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    hiromu_mix

    ちょっと使ってみようと思います。
    短めの文章はこっちに投げます。

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    hiromu_mix

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    冬オル相会のペーパーとして書いたお話。
    冬がテーマでした。個人的にこういう🐐さんがとても好きです。

    炬燵に蜜柑 「なんですか、あれ」
     相澤が、お邪魔しますの言葉を発する前に、つい開口一番そう口走ったのは許して欲しい。オールマイトの、まるでモデルルームばりに整えられたマンションの部屋の、テレビの前には確か猫足のお洒落なガラステーブルが鎮座していたはずなのに、今そこにはなぜか庶民的な炬燵があるのだから。
    「炬燵だよ!相澤くん!」
     背後から、玄関のドアをしめてこちらに向かってきたオールマイトの、やたらにはしゃいだような声を聞くと、はあ、としか返事が出来なかった。教員たちの飲み会の帰り道。寮に帰ろうかと言うところで、ちょっと良かったらうちに寄って行かない? なんて、そんな言葉につい引き寄せられ。連れてこられた理由がここでやっと思い当たる。
    「――炬燵買って、嬉しかったんですか」
    「そうなんだよ、子どものころに使って以来、全然使ったことなかったんだけど、この間、ブラドくんの部屋で部屋飲みにしたときに、炬燵、羨ましくなっちゃって!」
     確かにブラドキングの部屋には5、6人でも余裕で入れるような大きな炬燵があった。けれどここにあるのは正方形の、ごくごく一般的なサイズ。オールマイトの部屋にあると、やたら小さく見える。
    「ね、一緒に入ろうよ」
    「それで、蜜柑も」
    途中、コンビニで酒や飲み物を買おうとなった時、オールマイトは何故か蜜柑をひと袋抱えてた。蜜柑好きだったか? と思ったが、その理由もやっと納得だ。
    「うん、炬燵にはつきものだろう」
    「いつ、届いたんです?」
     前回来た時はなかったはずだという言葉を言外に含んでそう尋ねれば、オールマイトはうーんと宙を見つめ首を傾げる。
    「一昨日、かな。だからね、実は私も入るの初めてなんだ! せっかく初めて入るのに、一人も寂しいからね!」
     そんな、初めての場にお呼ばれしたのか。
    「オールマイトに呼ばれるなんて、光栄ですね」
    「あれ? 君でもそんなこと言うの」
    「そりゃあ、まあ。あんた、オールマイトですから」
     ふぅん、と少しつまらなそうに呟くので。それなら、と少し考え、口を開く。
    「好きな人から誘われて光栄です、のほうがいいですか?」
     ごふ、とオールマイトは咽た。なんだよ、知っているくせに。相澤がちらりと見れば、オールマイトは視線を逸らす。その耳が少し赤いので、ちょっと満足。
    「――なんて、それは別にいいです。あんたは誰かに炬燵を見せたかっただけでしょうし、俺は、あんたに誘ってもらえてうれしい。それだけで充分です」
    「相澤くん……あの」
    「まあ、それはさておき、炬燵、入るんでしょう? いつまでもこんなとこで突っ立ってんの、寒いです」
    「ああ、そうだよね」
     リビングの中は、よほど気密性が高いのか、外の寒さに比べたらほんのり暖かさを感じるくらいだが、それでもコートを脱ごうと思うほどではなかった。オールマイトは慌てて壁にあるエアコンのスイッチを入れ、レジ袋をがさがさ鳴らしながら炬燵のほうに歩いて行ったので相澤も従った。オールマイトがテレビと向き合う方に腰を下ろして足を入れたので、相澤は少し考え、その右側を選んだ。そっと、足先を入れる。太もものあたりまで入れたらオールマイトの足にぶつかってしまいそうで、相澤は膝まででとどめたが、スイッチを入れたばかりだと言うのに、それでも真上から暖かさが降ってきて思わずホッと息を吐いた。オールマイトは大きな身体を縮こませて、少し長めにとってある炬燵布団を、肩にかけるようにして埋まり。こつ、ととがった顎を天板の上に乗せた。その目の前にあるレジ袋はざらりと傾き、ビールの缶と蜜柑が零れ落ちそうになっているので、相澤はそれを取り上げて中身を一つずつ出した。ビールの缶が3本、ウーロン茶、蜜柑と、それにカップのアイスもふたつあった。
    「アイスも買ったんですね」
    「これも定番かなって」
    「まあそうですね」
     相澤は暖かくなってきた炬燵の中から足を抜いて立ち上がると、アイスと缶ビール2本を持って冷蔵庫に向かった。どこに何があるかは、知っている。

