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    door_yukiji

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    door_yukiji

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    がとうる。続きもの(1/15)です。今回は賭場から生還した直後の話。

    次の話→https://poipiku.com/1971364/10324184.html

    この夜を晴らす光小学生の時にクラスメイトと殴り合いをして、親を呼ばれた日。家に帰ってからデカい声で言われた言葉を、今でもよく覚えてる。

    「いいか、猛晴。お前に名付けた、猛々しいという文字には、強く、賢く、そして態度がデカいやつという意味がある!」

    いや、そんなわけあるか――と言ってやりたかったが、「お前はそのまま変わらずに居ていいんだ」と笑いながら頭を押し潰すように撫でられて、舌を噛まないように黙っていた。

    オレが周囲を見下しているとか、何様のつもりだとか、自分の不出来を棚にあげて嫌がらせを繰り返してくる連中にほとほと愛想が尽きて、まとめて一発締めてやった。
    次の日、学校へ呼び出された両親が校長室で長々と話しこんでいる間は、さすがにちょっとやりすぎたかと反省したが、「先生には私たちから話しておいたから大丈夫」とにこやかに言われて拍子抜けした。怒られるどころか、むしろ帰りの車内では何やら讃えられていた気がする。
    何を話しあっていたかは知らないが、それからは教師どもがあからさまにオレへの態度を変えた。ダルそうに嫌がらせを黙認していた担任も人が変わったように「いじめは犯罪です」とか声を張り上げるようになって、オレは同級生たちからより一層嫌われることになっていった。

    後から自分で調べたが、猛々しいという言葉には、図太いとか厚かましいとか、そういう意味も確かに含まれているらしい。
    もっとマシな意味の言葉を探せなかったのか、と自分の親に呆れもしたが、ふざけたことばかりに時間を浪費している奴らに頭を下げて仲良くしてもらうなんてオレはまっぴらごめんなので、周囲から孤立しようが図太く構えている生き方が向いているのも事実だった。

    公立校へ進むのではなく、中学受験して人並みよりは勉強できる奴らが集まる名門校に進学しても、状況が変わることはなかった。
    才能をひけらかしているとか、天才の考えていることは分からないとか、多少は口の立つバカどもがクドクドと謙遜じみた言い訳を並べてオレを疎ましがる。
    そんな奴らと同じ土俵に立ってるのがバカらしくて、高等部に上がる頃には真面目にテストを受ける気をなくしていた。
    授業も人間関係も退屈で、面白みに欠ける毎日だった。



    === === ===



    こいつに出会わなければ、オレは今頃どんな人間だっただろう。
    賭場から引き上げるタクシーの車中、後部座席に座る伊月とオレは、長いこと黙り込んでいた。

    話したいことも聞きたいことも、山ほどある。何から話せばいいかわからない。
    お互いに相手を守り合っていたこと。自分の命よりも大事な存在だと思っていたこと。今まで無意識な嘘で隠してきたことに、二人で向き合う機会を得た。試合終わりに告げられた、このまま賭場を去ったほうがいいだろうという雪村や蔵木の勧めといい、話がとんとん拍子にうまくいきすぎていた。試合を敵の思惑通りに動かされ、良いように踊らされて負けたというのに。ワケわかんねー神父の『善行』とやらのせいで、負けたことへの後悔が一切湧いてこない。かといって、得られたものの無上の価値に反して、勝利の爽快感もない。

    「現実感がないな」

    伊月も同じ気持ちで居たのだろう。ぽつりと聞こえた声に顔を向ければ、まだ険しさの抜けきらない顔つきで俯いていた。

    「賭場でも、仕事でも、負けてボロボロになっていく奴らを散々見てきたから。僕たちが負けたのに、無傷なのが……嘘みたいだ」
    「……だな」

    あのガラス室で、伊月のために死のうと覚悟した気持ちがまだリアルに残っていて、二人揃って「生きている」という現実感が欠けている。
    試合によっては、勝ったとしても最低限のペナルティを食らうことはあったし、ハーフライフで試合を組まれるようになってからは常に文字通り命掛けの戦いをしてきた。何があってもおかしくないと覚悟していたはずが、五体満足のままあの賭場から足を洗うことになるとは。そんな甘い想像はしていなかった。

    「あんな吹き溜まりで、得るものがあるとはな……」

    伊月が深い溜め息をこぼす。
    誰だって普通に生きているだけでも人の悪意に悩まされるが、こいつは普通の何倍もクズの悪意やバカの浅はかさに触れてきて、不都合な事実を都合の良い形に取り繕うことを続けてきた。そのたびに、悪人の味方だ、人の心がないだ、散々批判の言葉を向けられていた。
    世の中の不条理に向き合いながら、日に日に疲れて明るさを失っていく伊月を、変えてやらなくちゃと思っていたのに。オレもいつの間にか自分を見失って、伊月にかけるべき言葉が分からなくなっていた。
    遠くないうちにこいつの死に目に立ち会うことになるんじゃないかと、心のどこかで考えていた。諦めかけていた。

