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    door_yukiji

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    door_yukiji

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    がとうる。続きもの2。今回は伊月視点でPPP生還直後の話。二人の周りの人間関係とか色々勝手に設定してますが、ご容赦ください。

    次の話→https://poipiku.com/1971364/10334893.html
    前の話→https://poipiku.com/1971364/10317076.html

    この夜を晴らす光 2「ママはね、伊月にお月様みたいな人になってほしいの」

    おとぎ話のようなメルヘンチックな願いごとを母さんから打ち明けられたのは、小学校の入学初日に「漆原伊月ちゃん」と名前を女の子と勘違いして呼ばれたのがきっかけだった。

    「お月様は、真っ暗な夜でも綺麗に光ってるでしょう。本当はね、遠いところでお日様がお月様を照らしてくれているから、あんなに綺麗に光って見えるの。伊月には周りの人たちに支えられてピカピカ輝く人になって、それから、お月様みたいに綺麗な心でたくさんの人を助ける人になってほしいなって。ママとパパで考えて、それで「伊月」って名前にしたの。……でも、ちょっと女の子っぽかったかな。ごめんね、伊月。困っちゃうね。ママは伊月の名前とっても素敵だと思ってるから、自分の名前を嫌いにならないでね」

    今どきなら珍しくもないが、僕の世代にしては中性的な印象の字面だったためか、名前を呼ばれるときに女の子と間違えられることが時々あった。それでバカにされた記憶もないし、大して気にしてはいなかったが、入学初日にあった出来事の一つとしてまた女の子の名前と勘違いされた話をすると、母さんが心配そうな様子で謝ってきたので、むしろそっちに困ってしまった覚えがある。
    女の子に間違えられることは年を重ねると自然に減っていったし、自分の名前が嫌だと思ったこともない。男子校に入ったあとは必然的に女子と勘違いを受けることはなくなったし、むしろ漆原という画数の多い名字より伊月という半分以下の画数で済むシンプルな二文字のほうが気に入っていた。

    「うわっ! いっちゃんの成績表えぐっ、全部1位じゃん」

    進級後すぐに行われた試験の結果が配られて、HRを終えた教室はあちこち騒がしい。帰り道の同じ友人二人と成績表を見せ合うと、椅子の背を前にして逆向きに座っていた友人も大げさな叫び声をあげた。

    「やべー、入学試験のときからずっと1位だろ? こりゃあ高等部ではいっちゃんが不動の1位かー?」
    「いっちゃんは君と違って、常に真面目に勉強しているんだ。努力の成果だろう」

    褒められると少し照れるが嬉しい。でも満点は逃したな、と密かに狙っていた全教科満点への心残りを呟くと、横に立っていた友人が肩をすくめた。

    「充分すぎる結果なのだ。うちの試験は受験を意識した嫌らしい問題も多いし、全教科満点取ったことあるやつなんて牙頭ぐらいしか見たことがない」
    「がとう? 誰それ?」

    がとう。確か、一年のときにも聞いた覚えがある。そのときは聞き慣れない響きが人名だとすぐには分からなかったけれど、同じようにクラスメイトと試験結果の話をしていたときに『首席でもがとうは別だろ』とかなんとか言われた。
    誤魔化すみたいにすぐに話題が変わったし、頭は良くても運動は苦手だろ、みたいな何か僕が知らない分野を引き合いに出した軽い当てつけかと思っていたけど。人の名前だと分かると、話が変わってくる。
    『がとうは別だろ』
    あれは、がとうという生徒を含めれば、僕は首席ではなかったと言いたかったのだろうか?

    「え? あー、そっか。いっちゃんは受験組だから、あいつが中等部で無双してた頃のこと知らないんだ」

    無双。そこまで言われるとは、よっぽどデキるやつらしい。興味を惹かれてどんなやつかと聞くと、二人は苦い表情になった。

    「僕たちが一般レベルと比べれば優秀な部類だとして、牙頭はそこからさらに頭一つ抜けた天才だ。しかし気性が荒く、協調性に欠ける。人間性は評価に値しない」
    「関わらないほうがいいぜ、殴られたって奴も居るし。なんていうかなー……やれば絶対1位穫るくせにテスト手抜きしてるし、一人だけ俺らとは別次元で戦ってんだよ」
    「絶対1位?」

    暗に僕より上だと言われて思わず口を挟むと、椅子に座ってこちらを見上げている目元にぎゅっと眉が寄った。

    「……いっちゃんはさぁ、努力型じゃん? 牙頭みたいなのとは張り合わない方がいい。なんでもできて当然で、できない俺らがバカなだけみたいな、なんかすっげーこっちの劣等感刺激してくる奴だから」
    「そんなに?」
    「俺は無理。俺だって十番争いできるレベルで成績良い方なのに、話の通じねーバカみたいな扱いされんだもん。嫌んなるって」

    嫌な思い出があるのか、げんなりした顔で頭を逸らしている友人に続いて、同感だ、ともう一人の友人も頷いた。

    「空気を読まないにもほどがある奴だからな、僕も関わりたくない」
    「つうかアイツ、絶ーっ対に俺たちだけじゃなくて先生たちのこともバカにしてるよ。教師に金握らせて言うこと聞かせてるって噂もあるし、マジだったら相当やばい奴だって」
    「……そいつ、会ってみたいな。クラスどこ?」

    頭は優秀だと認められているのに、人物像に関してはまるでいい言葉が出てこない。どんな奴か実際に会って話したくなって訊ねれば、二人から同時に呆れた目を向けられた。

    「これだから漆原伊月という男は……。なぜ、向上心と好奇心は別物だと理解できないのか」
    「いっちゃんさ~、人の忠告を聞いた上でマイペース貫くの、信用なくすぜ?」
    「ありがとう。そうやって色々言ってくれるから、二人ともいつも感謝してるよ」

