恋こじらせると変になる自分の上司はとてもすごい人だ。
容姿や頭脳は人並外れており、潜入捜査官としてのスキルはもちろん、料理までプロ級の腕前だ。
何よりすごいのはその正義感だ。
この国を守る彼の右腕として働いていることを自分は誇りに思っている。
ただ、困ったことがある…
そんな彼に自分は恋をしてしまったのである!
仕事の面では厳しい彼が説教しつつもお弁当を差し入れてくれたり、潜入先に呼び出して助手として紹介されたり…あれは業務上の都合なのに、とんだ勘違いしてしまったのものだ。
問題は恋をしてしまったことではないのだ。
恋にうつつをぬかして使えないやつだと思われるのが駄目なのだ。
あの容姿だけに他人に恋情を向けられるのは慣れているだろうし、勘のいい彼のことだからこちらの感情に薄々気付いてはいると予想する。
気付かれていることもたぶん問題はない。そんな些細なことにわずらわされる人ではない。仕事に差し支え無い限り、こちらの気持ちにも気付かない振りをし続けてくれるとは思う。
だが、万が一にも支障が出たときには…
連絡役の解任だけはいやだ!
僕の部下はとてもまじめで有能だ。
上司の命には忠実に従い、公安として十分働きながらも弱き市民の味方であろうとする警官の鑑のような漢だ。
忙しさから自分の健康には無頓着になっている部下に差し入れたり食事に連れ出したりしているうちにまずいことになっていた。
部下が上司の僕に恋をしてしまったようだ。
まずいのは向けられるその感情のことではない。
向けられる感情に気づいたときには困ったことにならなければよいと思ったがそれは杞憂だった。
最初は漏れ出てくる気持ちに本人も気付いていなかったようだが、そのうち自覚したのか途端に感情を隠すようになった。
とりあえず問題無ければと様子を見ていたが、そのうちに開き直ったのか何故か素直に感情をあらわすようになってしまったのだ。
恋情にプラスして、相手から気持ちが返ってくる可能性がゼロという確信と異常なほどの解任への恐れともに…
向けられる恋情にこっちもやぶさかでない感じに思っていたのに何故そっちの方に行ってしまったんだ。
そもそもあいつは尊敬や畏敬を通り越して僕を神聖視しすぎてはいないか。僕が恋情などもたない完全な人間などと信じて疑わない節がある。
なんでそんな風にこじらせるんだ
(終わり)