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    269_tsumugu

    hzbn夢(OC夢主)
    年齢操作/性転換/3L/30社会人.無断転載禁止.Unauthorized reproduction prohibited.

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    269_tsumugu

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    【よその子お借りシリーズ】
    OC男主/OC女主/パラレルワールド設定

    SPAAAAAAACEさんが素敵なその後のお話を書いてくださったので、懲りずにまたこの続きを書きました!今度は小鳥ちゃんの世界へお邪魔します。

    VOXの夢主である歌姫ちゃんも出ております。
    立ち絵とお話もきちんとしたものはありませんが、どうしても登場させたかったのでご了承ください。


    SPAAAAAAACEさん承諾済

    #hzbn夢
    ##よその子お借りシリーズ
    ##アラドク

    お手合わせ願おうか



    VOXTEC社周辺には、高級品を取り扱うお店が立ち並んでいる。

    レラージェは、友人である小鳥の為に高級スイーツ店に足を運んでいた。彼の隣には、いつもいるはずのラジオデーモンはいない。

    代わりに隣に立つのは、高く結われたスミレ色の長い髪を靡かせ、煌びやかなドレスを身にまとった片翼の女性。

    “片翼の歌姫”と呼ばれている彼女の名前は、ヴィオレッタ。VOXTEC社所属の歌手であり、レラージェの患者兼友人である。


    「その子、確か鳥って話だけど…チョコレート大丈夫なのかしら」

    「…鳥はチョコレートがダメなのかい?本人が“チョコレートが好き”と言っていたから、大丈夫だと思ったのだけど…」

    「普通の鳥なら中毒症状が出たり、最悪死ぬわ。…まぁ、アタシは平気だし、本人が言うなら大丈夫でしょ。こちら一ついただける?領収書はVOXTEC社でお願いね♡」


    ヴィオレッタは店員に声をかけると、まるで宝石のように光り輝くチョコレートを慣れた手つきで選んでいく。

    レラージェはこういった店や品には疎いため、楽しそうに選ぶ彼女の横顔を眺めていた。

    プレゼント用に包装してもらい、意気揚々と店を出ると、行き交う人々が彼女を見ては声を上げ、店の前まで押し寄せてきた。


    「歌姫〜!今夜はどこで歌うんだい?」

    「今日も美しいね!ああっ、君の歌が待ちきれないよ!」

    「皆ありがとう!でも、ごめんなさい。今日はオフなの。また今度ね♡」


    群がってくるファンをこれまた慣れた手つきで捌いていく。声をかけるだけの者もいれば、握手やサインを求めてくる者もいる。

    そろそろ行こうとヴィオレッタが一歩踏み出した時、一人の女性が群衆を掻き分けて前に出てきた。

    「夫がファンなの。握手してくださる?」

    「まぁそうなの?旦那様によろし…」

    「うちの旦那返せ!この泥棒猫!」


    快く手を差し出すヴィオレッタを他所に、女性はいきなり手を振りあげ、豹変する。

    ーーーその手には、鋭利なナイフが一本。


    「WOW(出たよ。旦那が声に魅了されました〜とかいう逆恨み)」


    面倒臭さそうな顔をするヴィオレッタの前に、割り込むようにして現れたレラージェは、手を振り上げている婦人の右手に自身の手を滑らせる。

    「Hi Madam. 美しい貴女にこんなものは似合いませんよ」

    「離し……っ、!まあっ……わ、私ったら、ウフフ…やだわ…」


    顔を近づけ優しく微笑むと、婦人の顔は瞬く間に恋する少女へと変貌する。

    そうなるのも無理はない。
    本日のレラージェは、いつもの白衣姿ではなく、きちんとした正装をしている。

    ピーコックグリーンのスーツに丈の長いロングコートを羽織っており、ご丁寧に胸元には赤色に輝く宝石のついたブローチまで付けて。

    勿論、普段被っている紙袋も無く、顔も顕になっていた。右側は炎に覆われているものの、生前から変わらない容姿端麗なその風貌に、行き交う女性たちはレラージェの顔を見て、頬を染めている。


