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    anno_shokan

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    anno_shokan

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    【腐】プライドと薔薇とピン【日眼】
    #日眼版深夜の60分一本勝負 第6回 お題「スーツ」

    ネタバレ設定はワンクッション用です。
    2人が何事もなく学園を卒業した捏造設定でお送りする、付き合っている2人が日向君のスーツを買いに行くお話です。
    スーツのデザインは10周年記念の某画像を参考にしました。
    設定を深く考えていないので、頭を空っぽにして読んでいただくのが一番楽しい読み方になると思われます。

    #日眼
    dayEye

    「これは似合っているのか……?」

     試着室から出てきた日向が自信を喪失した様子で田中に尋ねるのは、これが何十回目かの試着だからだ。薄いカナリーイエローのスリーピースにモスグリーンのシャツとポケットチーフ。そしてブラックの蝶ネクタイ。なかなか日向らしい色合いにまとまった。ようやく似合いのものを見つけることができたと田中は満足げに頷く。

    「いいだろう。それにするか」
    「やっと終わった……!」

     試着室の壁にもたれかかり、疲れたと言わんばかりに声を上げる日向を尻目に田中は店員を呼び止める。田中の指示を受けた店員が日向の体に合うよう丈を調節していく。
     されるがままに店員の採寸を受けながら、開放感で満たされた日向は、さんざん服を着替えさせられ、その度に「次」と田中に言われ続けることになった経緯に思いを馳せる。きっかけは希望ヶ峰学園から届いた同窓会の開催を知らせる手紙だった。
     田中とは在学中に知り合い、紆余曲折を経て恋人へと関係を進めた。卒業後も互いに時間をやりくりして徐々に関係を深くしていって数年、二人の下に届いた招待状には“ドレスコード”の文字があった。
     「ドレスコードなんて仰々しいよな」と電話越しに日向が笑えば、田中は「儀式に見合う装束の持ち合わせはあるのか?」と問うた。「そういやないな」と日向が答えれば、田中は「ならば明日、盟約の地にて待つ。必ず召喚に応じろ」と唐突にいつもの待ち合わせ場所で会う約束を申し付けてきた。そもそも明日のデートの予定を確認し合うために通話していたのだが、有無を言わせない様子で約束を迫る田中に首を傾げながら「ああ、分かったよ」と返事をすれば、田中は電話の向こうでいつもの高笑いをした。
     そして当日、田中から呼び出された日向が待ち合わせ場所に向かえば鬼気迫る勢いで田中は日向をスーツの仕立て屋に連れて行き、突然日向を着せ替え人形にし始めたのである。
     何となく、招待状に書かれていた“ドレスコード”の文字が原因だと察しはついているのだが、どうにも田中の真意は量れなかった。

    「なあ田中、なんでこんなことしたんだ?」

    自分を飾り立てることに躍起になっていたのはなぜか問うのなら今だろう。

    「こんなこと、とは何だ。これは必要な儀だ」
    「いや、そうじゃなくてだな。なんで田中が頑張って選んでくれたのかって思ったんだよ。俺が自分で選ぶんじゃ駄目だったのか?」

     田中が日向に似合う衣服を探す目つきは真剣そのものだった。ふざけたり、困らせるために日向を着せ替え人形にしていたわけではないというのは尋ねなくても分かるほどに。
     日向の質問に田中は鼻を鳴らして答えた。

    「決まっている。晴れ舞台のためだ。俺様の隣に並び立つ者に半端な魔装を与えられるか。身を飾る場なのだから、最も貴様の魔力を引き出す装備でなければ意味がない」
    「それは俺のためってことだよな」
    「フン、好きに解釈するがいい。真実は俺様の内にすら存在しない」

     在学していたころであれば日向の好意を確かめるような発言に照れてストールで顔を隠していた田中だが、最近は開き直るようになってきた。それはそれで好意を比較的素直に表してくれるようになったと思えるので、日向からすれば今も昔も田中は可愛いままだ。

