君の夢朝 目が覚めると 別れたはずの親友兼元恋人が横に眠っていた。
全く身に覚えがない。そもそも何故居るのかが分からない。ぐっすり眠って朝からスッキリ!な筈であったのに、朝から冷や汗ビッショリ!である。
もしかして……私を殺しに来た……?
冷や汗タラタラ。悟はスヤスヤ。心臓バクバク。ドキがムネムネ。
…は?大丈夫か私、最後のは一体なんなんだ。焦りすぎか?
「鼠が虎の寝首をなんとやら…か?……いや!悟は鼠じゃない、綺麗な白猫だ。」
初対面の人間が聞いたら思わず「まだ寝ぼけていらっしゃいますか?」と聞いてしまいたくなるような惚気けたセリフだが、本人は至って真面目である。
「いやでも…この状況はまるで 浮気後帰宅して即寝てしまったら実は寝てる間に携帯の通知欄を覗いた妻に浮気がバレてその事を起きてから知った最低夫みたいじゃないか……はは、まぁ妻だっていくらなんでも殺しは……」
昨夜テレビで報道されていた「浮気夫殺害事件」を思い出し青ざめる私…。
「怖いですねー」とまるで他人事のような興味の無さげなコメントをしたタレントに(こいつ浮気してそうだな)と心の中で嘲笑っていたが、よく考えてみれば、最後に悟と会った10年ほど前のあの時は酷い別れ方をしてしまったし、本心をしっかり伝えたはいいがとても驚かせてしまっていたから笑っていられない。
今でも鮮明に思い出せる、あの時の悟のなんとも言えない表情……これでは私の言う最低夫と変わらないのではないか……と勝手に落ち込んでいたその時
悟のまつ毛が
ピクッ、
と
(動いた?動いたよな?動いたよな??)
「ぅ……ん…………むにゃ」
(……ッッッ殺される!!!!!!!)
悟の言い放った一言(むにゃ)で私の脳内に設置された緊急アラートが一斉に作動した。
いくら何でも!いくら何でも、大親友の私でも、悲しみ怒った本気の悟に勝てるかと問われれば返答を悩む位 彼は強いのだ。
走れ スグル。私はきっと恨まれている。私はきっと首を狙われている。先刻の、あの悪魔の囁き(むにゃ)は、これは夢だ。悪い夢だ。忘れてしま……え……さ、さ
「悟……?お、起きたのかい……?」
(もうダメなのかなぁとせめてもの笑顔を取り繕う。いや諦めるのが早いぞゲトウスグル、…あー、最後に美々子と菜々子に会いたかったなぁ、……だから…諦めるのが早いぞ私)
「おはよーすぐる……朝から鳥がうるせーのなんのって……つーか今日はお前も朝からうるさかったな、どした?エロ本無くした?」
「???……君は…………なんで至って普通なんだ……?」
「ハ?」
「は?」
「「は?」」
私はまぶたをかっぴらいて悟を直視することしか出来なかった。目が乾いてきたからもうやめよう。
しかしなんだ、殺気も、怒りも、それどころか迫力も、最強のさの字も見えない、ただの寝起きの悟がそこにいるだけなのである。今朝は本当に忙しい。感情の波が。
「何言ってんのか全然わかんねーよ、てか朝飯まだー?最近俺ばっか(ホットケーキばっか)作ってたんだからそろそろお前が作れよー。簡単におにぎりでいいからさー」
なん…だと……?"簡単におにぎりでいい"だと?手間はまあまあかかるが箱に冷凍食品を詰めるだけでも出来てしまうお弁当とは訳が違うんだぞ?おにぎりをなめるなよ!
いやそうじゃなくて!!!!
何言ってんのか全然わかんねーよって言いたいのは私の方だ!!!まっっったく状況が読み込めない!怖!何故、高専の時のように元通りになっているんだ!
「すぐるはやくーー、おにぎり〜」
「こらこら私はおにぎりじゃないよ。」
すぐるだよ、
(夏油傑だよ、おい、君がめちゃくちゃ怒ってるであろう夏油傑が目の前にいるんだぞ?君が今急かしているすぐるさんは誰なんだ?同名の別人か?
…………誰なんだそれは許さないぞ。)
もしかして油断させられて殺されるのかな私。そんなチョロくないけど…君に殺されるのなら本望だ。最後に美々子と菜々子に会いたかったなぁ…嗚呼、高専時代がとても懐かしいよ、戻りたいなぁ、皆今頃どうしているのやら……
私はあるはずのない走馬灯を見上げぼんやりしながらその場に立ち思い出に浸っていた、が、走馬灯はちぎられたビデオテープのように途切れてしまった。
悟が私を後ろから抱きしめてきたからだ。
「悟……?」
「はやく、腹減った、あと頭撫でて」
「はいはいわかったよ、おにぎりね。温かい茶を入れてくるから 椅子に座っていい子に待ってるんだよ 」
「おう!おれホットミルクの方が好きなんだよなぁ!」
「はいはい、ホットミルクね」
こいつチョロいなと思ったそこのさ……猿とまでは言わないから君、どうか見なかった事にしておいてくれ。
つづく