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    door_yukiji

    @door_yukiji
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    door_yukiji

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    がとうる。続きもの4。伊月がガッちゃんの家にお呼ばれする話。

    次の話→https://poipiku.com/1971364/10355672.html
    前の話→https://poipiku.com/1971364/10334893.html

    この夜を晴らす光 4学校のどこで見かけても、ガッちゃんはいつも機嫌が悪そうな顔をしている。
    そりゃあ、周りから嫌われてるのにニコニコ笑ってられるわけがない。体が大きい上にガラも悪いし話し方も粗暴なので、機嫌が悪そうな顔をしているだけで威圧感があって余計に人を遠ざけている。本人も自分が周りからどう見えるのか自覚があって、あえて人を遠ざけている部分もあるから態度を変える気がない。不用意に人を近づけて無駄な時間を過ごすことを避けていて、ストイックに自分のやるべきことへ時間を使っている。
    周囲に嫌われてでも、自分が正しいと思うことに全力を注ぐ。その姿勢に僕にはない強さを感じて惹きつけられたから、たまに見せてくれる笑顔が余計に貴重なものに感じるのだろう。
    人と無駄に関わりたくないと思っているのに、僕に付き合う時間は無駄じゃないって思ってくれているみたいで、ガッちゃんがちょっと笑ってくれただけで僕はすごく嬉しくなる。



    「市場調査なんだから、もうちょっとやる気ある顔しなよ」
    「オメーがただ単に飯食いたかっただけだろ……」

    教室を出たら、廊下でガッちゃんの姿を見つけた。クラスが違うと授業の終わる時間も違うし、放課後は予備校もある。今まではタイミングが合わなくてガッちゃんと一緒に帰れた日が無かったけれど、今日はちょうど何も予定がなかった。一緒に居たクラスメイトたちと別れて早足で追いかけると、なんとか昇降口で捕まえた。

    珍しく一緒に帰れるのに家まで真っ直ぐ帰るだけなのは嫌で、近くにあるファミレスへ寄っていこうと誘うと、ひとまず予想通り断られた。帰ってやることがある、って。いつも通りストイックな言葉が返ってきて、流石だな、と口には出さず痺れた。でも、僕を無視するとか早足で置いていくとかの明確な拒絶はなく、否定と反論をあれこれ口にしながらも最終的にはガッちゃんの利益にもなる『市場調査』という名目に乗ってくれた。

    「えっ、見て。ここカラオケもあるんだって。中どうなってるんだ?」

    そんなわけで到着した先。訪れたチェーンレストランの看板には、以前別の店舗を家族と利用したときには無かった案内があって目を引かれた。
    近くにファミレスがあるのは知っていたけれど、実際に通学路から逸れた路地を通ってこのお店まで来たのは今日が初めてだ。普段友達と放課後に寄るお店といえば、気軽に空腹を満たせるファーストフード店か、予備校が始まるまでの時間つぶしにちょうどいい駅前の喫茶店だった。初めて来たお店で『カラオケあります』という思いも寄らぬ案内を見つけてワクワクした。

    「フリータイムでいい?」
    「……おい」
    「ドリンクバー付きで、学生は……いや、待て。時間が中途半端だから、普通に学生料金で入ったほうが安いか」
    「おいコラ、伊月っ!」

    大きな声で呼ばれて後ろを振り返ると、ガッちゃんがまた怖い顔を作っていた。

    「テメー、市場調査つったろうが!」
    「カラオケとファミレスが一緒になってるお店とか、見たことある? 僕初めて見たし、ガッちゃんも気にならないか? 見ておいたほうが良くない?」
    「お前、そうやって自分のやりたいこと押しつけんのいい加減に――」
    「カラオケ、イヤ?」
    「……っ……」

    イヤじゃなそうだ。
    腕を引っ張ってレストラン兼カラオケらしい店の自動ドアをくぐると、ガッちゃんはその場に踏ん張ったりせず、足取りは重いがちゃんと着いてきてくれた。

    「カラオケで遊んだことある?」
    「ない」
    「やっぱり」
    「なに笑ってんだ」
    「いやあ、ガッちゃんに僕が教えてあげられることもあるんだなぁと思うと、気分が良い」

