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    bad_oniisan

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    ロナドラ。ドラルクが性体験について淡々と話すだけ。思いきし幻覚

    童貞談義 真夜中のテンションに乗じた売り言葉に買い言葉だった。
    「俺のことドーテードーテー言うけどな、じゃあテメーはどうなんだよクソ砂!」
     いつもならすかさず、ややこしい言い回しでいて妙に的確な返事が返ってくるのだが、口から生まれたような吸血鬼が不意を突かれた面持ちになって束の間黙った。口喧しく言い返されれば殴り殺すのも躊躇はないのに、急に黙られると途端に悪さをした気分になる。
    「そ、そういうことを言い返されたくなかったらな、人のこととやかく言うんじゃねぇよ」
    「ああいや、」
     俺の方から身を引いたのに、ドラルクはそういう意味ではないと軽く手を振ると、おもむろに思案するように顎に手を添えた。
    「どこまで言うべきか迷ってしまってな」
    「あ?」
    「よくよく考えれば、私は世に言う素人童貞だったなと……」
    「なんて?」
    「これでどうロナルドくんにマウントが取れるか、つい真面目に考えてしまった」
    「テメコラ」
     胸元のヒラヒラを鷲掴み、死なない程度に掴み上げる。
    「本場のマウント見せてやろうか」
    「君、最近ゴリラなのを否定しなくなったよな」
     ドラルク冷静に指摘しつつ、胸元からやんわりと俺の手を引き剥がすと、ソファーに足を組んで座った。突っ立ったままでいるのも馬鹿馬鹿しいので、俺はデスクの椅子に座るとそれを見計らってドラルクは語り始めた。
    「ご存知の通り我が一族は高貴な血族でね。お祖父様やお父様など、人間から畏怖とともに爵位を与えられる程だった。今でこそロナルドくんでも気さくに話せるが、世が世ならそれすら叶わないというわけさ」
    「は? 殺す」
    「蛮族か? まぁ話はここからだ。百八十年前ともなれば、ノブレスオブリージュの精神は当然の如く残っていたし、私も人間の貴族同様、家庭教師をつけられマナーというマナーを徹底的に仕込まれた」
    「その結果ゲーマーかよ」
    「その点については私の趣味と反抗心あってのことだが、今の話に関係ないから割愛しよう。当時の貴族のマナーは食事作法から仕草に留まらず、閨まで至ったんだな」
    「ネヤ?」
    「ベッドマナー。今でこそプライバシーとか子供の権利とか色々あるが、当時はそんな概念なかったからなぁ。日本にもあるだろう、将軍様に夜の手ほどきを教える女性が。それに近いことが教育の一環として私にもあったわけだ」
     デスクチェアにふんぞり帰って聞く耳半分で聞いていたのに、気がついたらデスクから身を乗り出す有様で聞き返していた。
    「そ、そんなえっちなハーレムがドラ公に」
     俺はどんな顔をしていたのか、ドラルクは一瞥をくれるなりなんとも言い難そうな面持ちで目を閉じそうなほど細め、顎をさする。
    「ふぅむ……、やはり我が幼少期はロナルドくんにとって垂涎ものだったか。ここでマウント取ってみたい気もするが、さして楽しいことでもなかったから今一つ気乗りしないな……」
    「楽しくねぇっておっま」
     おっぱいパラダイスじゃなかったのかよと我ながらIQ2の発言をすると、ドラルクは一層難しい顔をした。
    「正直に言うと、君が女性の胸部にリビドーを感じる理由わからん。美しい造形だとは思うが、私にとってはそれだけなんだよなぁ」
    「そんな男いんの?」
    「いるさ、ここに。私自身、生まれつき肉付きが薄かったからかねぇ。柔らかな肉が集まった部位というのが、いささか恐ろしい。どこまでも沈み込んで、気がついたら恐ろしいことになってしまいそうで」
     ドラルクの言に対し、悔しいことに俺は返す言葉を持っていなかった。
    「触ったことねぇからわからねぇ……」
    「君、こんな話題で目からハイライト消さなくとも……」
     まぁともかくだ、とドラルクは話を仕切り直した。
    「女性は全てケツホバリング家庭教師が用意した女性だった。君は私がされた躾をパラダイスと言ったが、時の将軍が閨で女の傀儡にならないよう必ず監視する人間がいたように、私の行為は常に師匠の知るところだった。初めはそこそこまともにできたことが、数を重ねるうちに抱くこともままならなくなるまで全てな」
     男として不穏な単語が出てきてつい真面目に気遣ってしまう。
    「それは……ED的な?」
    「実際のところ、どうだか知らん。閨で女性に触れられるだけで死ぬようになってしまった。触れるだけで死んでいては話にならないからな。女がダメなら男を、と少年をあてがわれそうになったところでシンヨコの城に逃げた。女性との行為はそれっきりだ」
    「でもお前、若い女の血が飲みてぇってよく言うじゃねぇか」
    「語弊があるが、一言で言うと食の趣味だよ。白飯かパンなら白飯が良い、みたいに男か女なら女の血が良い程度の話だ」
    「じゃあお前が隠し持ってたうなじAVは」
    「言うなれば観賞用かなぁ。時々見たくなるし、そうした興奮も恋しくなる。けれど君やヘンナノを見ているとつくづく思うのだが、私は君らに比べてリビドーがどうも薄いらしいな。そこまでの渇望は感じたことがない。無いなら無いで、とりあえず生きてられる」
    「いろんな人間がいるんだなぁ……」
    「まぁ、吸血鬼だがね」
     人が人類の神秘めいたものを感じて感心しているところに、ドラルクは意味ありげに笑ってソファーを立つと、マントを翻してデスクに腰掛け、おもむろに俺の顔を覗き込んできた。
    「随分と気の抜けた顔をするじゃないか、退治人くん。私を女も抱けない吸血鬼と侮ったかね。しかしこうは考えられないか。古く格式ばった教育のため女ばかりあてがわれていただけで、私が本当に求めるところは男だったのではないか、とね」
     手袋で覆われた骨張った指が、おとがいをなぞる。
    「今は大人しくとも、明日、君の清らかな身体を私が食い漁らないとも限らない……」
     心臓が大きく脈打つ。腕が知らず細い腰へと伸びようとしたところで、ドラルクはひらりと身を翻した。
    「なーんてね。触れられたぐらいじゃ死ななくても、君が相手じゃ寝返りを打たれただけで死ぬからな。今のところ少年にも君みたいなゴリラにもリビドーを感じたことはないから、まぁそこは安心したまえ!」
     ドラルクは意気揚々と捲し立てると、はたと気づいた風に小首を傾げてまじまじと俺の顔を覗き込んだ。
    「さっきの話題で青ざめるならわかるんだが、赤くなるようなポイントあったか?」
     マジギレ?と聞き返すドラルクの顔面に拳で返す。瞬く間に灰と化した箱入りの吸血鬼に俺も言ってやりたい。
     今日までおっぱい大好きだった男が、今この瞬間から新たな性癖を開拓したって、何もおかしいことはないだろう。
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