    「ありがとう田中」
    「ハッ、あくまで俺様のためだ……どういたしまして」

     口調こそ尊大だが田中の頬は薄く桜色に色づいている。こうやってストレートに思いをぶつければ、在学していたころと同様に照れてしまうので、やはり田中の根底の部分は変わっていない。

    「なんか自分でもカッコいい気がしてきたな。バラとか持っても違和感ないんじゃないか?」
    「それは馬鹿らしいから止めろ」

     日向の言葉尻を食うように田中が否定する。相当嫌なのか目が据わっていた。「分かったよ。止めとくって」と、引きつった笑顔で日向が同意すれば田中は満足そうに目を細めて「そろそろ出立するぞ」と提案した。

    「ああ、それもそうだな。会計もしないとだし」
    「それはとうの昔に済ませた。疾く元の装備に転じるがいい」
    「は? 済ませたって、お金払ってくれたのか? 全部? 結構するだろ?」
    「当然だ。伴侶のために贅を尽くさずして何が王か」
    「いやいやいや、そんなわけにはいかないって!」
    「安心しろ。貴様のために備蓄を整えているところだ。まだ打ち立てた到達点には及んでいないが、いずれ貴様を我が宮殿に迎える用意はじきに終了する」

     知らないうちに田中は日向との将来のために着々と準備を整えていたらしい。宮殿って家のことだよな、と考えてうかうかしてはいられないと日向は目が覚めるような心持ちになる。

    「今度会ったときにでも返すから……」
    「必要ない。貴様はただ貢がれていろ」
    「そういや田中は持ってるのか? ドレスコードに合う服」
    「すでに用意は済ませた。集いの日を心して待つがいい!」

     どうやらお返しにスーツ代を払う作戦は無理なようだ。こればかりは仕方ないと渋々納得した日向は田中を説得することを諦め、着替えることにした。
    「ちょっと待っててくれ」と声をかけて、試着室に入り仕切りのカーテンを広げるようとして、「待て」と田中が日向を呼び止めた。カーテンに手をかけたまま「どうした?」と聞けば、田中は懐から何かを取り出し、日向に近づく。

    「こちらを向け」

     言われるままに田中に体を向ければ、田中は日向が着ているジャケットの下襟部分にあるボタンホールに何かを差し入れた。

    「なんだこれ?」
    「ラペルピンだ……やはりこれがあると印象が変わるな。良いぞ、実に良い」

     そう言って田中は微笑んだ。嬉しくてたまらないという表情で。どうやら田中は日向のためにわざわざアクセサリーまで用意していたらしい。あまりに隙のない田中の行動に思わず赤面した顔を晒しそうになって、日向は慌てて試着室に入り、勢いよくカーテンを閉めた。「おい、何をしている?」という問いかけは無視して頭を抱える。俺の恋人、かなりカッコ良くないかと。
    改めて今日の田中の行動を思い出すとだんだん悔しさを感じるようになった日向は、着替えのためベストのボタンに手をかけ、算段する。「今度の誕生日にでも盛大に祝って絶対に倍で仕返ししてやる」と。

     なお同窓会当日、田中の正装を見た日向が「カタギに見えないな……九頭龍と並んでも多分違和感ないぞ」と言い、それを聞いた田中が「そうだろう! この魔装によって俺様の魔力は極限に達したのだ!」と2人はしばらく噛み合わない会話をし続けることになる。
     そして集合写真の撮影のとき、久しぶりに会った級友たちに服装を褒められ調子に乗った日向がバラをもって撮影に臨んだことに、あとになって気が付いた田中が「だから止めろと言っただろう!」と怒髪天を衝くのは、もう少し先の話になる。


    END.
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    SPOILER【腐】プライドと薔薇とピン【日眼】
    #日眼版深夜の60分一本勝負 第6回 お題「スーツ」

    ネタバレ設定はワンクッション用です。
    2人が何事もなく学園を卒業した捏造設定でお送りする、付き合っている2人が日向君のスーツを買いに行くお話です。
    スーツのデザインは10周年記念の某画像を参考にしました。
    設定を深く考えていないので、頭を空っぽにして読んでいただくのが一番楽しい読み方になると思われます。
    「これは似合っているのか……?」