    試験結果を聞きに寄ってきた他のクラスメイトたちにも牙頭の印象を聞いたが、返ってくる言葉はだいたい一緒だった。
    天才だけど、嫌な奴。
    みんながみんな同じ印象を持っているので、ますますどんな奴なのか気になって、さっそく次の日の休み時間、牙頭がよく利用しているという屋上に向かった。

    それが、僕が唯一無二の親友と出会うまでの経緯いきさつだ。



    === === ===



    賭場から自宅へ戻ったころには、すっかり外は暗くなっていた。ラウンド無制限の影響で試合時間が延びたのと、ギャンブラーを辞めるにはどうするかなど蔵木たちと話し込んでいたせいだろう。

    帰宅した部屋の明かりをつけて、住み慣れた部屋を見渡すと、まるで他人の家に間違えて入ってしまったような居心地の悪さを覚えた。
    職場から勧められるまま借りた部屋には、最低限の物しか置かれていない。白い布張りの壁ばかりが目立つ、がらんどうな空間。ただ寝るためだけに帰るような場所で、冷静になって見れば見るほど、もう何年も暮らしてきたというのに何の愛着も感じさせない寂寞とした有り様だ。
    執着したあとに失うことを怖がって、身の回りの全てを無価値だと思いこんで、今まで自分に嘘を信じ込ませていた過ちの実証例。こんな病室みたいな場所で自己否定と嘘の構築を繰り返してきたのかと思うと、よく今まで心を壊さずに済んでいたものだと他人事のように感心する。
    ガッちゃんが居なければ、今ごろ本物の病室で寝起きすることになっていたかもしれない。

    試合で頭を使いすぎたのか、家に着いてもまだ意識がぼんやりしていた。食欲も機能していない。それでも明日も仕事だから、ひとまずシャワーだけでも済ませようと体を動かした。



    シャワーに打たれながら、自分の形を確かめるように体を洗った。手に、足に、感覚があることを確認しながら泡をこすり落として、この体が確かに生きていることを頭に理解させていく。
    死ななかった。
    死なせずに済んだ。

    「…………バカだな」

    口の中で呟いた言葉は、シャワーの音に消された。
    最初から、自分にとって何が価値あるものか知っていたのに。いつか失うのが怖くて、目の前で儚く消えてしまう前にいっそ僕の知らない何処かへ行って幸せで居てくれればいい、そのほうが気が楽だと本気で考えていた。
    最初から大切だなんて認めなければ、失っても耐えられる。
    失いたくないと認めなければ、離れていっても耐えられる。
    そんなふうに考えていた。
    バカだ。
    自分の本心から、ずっと目を逸らし続けていた。



    シャワーを終えて部屋に戻ると、ガッちゃんからメッセージが届いていた。
    二週間先に、一日予定を空けてくれるらしい。大勢の社員を抱えて忙しいガッちゃんが休みを作ってくれたのだから、僕も予定を調整しなければ。今から丸一日スケジュールを空けるのは無理だとしても、半日ぐらいは時間が作れるはずだ。

    大切にするとは言ったけれど、実際のところ、今すぐに何ができるだろうか。
    手ぶらで来いとは言われたけど、本当に何も持たずに向かうのは甘えすぎだ。けれど、誰かを大切にしようという意識なんてずっと思考の外に追いやってきたから、その方法が分からない。
    大切な人たちの顔を思いだすと、自分が随分と薄情に接してきたことを思い知らされて溜め息がこぼれた。

    家族には、誇れる仕事ができていないことでまともに顔向けできなくて、年に一度でも会えばいい方だった。心配してくれる言葉に返事を送ることさえなおざりになって、不安を感じさせていただろう。
    いまだに連絡をくれる友人たちにも、いつ見限られるか、いつ失ってしまうのか、勝手に不安になって誠意のない対応ばかりしていた。呼び出されても会いに行く気が起こらず、昔のように素直な気持ちで言葉を交わすこともできず、こちらから連絡を取ることも無くなっていた。
    職場の人にも、軋轢を生まないための慣習的な気遣いしかしてこなかった。愛想のない不気味で暗い奴だと思われているだろう。

    大切な人。大切なもの。本当はたくさんあったはずだった。
    全ての価値を否定して、興味をなくしたふりをして、結局は自分を見失っていただけだ。
    何をやっていたんだか。

    これまで目を背けてきた人たちに、今からでも返せるものは返していこうと決めて、ひとまずガッちゃんに承諾の返事をする。すぐにまた返事がきて、「よろしく」と短い一文が画面に現れた。

    「……」

    たった四文字の言葉に、目が釘付けになる。手の中に浮かんだ文字に見入ってしまい動けない。
    ディスプレイが勝手に暗くなるまで、込みあげてくる気持ちを静かに噛み締め、立ち尽くしていた。

    さっき別れたばかりなのに、もう会いたくなっている。
    命懸けのスリルとは違う、漠然とした、苦しいとも悲しいとも言い切れない途方のない切なさに胸が軋む。一瞬の別れが永遠の別れになることを否定しきれない不安。この不安がこびりついた現実から、ずっと目を逸らしてきたんだ。

    会いたい――なんて送ったら、電話で声を聞くぐらい許してくれるだろうか。
    とはいえ、さすがに今日の今日でそんなことを言ってはまた心配をかけるので、勝手に手が動かないうちに携帯をテーブルの脇へ遠ざけて、気持ちを切り替え夕飯の準備をすることにした。
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