    振り返って言えば、ガッちゃんは口を半開きにして呆れた。面白い顔になってくれたので、ますます笑えてくる。

    態度も体も大きいし、周りとつるまないし、みんなには一匹狼っぽく思われてるガッちゃんだけど、実際に接してみるとそんなことはない。
    牙頭猛晴なんて格ゲーキャラみたいな尖った名前のわりに、狼なんて猛獣に例えるには根の性格が優しすぎる。自分の優秀さを無関係の他人のために還元しようと本気で計画してるところとか、僕にいくら絡まれても文句は言いつつ付き合ってくれるところ。乱暴者だと思われているけど、今日だって通行人とぶつからないようにさりげなく歩きながら脇に寄ったり、周りに迷惑をかけないように行動しているところもそう。
    獰猛には思えないけれど、無愛想が板についていて、小動物みたいな可愛さがあるわけでもない。犬ほど人懐っこくもない。だからもし例えるなら、人慣れしていない大きい猫みたいな感じ。
    構い過ぎると嫌そうな顔するし、毛を逆立てて威嚇するみたいに口の悪い言葉を投げてくるときもある。屋上なんて日当たりのいいところが好きなところも猫っぽいかも。笑うと鼻の上がくしゃってなるところも、猫があくびするとあんな感じじゃなかったか。最近では、こんな風に腕を引っ張っても大して嫌がることなくされるがままになってるあたりも、慣れた人間相手には好き放題させてる感じの猫っぽい。
    だからかもな。学校生活ではなんだかんだ気を張っているけど、ガッちゃんと居ると肩の力を抜いて楽で居られた。

    受付を済ませて店員さんに案内された通りに進めば、レストランフロアの奥がカラオケスペースに切り替わっていた。
    いくつめかの扉を開けて入ると、部屋は少し古い感じで狭かったけど、僕でも使い方が分かる一般的なカラオケ機材が備え付けられている普通のカラオケルームだった。

    「ガッちゃん、何歌う?」
    「……オレも歌わされんのか」
    「そりゃそうだよ、せっかく来たんだから」

    僕も特に歌うのが好きというわけじゃないし、予定通りファミレスでご飯食べるだけでも良かったんだけど。今日ここへ来るまでに話していた感触では、ファミレスはまたいつでも付いてきてくれそうだったから、いま機会を逃すと誘うのに手間取りそうなカラオケへ予定を変更した。
    はたして、声が大きくて早口で威勢の良い言葉をまくしたてるのが上手なガッちゃんは、歌がうまいだろうか? 気になるじゃないか。

    ガッちゃんのことがもっと知りたい。
    僕たちはまだ知り合ったばかりで、何が好きか、何が得意か、知らないことがたくさんある。何を考えてるのか、何を思うのか、何を楽しいと感じるのか、もっと色々教えてほしい。
    そのついでに、僕のことも知ってくれればもっと嬉しい。

    「たまにはこういうのもさ、楽しいと思うよ」

    まずはソファーに並んで座って、タッチ式のリモコン画面の見方から覚えてもらわなくちゃ。



    === === ===



    「花だ」

    正午過ぎの日差しが差し込む見慣れたテーブルに、見慣れないものがある。
    仕事関係でもらったのだろうか、綺麗に花を詰め込まれたバスケットが置かれていた。
    もう何度もこの家には来たことがあるが、今までガッちゃんが花を飾ってるところなんて見たことがない。もらったとして、お店のほうでいくらでも有効活用できるものを一人暮らしの自宅に持って帰るだろうか――というか、そんなこと考えるまでもなく、どうしてここに花があるかの事情は一目見て分かってしまった。僕が差し出した花束を見てガッちゃんが声をあげるほど笑っていたのは、これが理由だったわけだ。

    「っくく、まさか被るとはなぁ」
    「……自分も同じことしてるくせに、人のことよくあんなに笑えたな?」

    玄関まで迎え出てくれたガッちゃんへ持ってきた花束を差し出すと、驚いて目を丸くした後に声を上げて大笑いし始めた。僕がバラの花束を抱えていることがよほど面白かったようで、『オメーがバラ持ってくんのかっ!』と僕の顔を見ながら目に涙が浮かぶほど盛大に笑ってくれた。
    おかげさまで、僕は全身に変な汗をかいて耳まで熱くなっている。部屋に招き入れてもらって早々、ジャケットを脱いでガッちゃんと同じように楽な格好をさせてもらうことにした。