    「時間空けるから、またウチに飯食いに来いよ」

    最近では、プライベートで顔を合わせる機会も減っていた気がする。
    こいつのためなら何だってできるのに、忙しさを言い訳にして無意識に逃げていた。大嘘つきだ。本当は、一日だって欠かすことなく会いたいと思っていたはずなのに。

    「それなら、僕も何か作って行くか」
    「いーよ、手ぶらで来い。なんか作ってくれんならウチのキッチンのが広いし、材料も近場で揃えりゃいいだろ」
    「……ああ」
    「……」

    視線を落としたまま表情を変えない伊月の体を引き寄せて、強引にオレのほうへ寄りかからせる。小せぇ声で戸惑っているのが聞こえたが、躊躇う空気を無視して伊月の頭を肩へと乗せると軽く手を置いた。てめぇの居場所はここだ、と分からせるために。

    「オレの横に居てくれんだろ? お前が好きなもん作ってやるから、オレの横で休んでろ。たまには肩の力抜け」
    「…………ありがとう」

    小さな声が聞こえたあと、肩に触れているだけだった頭にストンと重みが加わった。

    「なぁ、ガッちゃん」

    穏やかな声がすぐ近くから聞こえるのが心地よくて、呼びかけに答えながら目を閉じた。小さいけれどハッキリと聞こえる声が、オレに語りかけてくる。

    「これからは、全部無価値だなんて嘘は言わない。僕が大切だと感じたものを、素直に大切にする」
    「あぁ」

    伊月に寄りかかられた部分が温かい。当たり前のことに感動して、二人で生きて帰ってこられた実感がようやく湧いてきた。

    「オレはオメーが居ればなんだっていいんだ。お前のやりたいようにやれ。欲を言うなら、今までより元気そうになってくれりゃあ心配も減る」
    「……ずっと心配かけてて、すまなかった」
    「別に、お前に手焼かされるのは嫌じゃねぇよ」

    自然と早口になって返せば、伊月が小さく吹き出した。

    「そういう、小言は言うけど僕に甘いところ……昔から変わらないな」

    疲れていた声に明るさが混じるのが嬉しい。
    小さく頭を小突くと、抗議のつもりなのか何なのか、ちっとも痛くない力でオレの足を叩いてきた。

    「都合よすぎないか? ガッちゃんって、僕にとって……」
    「知るかよ。お前が勝手にそう感じてるだけだろ」

    都合がいいと思うなら、このまま一生利用してくれ。
    心のうちで願っていると、伊月は声色を真剣なものに変えた。

    「今まで僕が心配かけてきた分も含めて、大切にさせてくれよ。お前が、僕の一番大切なものなんだ」
    「…………」

    うまい言葉が返せないでいると、伊月が頭を持ち上げた。さらりと髪の滑る音を立てて離れていく姿を名残惜しく見ていれば、こっちへ向けられた真っ直ぐな視線に目を射抜かれて、数秒そのまま見つめ合った。

    「……」
    「……」

    時間が止まったみたいにお互い動かずにいたが、先に動いたのは向こうだ。オレがアホみたいに呆けている間に、先に素面に戻ってはにかんだ。

    「僕、いまプロポーズみたいなこと言わなかったか?」
    「……そうだな。これ以上いまのテンションで話聞かされてたら、流れで婚姻届にサインしちまってたかも」

    二人で小さく笑い声を交わすと、互いに居住まいを直して少し距離をあけた。
    今更だが、当然ドライバーも乗っている。たとえ命からがらの生還だったといえども、二人きりの世界を広げるのはほどほどにしねぇと普通に気まずい。

    「ガッちゃん」

    お互いシートに背中をつけて、大人同士の正常な距離感を保った状態で。横を見れば、伊月が目を細めた。

    「生きててくれてありがとう」
    「……オメーもな」

    オレが伊月を失うかもしれないと感じ始めた時よりも、ずっと前から。伊月は失うことに怯えていたんだろう。胸に空いた空虚に蝕まれて、苦しんできた。自分の命の価値さえ見失ってからは、どんな気持ちで生きていたか。

    「お前が、生きてて良かったと思える『これから』にしていこうぜ」
    お前がじゃなくて、オレたちがな」

    大人になってから身につけた、気取った笑顔で伊月が笑う。いつもはムカつくくらい様になっている表情が、今はうまくキマっていない。その綻びが、無性に嬉しかった。
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