち現れたのは、共に死を迎えた両面宿儺である。宿儺は悠仁を模した姿のままであり、生得領域のときと変わらず、灰白の着物を纏っている。
    「ここ、何処? 俺と、オマエ……死んだんじゃ……」
    「ああ、死んだとも。ここは死界シカイ生界セイカイの狭間の空間、と云えば低能なオマエでも判るか?」
    「……三途の、川?」
    「そことも違う。あれは既に死界の門だ。――いいか、俺とオマエは、いま真に魂だけの状態だ。肉体は先ほど焼き上がったところだ」
    「火葬、されてた……?」
    「そういうことだ。身が重く感じるのも、まだ肉体の感覚が残っているからだろうな」
     どれ、小僧の最期だ。己の収骨の様でも見せてやろう。
     宿儺のやさしさというよりは、悠仁の現世への未練を見せ付けるため、足許へ指を向けると波紋が広がり、やがて小さな池ほどの水面と成り、一体の骨が横たわる一室を映し出した。
    「見ろ。これが現世でのお前の成れの果てだ」
    「う……っ」
     悠仁は重い身を動かし、なんとか上半身だけ起き上がらせ、上下の感覚さえ判らないが、水面がある場所を床として、座る姿勢を取る。
    「――あれ、俺またマッパじゃん……」
     悠仁は自身の恰好に漸く気付き、傍らの宿儺を寝惚け瞳状態の半眼で見上げると、宿儺はケヒヒと嗤う。
    「オマエの身は劫火に焼かれ、骨だけとなった。そのため衣服が失いのだろう。何、どうせここではなんの問題もなかろうよ」
    「そりゃ……寒いとかは、ねぇし。いいけど」
    「そんな些末なことより、ほれ。始まるようだぞ」
    「……あ――」
     悠仁が全裸で座る脇には、池ほどになった水面の向こうに、五条らの姿を映し出している。
    『よう、虎杖。久しぶり。元気だった?』
    『……釘崎、それはなんか違くないか』
    『いいのよ。私ら、ここでしかもうコイツに直接会えないんだから。決めてたのよ、そう云ってやろうって』
    『そうか』
    「釘崎、伏黒……。元気そうで、良かった。先輩たちも……」
     皆、大なり小なり怪我の跡が残っているものの、概ね元気そうな姿であることに、悠仁はホッと胸を撫で下ろした。
     するとポツリ、水面へ雫が落ちた。
    「へ? あ……」
     ぽた、ぽたと顎を伝う雫は悠仁の涙であり、何故泣いているのか悠仁自身判らず、慌てて目許を擦る。強く擦ったため眦はすぐに朱くなり、拭っても拭っても涙は零れ落ちる。
     別段悲しいわけではない。
     皆の無事な姿に安堵したのも確かだ。
     だからこの涙は悲しいのではなく、未練が昇華された涙なのだと思った。
     しかし涙は一向に止まってくれず、止めようと思ったほうが視界が悪くなる。
     なので涙が流れるまま、自身の収骨の光景を悠天井から、水面越しに見つめることにした。
     収骨室は、かつて祖父の遺骨を納めたことを思い出す。
     その際、悠仁と監視として五条が居たが、本来なら悠仁独りきりであった。
     けれどいまは、同級たちがいつもの調子で話しながら、自身の骨を拾ってくれている。これならば、祖父の遺言に反したことにはならないだろうかと、早々墓に入っても怒られはしないだろうと思う。
     葬儀という場に於いては、収骨者たちの会話内容が明る過ぎる気もするが、どうせ身内しか居ない場なので、構いはしない。悠仁も、泣きながら骨を拾われるよりは、このくらいの調子のほうが気が楽だった。
    「へへ。宿儺、良かったな。みんな、俺たちの墓参りしてくれるって」
    「戯け。参られるのはオマエだけだろうが」
    「でもほら、オマエの指の骨? も、俺と一緒に収められるみたいだし。いいじゃん、俺たちの墓参りで」
    「はぁ。何処までも目出度い頭だな」
     呆れ果てた宿儺の言葉に、悠仁はくすくす笑い、収骨されていく様を見守る。
     宿儺としては、現世への未練に泣く姿や、気持ち悪がる素振りを期待したのだが、あっさりと受け入れ、収骨者たちの会話内容に喜びさえ見せる。
    「本に、奇異な小僧よ」
     やがて身体全てが壺に収まり、残すは頭部だけとなり、家入が殊更丁寧に頭蓋と咽喉の骨を壺へ納めてくれた。
    「あ……れ? す、くな……、ゴメ……。急に、眠、ぃ……」
     骨壺の蓋を閉められたと同時に、急激な眠気に襲われ、瞳を擦るも開けて居られず、悠仁はぐらりと背後へ倒れ込む。その背を抱き止めたのは宿儺であり、涙の跡を残す子どもは健やかな寝息を立て始めた。
    「やれ、手の掛かる」
     溜息を吐き、宿儺は己の襟巻を外し、悠仁の両手首を縛る。次いで解いた帯で両足首を縛った。最後に、宿儺が纏っていた着物を脱ぐと、悠仁の身に羽織らせ軽く包む。
    「では――行くとするか」
     準備は整った。宿儺は悠仁を横抱きにして立ち上がり、水面へ見向きもせず背を向けて歩み出す。
    『――虎杖――』
    『――悠仁――』
     不意に、背後の水面から各々が悠仁の名を呼ぶ声があった。それに耳聡く悠仁は眠ったまま反応し、応えようとしてか眉間に皺を寄せる。
    「う、……ぅん」
     歩みを止めた宿儺は、わずかに水面を振り返り、複眼にて現世の未練共を睥睨する。しかしそれも刹那のことであり、腕の中で唸る子どもをあやす。
    「良い良い。寝て居れ、小僧。何も気を遣ることはない。何も気に止めることもない。オマエはただ、俺のかいなに抱かれて居れば良い」
    「……ン」
     宥めるように、宿儺は眠る悠仁へそう囁き、抱く腕の力を強める。そうして、また歩みを果ての見えない白へと進める。
    『――虎杖――』
    『――悠仁――』
     またもや水面からの呼び掛けがあったが、宿儺は振り向く素振りもせず、現世を捨て置いた。
    「オマエは俺に、共に死ねと願った。だからオマエの未来を捧げることで成約した。なればこそ、虎杖悠仁オマエは永劫――俺のモノだ」

     いとうても、いても、何度輪廻めぐろうとも。
     オマエの未来には、俺が存在る。


    END
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