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    あらいぜき

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    あらいぜき

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    人のツイートを元にこねくり回した小説もどき。薄味の魔泥。
    一応、動力の芯×信号係の想定だけど、信号係要素はないのでお好きにどうぞ。

     最後に星を見たのはいつだったか。
     空は暗い雲に覆われ、地には深い霧が立ち込めている。

     一寸先も見えない夜に、俺はーークリーチャー・ピアソンは人気のない裏路地をのろのろと歩いていた。
    (クソ……最近妙に頭と喉が痛い、急に冷え込んだせいか?)
     この街では冬になると霧が立ち込める。それは毎年のことだが、今年は特に霧が深く、いつにも増して暗く寒い気がした。

    「おわっ!?」
     深い霧のせいか或いは酷い頭痛のせいか。石に躓き、べしゃりと顔面から派手に転んでしまった。
    「っ、痛ったいな……」
     冷えた地面にぶつけた鼻と膝が痛い。頭を打ち付けたせいか頭痛も悪化している。立ち上がろうとしても四肢に上手く力が入らない。

     今日はツイていない。
     数日前から続く頭と喉の痛みはここ数日で一番酷い。
     なけなしの金で買った鎮痛剤は昨日使った分で最後だった。
     仕事に行けば、人事整理とかなんとかで突然クビになる。
     仕方なく早めに帰ろうと近道を通ったら派手に転ぶ。

    (……ただでさえ人通りが少ないのに、この霧だ。俺が倒れていることに誰も気づかないか)
     なんだか、疲れた。
     運悪くも横になったおかげか、少し頭痛が和らいできた。その代わりに襲ってきた睡魔に抗うのも面倒くさくなり、そのまま目を閉じた。

    。。。

    「……おい」
     誰かの声で意識が浮上する。
     気絶する前よりも痛みはマシになったが、手も、足も、どこもかしこも重くて動かせない。薄目を開けて声に応えるのが精一杯だ。
    「……て、天からのお迎えか……?」
    「なんだ、生きていたのか」
    「……はは、も、もうすぐ死ぬさ」
    「そうなのか?」
    「お、俺には金も身寄りもない。き、今日はおまけに仕事もクビになって、命も失くすんだ」

     頭上から話しかけられているせいで、声の主の姿は足元しか見えない。金に革の装飾がついた変わったデザインだが明らかに高級な靴。シンプルだが上品さを感じるステッキ。
     どこかの富豪だろう。そんな奴がわざわざ死にかけの俺に何の用だろうか。
    「……ふむ」
     声をかけてきた男は何か考え込んでいるようだ。手癖なのかステッキをトントンと叩く音が聞こえる。

     話すこともなくなり、もう一度意識を手放しそうになった瞬間、男の持っていたステッキで顎を引かれる。
    「う……な、なんだ……?」
     促されるまま顔を上げると、突然視界が明るくなった。
     地べたに比べればどこも明るいだろと思うが、そうではない。男の頭上に、一等星のように明るい火が灯っているのだ。

     俺と目が合ったことを確認して男は口を開いた。
    「うちに来るか?」
    「は……?」
    「大規模な事業に取り組む予定があってな。人材確保に悩んでいたところだ」
     男は間髪入れずに話を進める。理解が追いつかない。
    「い、いま俺は死にそうだって言ったよな?」
    「それは適切な処置が受けられない場合の話だろう?」
    「お、俺には医者にかかる金もない」
    「私の下で働くなら応急処置と……まあ、当面の間は生活を保障してやろう。もちろん、労働の対価として給料も支払う」
     なんだ、なんだそれは。突然出会ったこの男についていけば、金も生活も手に入る?
     そんな美味い話がある訳がない、が……
    「……も、もし断ったら?」
    「この場は見なかったことにして私は立ち去る。間違いなくお前は死ぬだろうな」
     道端で野垂れ死ぬか、意味は分からないが生きるかの二択の前で、選ぶ余地はもうなかった。
    「質問は以上か?……私のものになるのなら手を取りなさい」
     男はステッキで俺を支えるのをやめると、少しかがんで手を差し出した。
     俺は、その手を、取って……と、取って……?

    「……ふむ、交渉決裂か。残念だ」
     数秒の沈黙の後、男は興味を失ったように踵を返す。
     だめだ、まだ、見捨てないでくれ。痛む喉を無視して声を上げる。
    「い、行くな、ま、まってくれ」
    「……まだ何か?」
     喉の痛みと体力の限界で絞り出した声は震えていたが、運良く男の耳に届いたようだった。
    「お、お前について行きたい」
    「手を取らなかったのはお前だろう」
     それは、事実なんだが、
    「う、腕に、力が入らない」
     元々転ぶ前から関節が酷く痛んでいたのだ。酷い頭痛で、転んで、寒くて。自力ではもう指先すら動かせなくなっていた。
    「はあ……思っていたより重症だったか。仕方ないな……」
    「お……?」
     男は俺に近づくと、重さなど感じないかのように俺を持ち上げる。
    「硬くて冷たいが我慢しろ」
     そう言って、俺を横抱きにした男は歩き出した。

     男の言う通り、身体に当たる部分は硬くて冷たいが痛いわけではない。むしろ、発熱の兆候があった身体にはひんやりとして気持ちいいくらいだ。
     熱い身体が冷やされ、揺られ、段々と眠気が襲ってくる。
    「眠いなら眠ってもいい」
    「ん……」
     お言葉に甘え、眠りにつこうと半分無意識に男の胸元にすり寄る。
     胸元から聞こえるのは、規則、正しい、心地よい……蒸気機関の音……?

    。。。

    「……眠ったか」
     腕の中で寝息を立てる薄汚れた男。
     これまでも、これからも、何も知らないかわいそうな男!
     ああ、目が覚めてからが楽しみだ。
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