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    kosimettyaitai

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    2022年12月10日の降風ワンドロのやつです
    風邪っぴきふるやさんと、かざみさん

    うどん、ゆず茶、風邪っぴき『風邪をひいてしまった、すまないが、今日の約束は延期してくれ』
    『大丈夫ですか?なにか必要なものはありますか?買って自宅へ持って行きますよ』
    『いい、うつったらいけないから、来るな』
    『しかし』
    『いいって言ってるだろう、余計なお世話だ』
     風見の返事も聞かないまま一方的に通話を終わらせた。
     今日は、珍しく僕も風見も、1日休みだった。だから昼前に集合して、のんびりデートでもしようかと、約束していた。本当だったら今頃、風見と集合してランチを食べて、その後ウィンドウショッピングをして、夕飯の食材を買って僕の家で食べるはずだった。

    うどん、ゆず茶、風邪っぴき
     
     無意識に止めていたのか、鳴らなかったのか。朝目が覚めた時、時計の針は待ち合わせの15分前であることを示していた。慌てて飛び起きた瞬間、体の違和感に気づいた。
     ズキズキと痛む頭。ゲホゲホと耳障りな咳が止まらない。体は燃えるように熱くて、それなのにガタガタと震えが止まらない。
     典型的な風邪の症状だ。数日前からわずか喉に違和感があった。だから風邪予防は怠らなかった。昨日だって早めに仕事を切り上げて、温かい風呂につかって早めに眠ったのに。
     起き上がっているのも辛いこんな状態では、風見の元へ行くことは到底できない。喉が痛くてしゃべるのもつらかったけれど、だからといってメッセージで伝えるだけなのは、もう待ち合わせ場所に着いて僕を待っているだろう風見に対して、あまりに不誠実な気がして、やはり言葉で伝えなくてはと11桁の数字をタップして風見を呼び出した。
     そしていつも通りの風見の声を聞いた瞬間、やり場のない負の感情が吹き出してしまって、もうだめだっだ。気遣いをみせてくれた風見に最低な言葉を投げつけた、こんなことになるなら喉が痛くてしゃべることができないとでも言って、メッセージを送ればよかった。
     何をやっているんだ、僕は。上司として、人として、彼の恋人として、本当に最低だ。
     今日は休んで、風邪を治すことだけ考えよう。そう思って救急箱から風邪薬の箱を取り出したら、箱の中は空で、せめて何か食べてから寝ようと、冷蔵庫を開けたら、中には水とアルコールくらいしか入っていなかった。そうだ夕食の買い出しの時にまとめて買おうと思っていたから、昨日食材をつかいきってしまったんだ。
     冷蔵庫を閉めてトボトボ寝室へ戻る。握りしめたままだったスマホがやけに重たく感じた。僕から突き放しておきながら、沈黙を保ったままのそれに苛立ちを感じて枕元に放り投げた。そのまま僕もベットへ倒れ込んだら、放り投げたスマホが額にぶつかった。柔らかいマットレスに衝撃は吸収されて、ほとんど痛みを感じることはなかったけど、苛立ちを抑えることができなかった僕は、スマホを乱暴に掴んで放り投げた、スマホはガンと大きな音をたてて壁にぶつかって、壁とマットレスの間に落ちていった。
     本当になにやっているんだろう、僕は。 
    「はぁ…」
     目を閉じたのに、ぐるぐると目がまわっているような気がする。起きた時よりも悪化している気がする。
     足元で丸まっている掛け布団を手繰り寄せて頭までかぶって目を閉じた。とにかく寝よう、あとのことは起きてから考えよう。
     これ以上悪化すると、明日からの業務にも支障がでてしまう。そんな無様だけはなんとしても阻止しなくては。



    「ふるやさん、ふるやさん」
     優しく体を揺すられる感覚に目を開くと、1番会いたくて、会いたくない男が目の前にいた。
    「なんで、きた」
    「わぁ、すごい声ですね」
    「質問に」
     勢いよく起き上がったことで喉が引き攣って、激しく咳こんでしまい、言葉を続けることができなかった。
    「弱っているあなたを、一人にしておくのは、私が嫌だったのできてしまいました。ごめんなさい」
     ゲホゲホと無様に咳こんでいるぼくの背中に、風見の大きな手が回って優しく撫でてくてた。
    「来るなって」
    「はい」
    「余計なお世話だって」
    「ごめんなさい」
     困ったような顔で風見は笑った、違うそんな顔をさせたいんじゃない。
     謝らせたいんじゃない。謝るべきは体調管理も仕事のうちだと口すっぱく風見に言っておきながら、体調を崩して約束を反故にして、最低な言葉を投げて、風見の優しさを踏みつけにした僕だ。
    「体あついですね、薬のみましたか?」
    「まだ、飲んでない」
    「風邪薬買ってきましたから、飲みましょう。
     あ、その前に腹になにか入れましょうか、食材も買ってきたので、キッチンお借りしますね」