    大切な友人へ、感謝の気持ちを伝えたくて。
    花屋で利用目的を聞かれてそう答えると、ほかにも贈る人の性別やら好きな色やらどこで渡すのかやら、色々と聞かれた。そうして贈り物のプロにに作り上げてもらったのが、大人の男性が贈られても気後れせず、祝いごとの席に華やかさを添えるだろうと考えられた、オレンジ色のバラを主役にしたブーケだ。
    似合わないことをした自覚はあるが、まさかあそこまで笑われることになるとは思っていなかった。まぁ、僕だってあんなに大笑いされて疲れていなければ、テーブルに飾られた花を見て声を出して笑っただろうけど。

    「綺麗だね。これヒマワリ?」
    「あぁ」
    「こんな小さなヒマワリあるんだ、知らなかった」

    花が綺麗だ、なんて思う感覚も長いこと忘れていた気がする。
    ガッちゃんが用意してくれた花のバスケットには、バラと同じぐらいのサイズのヒマワリと、様々な青い花が咲いていた。白い細かな花も粉砂糖でもかけたみたいに点々と散らばって、周りの花の色を引き立てている。太陽と青空みたいな色のバランスが爽やかで、猛晴という名前の通り晴れた空のよく似合うガッちゃんらしいチョイスだと思った。

    まさか、ガッちゃんまで花を用意していたなんて。
    二人してガラにもない真似をして、それだけ今日会えることを特別に感じていたのだと思うと、やっぱりじわじわと笑えてきた。
    何を手土産に持って行くか悩んだ結果、感謝の気持ちとして定番の花束を贈ることにしたけれど、大正解だった。ガッちゃんが鼻の頭にシワを寄せてくしゃくしゃになった顔で笑うところを、久々に見れたから。

    「祝いの席だからな、それっぽいだろ」
    「そうだな、ギャンブル卒業記念だ」

    僕にとっては今までのお礼の側面が大きいのだけど、玄関先で笑われすぎて今はもうちょっと落ち着きたいので、また後で話そう。

    洗面所で手を洗ってから部屋に戻ると、ガッちゃんは花束を花瓶に移し替えていた。この家に花瓶があるかは知らなかったけど、商売柄すぐに手に入るだろうし、一つぐらいは家に置いててもおかしくないと思っていたので、読みが外れていなくて良かった。ガラス製のオシャレな花瓶に移されたバラの花たちがバスケットの横に置かれると、卓上の賑やかさが増した。

    「そっちのアレンジメントはお前が持って帰れよ」
    「え?」
    「お前んち殺風景なんだから、たまには花ぐらい飾ってみろ」

    キッチンに移動したガッちゃんが、冷蔵庫から取り出した料理をカウンターへ並べていくので、僕がそれをクロスの敷かれたテーブルの上へと運んでいく。奥にあるコンロの方からは何か煮込んでいる音が聞こえていて、オーブントースターを動かす音も聞こえた。たぶん、パンに焼き目をつけてくれている。さくさくと食事の準備が進んでいく。
    テーブルの上のヒマワリはガッちゃんのためにあつらえられたような力強さを感じる色で、僕がもらってしまっていいのだろうかと悩んだ。あんな何もない物寂しい部屋に置くよりも、質のいい家具に囲まれたこの部屋に飾られておくのがふさわしい気がする。けれど、僕が持ってきた花も増えたし、こんなにたくさんの花があっても困るだろうということも分かる。

    「半分だけもらっていこうかな」
    「妙な遠慮の仕方すんな」
    「遠慮じゃない。ずっとカゴに入れっぱなしだと、すぐ枯れるだろ? でも、うちで花瓶代わりにできるものなんてペットボトルぐらいしかない」