     試着室から出てきた日向が自信を喪失した様子で田中に尋ねるのは、これが何十回目かの試着だからだ。薄いカナリーイエローのスリーピースにモスグリーンのシャツとポケットチーフ。そしてブラックの蝶ネクタイ。なかなか日向らしい色合いにまとまった。ようやく似合いのものを見つけることができたと田中は満足げに頷く。

    「いいだろう。それにするか」
    「やっと終わった……!」

     試着室の壁にもたれかかり、疲れたと言わんばかりに声を上げる日向を尻目に田中は店員を呼び止める。田中の指示を受けた店員が日向の体に合うよう丈を調節していく。
     されるがままに店員の採寸を受けながら、開放感で満たされた日向は、さんざん服を着替えさせられ、その度に「次」と田中に言われ続けることになった経緯に思いを馳せる。きっかけは希望ヶ峰学園から届いた同窓会の開催を知らせる手紙だった。
     田中とは在学中に知り合い、紆余曲折を経て恋人へと関係を進めた。卒業後も互いに時間をやりくりして徐々に関係を深くしていって数年、二人の下に届いた招待状には“ドレスコード”の文字があった。
     「ドレスコードなんて仰々し 2834

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    anno_shokan

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    設定を深く考えていないので、頭を空っぽにして読んでいただくのが一番楽しい読み方になると思われます。
    「これは似合っているのか……?」

     試着室から出てきた日向が自信を喪失した様子で田中に尋ねるのは、これが何十回目かの試着だからだ。薄いカナリーイエローのスリーピースにモスグリーンのシャツとポケットチーフ。そしてブラックの蝶ネクタイ。なかなか日向らしい色合いにまとまった。ようやく似合いのものを見つけることができたと田中は満足げに頷く。

    「いいだろう。それにするか」
    「やっと終わった……!」

     試着室の壁にもたれかかり、疲れたと言わんばかりに声を上げる日向を尻目に田中は店員を呼び止める。田中の指示を受けた店員が日向の体に合うよう丈を調節していく。
     されるがままに店員の採寸を受けながら、開放感で満たされた日向は、さんざん服を着替えさせられ、その度に「次」と田中に言われ続けることになった経緯に思いを馳せる。きっかけは希望ヶ峰学園から届いた同窓会の開催を知らせる手紙だった。
     田中とは在学中に知り合い、紆余曲折を経て恋人へと関係を進めた。卒業後も互いに時間をやりくりして徐々に関係を深くしていって数年、二人の下に届いた招待状には“ドレスコード”の文字があった。
     「ドレスコードなんて仰々し 2834

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    「これは似合っているのか……?」

     試着室から出てきた日向が自信を喪失した様子で田中に尋ねるのは、これが何十回目かの試着だからだ。薄いカナリーイエローのスリーピースにモスグリーンのシャツとポケットチーフ。そしてブラックの蝶ネクタイ。なかなか日向らしい色合いにまとまった。ようやく似合いのものを見つけることができたと田中は満足げに頷く。

    「いいだろう。それにするか」
    「やっと終わった……!」

     試着室の壁にもたれかかり、疲れたと言わんばかりに声を上げる日向を尻目に田中は店員を呼び止める。田中の指示を受けた店員が日向の体に合うよう丈を調節していく。
     されるがままに店員の採寸を受けながら、開放感で満たされた日向は、さんざん服を着替えさせられ、その度に「次」と田中に言われ続けることになった経緯に思いを馳せる。きっかけは希望ヶ峰学園から届いた同窓会の開催を知らせる手紙だった。
     田中とは在学中に知り合い、紆余曲折を経て恋人へと関係を進めた。卒業後も互いに時間をやりくりして徐々に関係を深くしていって数年、二人の下に届いた招待状には“ドレスコード”の文字があった。
     「ドレスコードなんて仰々し 2834