    「うどんだ」 
     できあがったらお呼びしますから、横になって待っててください。という風見の申し出を断って、キッチンを動き回る風見のくっついて回る。風見は、困ったように笑った後、風邪が悪化してしまったら大変ですから、と言って着ていたダウンジャケットを脱いでくっつき虫の僕に着せてくれた。ほとんど身長差のない僕にくっつかれている風見は、動きにくそうだけど、振り解こうとしないで、好きなようにさせてくれている。
    「風見家は、風邪ひいた時はうどんだったんです。柔らかいツルツルのうどんなら、飲み込むのも辛くないし、風邪にいい食材たくさん入れて煮込めるでしょう」
     土鍋に水と白だしをいれて火にかけた後、レジ袋から鶏肉、ネギ、ほうれん草、人参を取り出した。鶏肉を一口大に切って耐熱皿に並べてラップをかけて電子レンジ入れて、レンジで鶏肉のあたためている間に、野菜を細かく切って、ふつふつと沸騰してきた鍋の中に、うどんと一緒に入れ蓋を落とす。余った食材にラップをして冷蔵庫にしまっていると、レンジから加熱完了を知らせる軽快な音が鳴った。レンジから鶏肉を取り出して、耐熱皿に染み出しだ出汁ごと鍋に入れた。菜箸で馴染ませた後、卵を落としてもう一度蓋をした。
    「君、料理できるんじゃないか」
     鍋を沸かしている間に、鶏肉を切って、鶏肉をレンジで加熱している間に、野菜をきって鍋にいれて、隙間の時間を活用して調理すすめていく様はなかなかに手慣れていた。
    「大学進学で東都にでてきましたから、一人暮らし期間は長いので」
     だったら普段からやらないか、チョコばっか食べてないで。
    「もうすぐできますから、テーブル運ぶので、座ってお待ちください」
    「うん」
     風見から離れて、ダイニングデーブルへ向かう、人一人分の体温が離れていったことで急に寒さを感じて、ダウンジャケットの前を合わせた。
     程なくして運ばれてきたうどんは、忘れていた食欲を思い出させるくれるよな、出汁のいい香りがした。
    「食べれる分だけでいいので、無理しないでくださいね」  
    「いただきます」
     よく煮込まれた食感のうどんはツルツルのやわやわで、簡単に噛み切ることができて、少しの痛みもなく喉を通って胃に落ちていった。
    「おいしい」
    「よかったです」


    「ご馳走様でした」
    「はい、お粗末さまでした」
     空になった土鍋が下げられて、ミネラルウォーターのペットボトルと、総合感冒薬の箱が差し出された。未開封のパッケージを開封して、ブリスターパックから2錠、錠剤を取り出してミネラルウォーターで流し込んだ。
    「洗い物しちゃいますから、今度こそベッドで横になっててください」
     ダウンジャケットを剥ぎ取られ、ぐいぐいと背中を押されてベットに押し込まれてしまった。もうくっつき虫でいることを許してくれないらしい。 
    「すぐ戻りますから」
     襖がパタンと閉められて、しばらくしてから水音と食器がかちゃかちゃ触れる音が聞こえ始めた。掛け布団を肩までかけて、襖越しの生活音に耳を傾ける。しばらくすると食事をとって体があったまったことと、薬が効き始めたことで、瞼がだんだん重くなってきた。



     自然と目が覚めて体を起こすと、眠る前に感じていた風邪の症状が軽くなっていた。 
    「降谷さん?」
     足元から風見の声が聞こえた。マットレスを背もたれにして文庫本を読んでいたようで、文庫本をおいて膝立ちで寄ってきた。
    「具合どうです?」
     額に手を当てながら、聞いてくる。
    「だいぶ楽になった、頭痛も寒気もほとんどない」
    「よかった、のどは?」
    「少し痛い」
    「そうですか…何か飲めそうですか?」
    「うん」
    「すぐ入れてきますね」
     そう言うと、風見は立ち上がって、ダウンジャケットを僕の肩にかけて、風見は寝室から出て行った。5分ほどで、ほこほこと湯気がたつ、ティースプーンがささったままのマグカップを二つ持って戻ってきた。
    「おまたせしました、熱いので気をつけてくださいね」
    マグカップを受け取って中をみてみると、透明な液体の中にゆずの果肉がふわふわ浮いていた。
    「ゆず茶か?」
    「はい、市販のゆず茶にすりおろした生姜と少しだけ蜂蜜も入れました。風見家は、風邪の時はうどんとゆず茶なんです。
    ゆずと生姜が下に溜まっちゃうので、スプーンで掬って飲むのが風見家流なんですよ」
     なるほどだからスプーンがささったままなのか。ふぅふぅ息を吹きかけてゆず茶をのんだ後、スプーンで掬った柚子を食べる風見に倣って、僕もマグカップに口をつけた。なるほど白湯にとけたはちみつと甘さの後に、掬ってたべる柚子の苦味と生姜の辛さがちょうどよくて、喉によさそうな味かする。
    「かざみ」
    「はい」
    「ごめんな」
    「いいえ」
    「きてくれて、ありがとう」
    「いいえ」
     鼻がツンと痛くなって、視界がぼやけてマグカップの表面が揺れた。
     誤魔化すように咳払いをして、カップに残ったゆず茶を一気に飲み干した。

    おわり
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