    ガッちゃんは最初から僕にこの花を持って帰らせるつもりだったのだろう。あの部屋に花瓶なんて無いことを察してバスケットで用意してくれたに違いないけど、こんなに綺麗な花をたった数日で枯らしてしまうのは心が痛む。ガッちゃんの家に花瓶があるなら、そこで長持ちさせてほしい。そう思ったが、どうやら見当違いな心配だったようでガッちゃんに笑われた。

    「そのまま放っておいていいんだよ。花瓶に移せるほどの長さは残ってねーだろ?」
    「水は? あげなくてもいいのか?」
    「中に長持ちさせる栄養剤みてぇなのが入ってんだ。何もしなくても一週間は保つ。それでも気になるんなら、中のスポンジに水含ませてやりゃあいい」
    「なるほど、そういう仕組みなのか」
    「食いもんじゃあるまいし、半分とか言わずに全部持ってけよ」

    指摘されてそれもそうだと納得した。半分だけ持って帰って、半分はガッちゃんにお世話してもらうというのも、それはそれで悪くないのだけど。
    僕が自分の部屋で花を綺麗だと見つめるとき、ガッちゃんも別の場所で同じ花を見て同じことを感じてくれたら、それだけで嬉しい。

    「……いつも僕からだったな、半分にしようって提案するの」
    「あぁ?」
    「ガッちゃん、僕が好きなものはぜんぶ僕に寄越そうとするし、自分が嫌いなものもぜんぶ僕に寄越すだろ」
    「いいじゃねぇか、好きなもの好きなやつが持ってったらいいし、嫌いなもの嫌いなやつが持っててもしょうがねぇ」
    「ああ。そうやって気負わず考えてくれてるのが、嬉しかった」

    ――でも、もらいすぎている。
    青空が詰め込まれたみたいな花のバスケットも。テーブルに並んでいく僕が好きな物ばかりの料理も。物だけじゃなくて、時間だって。
    長いこと、もらってばかりだった。

    僕が何もかもの価値を否定して、ガッちゃんのことだって大切にできていなかった時も、ガッちゃんはずっと僕を見捨てずにいてくれた。
    今までもらっているばかりだった、その優しさに報いたい。

    「ガッちゃん、何か欲しいものある?」
    「なんだよ」
    「今日は僕がおもてなしを受けたから、お礼にさ。卒業祝いなんだし、何かプレゼントさせてくれないか」
    「おーおー、花束の次はプレゼントかぁ? 随分と熱心なアプローチじゃねぇか」
    「照れるなって。僕とお前の仲だろ?」

    笑いながら軽口を叩いている間にも、ガッちゃんは手際よく食事の準備を進めている。いい匂いのするスープが鍋から器に移されていく様子をカウンター越しに覗きこんでいると、ガッちゃんは手元から目を離さずに話を続けた。

    「つーか、お互い地獄帰りだろ。お礼とか言ってねーで、お前も何か欲しいもんあるなら言えよ」
    「僕は……すぐには浮かばない」
    「オレだって、金で買えるもんはすぐ自分で買っちまうしな」
    「じゃあ、お金で買えないもので、何か欲しいものは?」
    「……」

    ガッちゃんの目線がコッチに移って、妙な間が空いた。
    『欲しいもの』と聞かれて、頭に浮かんだものはありそうだ。けれど、目線はすぐに手元へ戻った。言うのを躊躇っている。

    「欲しいもの、当ててやろうか?」
    「ギャンブルは引退したんじゃねーのか?」
    「これは僕のもとからの性格」
    「……だな。お前のそういう何でも知りたがるとこ、ガキのころから変わんねーよ」
    「……」

    ガッちゃんのことだから、知りたいんだろ。
    でも、僕はもうガキのままじゃないから、はぐらかされてしまうとこれ以上つっこんで聞くには勇気がいる。
    ……だけど、ここで引いたら今までと変わらない気がした。見て見ぬ振りをして、気づかないふりで後悔したくない。

    ガッちゃんのことなら何だって知りたい。
    僕たちは長い付き合いで、ほかの誰よりもお互いのことを知り尽くしている自信がある。相手が何を考えてるのか、何を思うのか、大概のことは言葉にしなくても分かる。
    それでも、言葉を交わしたい。教えてほしい。ガッちゃんの声で。

    「何が欲しい?」
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