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    reinFC3686

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    トラブルメーカーズのおはなし

    ##ツイステ
    ##ヒロユキ

    リドルの3ヵ月「なぁリドルくん、学校の怪談に興味あったりする?」

    入学式翌日。
    年若い少年の声を初めて聞いた日のことだ。
    授業が終わったあと、帰りの準備をしていた時に彼に話しかけられた。
    銀の髪にオーロラの瞳。ディアソムニアの彼を彷彿とさせるが、彼よりも髪も瞳もなんだか暖かい色で、肩甲骨あたりまで伸びたそれを乱雑にギュッと一つに縛っていた。
    盛大に着崩し腰に巻いたジャケットの内側とベストは藍に近い紫で染まっている。ポムフィオーレ生だが…それにしては随分とズボラな格好をしている。

    太陽のような彼、通称ポムフィオーレの異端児は名をヒロユキ・ハーフウィットと言った。
    後に一学期の成績で平均ど真ん中を取ることになる不思議な奴。彼の特徴はポムフィオーレ生にあるまじき美意識の低さにあった。
    きっちり揃っておらず、ぴんぴこ跳ねた髪に化粧の粉など一かけらも乗っていないすっぴんの顔。ニキビは問答無用で潰すし、所作なんて気にしないので優雅さなどかけらもない。どちらかというとサバナクローにいそうなくらいだ。彼がポムフィオーレに居る理由は恐らく好きなことに対する努力が嫌いな性分ではないからだろう。

    そんな彼がボクに話しかけてきた理由は案外つまらないものだった。学校の怪談を確かめるのが趣味なのだが、一人はイヤだからたまたま席が隣だったボクをなんとなくで誘った、と。きっと怖いのだろう。

    くだらない。ゴーストは一般的な存在だろうに、怖いも何もあるか。そもそも怖いなら行かなければいい。そう一蹴しようと思い、口を開いたと同時に

    「おや、面白そうな話をしていますね」
    「うわっ」
    「あっ! アンタたしか入学式で暴れてたヤツじゃん!」

    ぬっと背後から当たっていた暖かな光が遮られる。
    正面から話しかけてきたハーフウィットがピッと影を作った存在へ指を突きつけた。
    影──ジェイド・リーチは意地悪そうにクスクスと笑う。

    「暴れたのは片割れのフロイドですよ。僕はジェイド・リーチと申します、ヒロユキ・ハーフウィットさん」
    「ん、じゃあジェイドくんね。よかったらおれのことは呼び捨てにしてよ」
    「ではヒロユキさんと」
    「えぇ〜…リドルくんはどう?」
    「流石に話して数分で呼び捨ては遠慮させてもらうよ」

    二人ともかたっ苦しいなぁ。ハーフウィットは口先を尖らせた。
    ジェイド・リーチ。
    双子の片割れであるフロイド・リーチと共に手を出したらいけないと早くも1年生の中での噂話になっている、関わらない方がいいとされている人物。
    そんな人物がなぜボクたちに。教室の入り口でキミの片割れがつまらなさそうに待っているだろう。

    「あっ、ジェイドくんも行く? 怪談確認」
    「そうさせてもらおうかと。今夜ですよね」
    「そうそう、夜10時に鏡舎集合ね。リドルくんは大丈夫?」
    「待て、ボクは行くなんて一言も言っていないよ。大体10時以降に外に出るだなんて!」

    ボクがそう反論すると、二人は同時にニヤつき馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
    嫌な予感しかしない。止まっていた帰りの準備をする手の動きをさっきよりも早めた。

    「あれれ〜? リドルくん怖いの〜?」
    「おやおや、学園の怪談などただの噂でしょうに。一体何が怖いというのですか」

    ぴきっ。
    血管がひきつく音が聞こえた。

    「そもそもおれ怖いわけじゃないし。一人で学園内徘徊してるとなんか言われそうだからイヤなだけだし」
    「なら僕が居れば十分ですね」
    「そうだねぇ。真っ赤な 臆 病 者 は放っておいて一緒に行こっか〜」

    ぴききっ。
    顔に血が集まっていくのを感じる。
    …誰が、臆病者だって?

    「いいだろう、ついていってあげるよ。ボクは臆病者ではないと証明してやる!…あっ」

    二人の端正な顔が計画通りと言ったように歪む様を見て、ハッと我に帰る。
    やってしまったと頭を抱えるにはもう遅い。

    「言質とったどー!」
    「では、今夜10時に鏡舎にて。お待ちしていますね、リドルさん」

    拳を突き上げるハーフウィットに、腹の底の伺えない、にこやかな笑みを見せるリーチ。
    …やってしまった、と当時は思った。

    でもこれがボクのNRCでのはじめての友との出会いだったのだから、今ではむしろ良かった。そう考えているよ。



    ────9月。

    「寮長になっただってぇ〜〜!?!?」

    大袈裟に驚いてみせたヒロユキ。相変わらず何を考えているのかわからない笑顔で「おやおや」と言うジェイド。
    やはり一年生で寮長になるのはおかしいのだろうか。ボクがそう尋ねると、黒手袋がギュッとボクの手を握ってきた。

    「ううん、すごい、凄いよリドルっ!!ねぇジェイド!」

    「えぇ、さすがリドルさんです」

    一週間ほどの付き合いだと言うのに、彼らは手放しに褒めてくれた。
    黒い革手袋が秋の空気で冷えたボクの手をじんわりと温めてくれる。
    すでに散々生意気だの調子に乗ってるだの、冷たい言葉をたくさんかけられていたボクの心にその温かさは染み渡った。

    「……ありがとう」

    ずび、と鼻水を啜った。



    ────12月。

    「リドルは帰省、ジェイドは居残り、おれも帰省かぁ」

    全員見事にバラバラになったはじめてのウィンターホリデー。
    何も持っていないのはジェイドだけと言う奇妙な状態だ。ヒロユキが口先を尖らせてそう言うと、ジェイドがとある発言をした。

    「二人とも、お土産期待していますね。できればキノコ」

    「あっ出たなキノコ狂!」

    「紅茶でもいいかい? 」

    「もちろんです」

    「えっそれおれも欲しい」

    わいわいきゃっきゃと騒いだ後、案外すんなりと別れてそれぞれの鏡へと足を踏み入れていく。

    あぁ、なんだか。

    まだちょっとしかNRCに居ないのに、家に帰るのが辛くなったような気がした。
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