     相澤は一週間前、うっかりオールマイトに告白するまでは時折、オールマイトに誘われて一緒にここでご飯を食べていた。オールマイトが自分を食事に誘う裏側に、どんな思惑があったのか。今でもそれはよく分からなくて、とはいえ善意の塊みたいなこの人からしたら、今日の炬燵もそうだろうが、単純に相澤の健康や食生活を気にしたからだろうと推測は出来る。下心は、無い。そんなものを、この人はきっと持ち合わせていない。告白したとき、ぽかんと驚いた彼の顔を見て、相澤はそれを思い知った。
     このひとの「うちにおいで」は、小学生が、「うちで遊ぼうぜ」と誘うのと多分そう変わらないのだ、と。

     冷凍庫にアイスを入れ、冷蔵庫の棚に缶ビールを並べる。前回来た時に相澤が、いたたまれず離席し、部屋から飛び出したせいで残したワインは、栓をして、冷蔵庫の扉の裏側に入れてあった。それを見て、少しだけ切なくなる。もうここに来ることはないと思ったのに、こうして、誘われればホイホイと来てしまう自分が少し、可哀想だと思う。いっそこのワインも飲んでしまったほうがいいだろうかと手を伸ばしかけて、話を蒸し返したいわけじゃないと思い留まり扉を閉めた。
     戻れば、オールマイトはテレビをつけていた。どのチャンネルなのかは分からないが、古い映画をやっていて、それをぼうっと見つめている。テレビの光に照らされる横顔を、相澤は盗み見た。
    「知ってる映画ですか?」
    「うん、懐かしいな。でも前にもやっていた気がするんだよね、深夜映画の定番なのかな」
     もうそんな深夜かとスマートフォンを見れば、確かに12時は回っていた。明日は土曜日だが、昼過ぎからは仕事もある。あまり夜更かしするのは、自分も、そして彼にも良くないだろう。けれどあまり気にしていないのか、オールマイトは蜜柑を一つ取ると剥き始めた。大きな手で器用に筋もひとつずつ取り、ひと房、口に入れる。
    「あ、甘い。果物ってさ、どんどん甘くならない? 私の子どものころは、蜜柑ってもっとすっぱかったよね」
    「そうでしたか? それより、蜜柑は消化にあまり良くないって言いますから。食べ過ぎないでください」
    「そうなんだね、ありがとう」
    「半分、食べます」
     そう言えば、オールマイトは半分わしりと割って相澤の手の上に乗せてくれた。オールマイトの手ずから剥いた蜜柑だと思うと、ちょっとだけ感動するのは内緒だ。
    「ほんとだ、あまいですね」
    「相澤くん、待って。半分って一口で食べるもの!?」
    「この蜜柑、小さくないです?」
     ええ、と驚いた顔をするオールマイトに吹き出し、相澤は炬燵の上に一缶だけ残しておいた缶ビールのプルトップを引っ張る。ぷしゅ、と僅かに泡が吹いたが、零れることはなかったので直接口を付けて一口飲んだ。蜜柑と、ビールはあまり合わない気がする。
    「相澤くんって意外と豪快だよね」
    「はあ、繊細ではないと思いますね」
    「繊細、ではないな、確かに」
     ふふ、とオールマイトは笑う。相澤に言われて意識したのか、薄皮もむくことにしたらしく、ゆっくりと薄い皮をはがして口に運んでいた。蜜柑の汁に濡れた指先を、チュッと吸う動作でどきりと心臓が跳ねる。ので、視線を逸らして古い映画を見つめた。ラブロマンスとかではなくてよかった、モノクロの画面では、数人の男たちが解決策のない論争を繰り広げている。
     炬燵の中がすっかり温まって、じんわりと血流が良くなった足先が少し痒いくらいだ。靴下を脱ごうかと、足をずらしたところでオールマイトの脚と当たる。
    「すみません」
    「今の、相澤くんの足?」
    「ええ、すみません、当たってしまって」
     靴下を脱ぎ、忘れないようにとくるりと二つを丸めてすぐ横に置いた。そして足を戻せば、こつ、と今度はわざとらしくオールマイトの足先が触れてくる。
    「お、本当だね、相澤くんの足がある」
    「いや、そりゃ、一緒に入ってんだからありますよ」
    「ふふ、面白いね、炬燵って」
    「そうですか?」
     これを面白いと思うのはよく分かんない感覚だなと思いつつ、それでもこんな風に他愛のない会話をしている時間は楽しい。そうだ、この人を好きになったきっかけはこういうことだった気がする。傍に居て、一緒に食事をしてても、堅苦しくも面倒くさくもなく、気を遣うこともない。いろいろウマは合わないのに、オールマイトの傍に居るのは心地よいのだ。こうして誘ってくれる以上、オールマイトもそう思っていたのだろうと思うが、でも、彼と自分とで決定的に違ったのは、そこに恋愛なんて面倒なものを持ち込んだかどうか。ああそうだ、俺が馬鹿だってことだ。
