毎日SS8/21 ある名をば 叮嚀に書き
ていねいに 抹殺をして
焼きすてる心(夢野久作・猟奇歌)
「まぁ、そりゃそうだろうな」
「命が惜しくないのか」
付与の魔女が、不敵に笑った。濁った瞳が薄暗く光る。不快な笑みだ。
ケイゴの前に現れた黒魔女が、初めてウルフの前に姿を見せた時、その時の勢いのまま、殺してやろうと思った。小さな蓑虫のような老婆は、ウルフが軽く握るだけで死んでしまうだろう。虫けらのような黒魔女に存在価値があるとは思えなかった。
しかし、ケイゴがこの女と使い魔の契約をしてしまったせいで、黒魔女を殺してしまったら、ケイゴはもちろんウルフも死んでしまう。
「別に、そんなのはどうでもいい」
自分だけが死ぬのは構わない。ウルフがいなくなれば、ケイゴはこんな下らない魔女の諍いに巻き込まれなくて済む。
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