     これきりにしよう、とビールを一口、口に含んで、ごくんと飲み込みながら相澤は強く決意する。まさか恋なんてすると思わなかった、それも、たぶん誰に恋するよりも可能性の低い相手にだ。これ以上、プライベートでも傍に居るのが自然になってしまうと、きっと、オールマイトにいつかふさわしい相手が現れ、彼が恋をしたときに、自分は――自分は、きっと、それを祝福なんてできやしないから。
     ぐいと缶ビールを呷って喉の奥に流し込むと、相澤は勢いよく立ち上がった。すこしうとうとしていたのか、目がとろりと半分閉じていたオールマイトがぎょっとして相澤を見上げる。
    「相澤くん?」
    「帰ります」
    「え? なんで?」
    「これ以上いたら、駄目になりそうなので」
     オールマイトの腕が伸び、ぐ、と相澤のニットの裾を掴む。上目づかいでじっと見上げられると、やっぱりいいかなってあっさり決意が崩れそうになるので相澤は目を逸らす。
    「人を駄目にするソファってあったよね、人を駄目にする炬燵ってことかい?」
    「炬燵のせいじゃないです」
    「じゃあ、私?」
     ぐ、と息を呑む。ああそうだ、分かってんじゃねえか、分かってるならこの手を離せ。そう叫び出したくなるのを堪え、相澤は視線をその青い目に戻すと睨みつけた。オールマイトは、これっぽっちも応えた様子もなく、目を細め、いっそ楽し気にフフと笑った。
    「いつもクールでカッコいい相澤先生が、私なんかでそんな、駄目になるの?」
    「貴方は『なんか』じゃないですし、俺はクールでもカッコよくもないですよ。あと、すみません、俺、思ったより諦めが悪いみたいです」
    「そんな簡単に諦められたら、困る、かなあ」
     怒りなのか羞恥なの分からないが、カッと、頭の奥が熱くなる。そんな軽い調子で言わないで欲しい、これでも、必死に。必死にあなたに、馬鹿みたいな恋をしている。
    「やめてください、その気もないくせに」
    「私、その気がないなんて言った?」
     どきりとする。その言葉に、真剣さが滲んだからだ。相澤のニットの裾からオールマイトは手を離し、代わりに微妙な位置で戸惑うように浮いていた相澤の手に、その長い指を絡めた。、
    「君さ、ワインも飲みかけ、ご飯も食べかけで、逃げるように帰っちゃうんだもん、驚いた」
     ほら、戻ってきて、とオールマイトが手を引くので、相澤は俯いて、言われるがままにすとんと座り込み、炬燵に足を入れ直す。絡んだ手は、炬燵の上で未だに繋がれたままだ。どうしたらいいか分からず、布団の柄を右から左へ視線で追う。しばらくそうしてると、ふ、とオールマイトがため息を吐いた。
    「私、その気がないなんて、言ってないからね」
    「で、も……俺が口を滑らせた時、ありえないって、顔してました」
    「そりゃそうだよ、あり得ないって思ったもの……まだ、口説いてなかったのに」
     ぱっと思わず顔を上げる。逆の手で頬杖を突いたオールマイトが、目を細めてこちらを見ていた。
    「やっと、何の疑いもなくうちに来てくれるようになったからさ……これから、少しずつ君のこと、口説こうと思ってたんだよ、私」
    「く、ど……」
    「今も、口説いてるつもりなんだけど」
     こつ、と炬燵の中でオールマイトの足先が触れる。相澤が戸惑ったまま拒まないでいれば、その足の指で、オールマイトは相澤の足裏を撫でた。ぞわ、と走ったのはくすぐったさと、それと。
    「……っ、ちょ、っと」
    「君との距離が近くなるから、いいかもって思ったんだよ、炬燵」
     繋いだままのオールマイトの手が、相澤の手の上に覆いかぶさり、炬燵の天板に押さえつける形に変わる。
    「オールマイトさん、っ」
    「もう、逃げないで……私、あれからどうやってもう一度君をここに呼ぼうかって、ずっと考えてたんだから」
     オールマイトが炬燵の上に身を乗り出す。顔を寄せられ、至近距離で青い瞳が相澤の顔を覗き込んだ。
    「キス、してもいい?」
    「聞かれると、駄目って言いたくなるんですけど」
    「それは……じゃあ、どうしたらいいのかな?」
     こうします、と呟いて。相澤は、返事の代わりにオールマイトの唇に、自分の唇を押し当てた。
     
     それは、甘い蜜柑の、香りがした。





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