    「さぁ、こちらへ……はい、いい子ですね」


    ーーーバキッ


    惚けている婦人からナイフを受け取れば、レラージェは意図も簡単にナイフをへし折る。

    口元に笑みを浮かべているものの、彼の目は笑っていなかった。
    その様子に気づいた群衆は、彼女を含め、蜘蛛の子を散らすように去っていく。

    慣れた手つきでゲートを開き、ポイッと屑になったナイフを投げ入れる。

    そういやこいつ上級悪魔だった…と一連の流れを見ていたヴィオレッタは、少しだけ張り詰めていた緊張を解くと、いつものように振る舞う。


    「生前はマダムキラーだったかしら?」

    「…茶化さないで ヴィオレッタ。いつもこんな感じなのかい?」

    「よくある事よ。助かったわ、ありがと Dr.」

    「Hmm…どういたしまして」

    「ふふ。…………覗き魔のヴォクシ〜?これで分かったでしょ。ボディガードが居るから監視は結構よ!」

    ジジッ

    顔を顰めるレラージェを他所に、ヴィオレッタは自分に向いている監視カメラへ中指を立てれば、ヒラヒラと羽根を振って別れを告げる。

    街から少し離れたところで、四角い箱のプリンスよりも背の高いレラージェを見上げた。


    「貴方、そういう服も持ってたのね。てっきり白衣だけかと思ったわ」

    「あぁ…この前、Ladyがお洒落をして来てくれたから、私も正装の方がいいかと思って…この服は友人からの贈り物だよ」

    「あら意外。アタシとラジオデーモン以外にそういうセンスのある友人がいたなんて」

    「別世界の…人と話すのが大好きな女性がいてね。彼女は服を仕立てているから、見繕ってもらったんだ。ちなみに、ブローチはアラスターからだよ」

    「出た別世界。……ふぅん」


    少々呆れ顔のヴィオレッタは、ブローチをちらりと見やる。グリーンのスーツにこれでもかと主張する赤が、まるで嘲笑うかのように光って見えた。

    呑気なレラージェはそんなことなど露知らず、ホテルに着くと診療所で少し待つように伝え、荷物を取りに行く。

    一応、自分の所属する会社の敵とも言える場所なので、ヴィオレッタは大人しく彼の診療所の待合室で帰りを待つのだった。



    ・・・


    「っ……ま、待たせてすまない」

    暫くして、転がるようにして入ってきたレラージェが一目散にゲートを開く準備をする。

    急いできたのだろう。
    少し息を荒らげているレラージェを見て、ヴィオレッタは眉を顰める。


    「Dr. 髪。あとボタン」

    「…………面目ない」


    指摘されれば、若干気まずそうに毛先の赤くなった髪と服装を整えるレラージェに、大方後ろでニタニタと笑っている真っ赤な鹿のせいだろうと、ヴィオレッタは肩を竦める。


    「お久しぶりね ラジオデーモン。そんなに嫌ならついてくればいいのに」

    《相変わらず声だけは美しいですねェ Diva.おや、私は嫌だとは言ってませんよ。寧ろ、あの小鳥の好物を持っていってやればいい》

    「“だけ”は余計。……上級悪魔って全員そうなのかしら」


    ヴィオレッタは、今日一日出かけるという話をした時の薄型テレビを思い出す。大人しくさせるのに、それはそれは苦労したのだ。


    《HAッ何処ぞのメンレラBOXと一緒にされては不愉快だ!遅れた理由なら彼に聞くといいでしょう。準備に手間取ったのは彼のせいでもありますからねェ》

    「も、元はと言えば貴方が、んムッ」

    《何むくれているんです。本当のことを言ったまでだよ Dr. 》

    「あのさ〜イチャつかないでくれる?時間ねぇんだろ」


    恥ずかしい理由なのだろうのか、顔を赤くするレラージェを見ながら、クツクツと笑うアラスターは、杖で彼の頬をつついている。

    ヴィオレッタは完全に二人の空間を作り上げているバカップルに嫌気が差したのか、腕を組み、取り繕うのもやめて悪態を着く。

    彼女に声をかけられ、ハッと時計を確認すれば、慌ててゲートを開く。

    レラージェがヴィオレッタに手を差し出せば、彼女は当然の事のようにその手に自身の手を重ねた。


    「大人しく待ってろよ ラジオデーモン」

    《HAHAッ 善処します》

    「それじゃあ、行ってきます Darling」

    《えぇ、負かしてやりなさい Honey》



    ゲートを潜る二人を見送りながら、アラスターは何かを企むように口角を上げている。

    ーーーとぷん、と闇に消えていった。




    ・・・



    小鳥は上機嫌だった。かの独断専行なラジオデーモンはこの場にはおらず、彼以外のホテルのメンバーとロビーでお茶会の準備をしているのだから、それはもう大変大変上機嫌だった。

    ゴーンと鐘の音が鳴ると、小鳥とチャーリーは跳ねるように扉の前へと移動する。しかし、閉じられた扉は開けず、ただその場でじっと見つめていた。


    「チャーリー、この子よりもはしゃいでどうするの」

    「だってヴァギー!今日はこの子が会わせたがっていた噂のお客様が来る日なのよ!いてもたってもいられないわ!」

    「そろそろ来ると思います…あっ!」


    待ちきれないのかその場で足踏みを始めたチャーリーをヴァギーが宥めていると、彼らの前に緑色に光るゲートが現れる。

    小鳥がぱぁっと顔を明るくさせれば、ゲートの中からゆっくりと長身の男が現れた。


    「Hi Lady」

    「Hi Dr.」


    二人の三度目となる再会を祝福するかのようにチャーリーから歓声が上がる。

    「本日はお招きいただきありがとうございます。プリンセス・チャーリー」

    「貴方がドクターね!ブラボー!ブラァボ〜!と〜っても紳士的だわ〜!」


    爽やかで物腰柔らかい彼の身のこなしにはしゃぐチャーリーを他所に、小鳥はいつもと違うレラージェの服装に少し首を傾げる。

    「…今日は、白衣じゃないんですね。それにお顔も…」

    「あぁ、それはこの前「アナタがオシャレしてきてくれたからって、張り切ってるのよ!勿論、アタシもね♡」……ヴィオレッタ」


    レラージェの背後から顔を覗かせたヴィオレッタは、彼を押しのけるように前に出ると、驚いている小鳥に笑顔を向ける。


    「何よ。さっさとアタシを紹介しないからでしょう? ハァイ小鳥ちゃん♡初めまして」

    「も、もしかして…歌姫さんですか?」


    彼女の背中に生える片翼を見れば、何時ぞやの会話を思い出す。
    “片翼の歌姫”と呼ばれる女性がいると、レラージェから話には聞いていたが…


    「あら、知ってたの?なら話は早いわね。ヴィオレッタよ♡よろしくね」

    「よ、よろしくお願いします!」

    「まあっぴよぴよしていてかわいい子。でも、そんなに固くならないで?同じ翼を持つ者同士、仲良くしましょ♡」

    「ぴぃ」


    それはそれは美しい容姿と声を持つ彼女に、同じ性別の小鳥もたじろいでしまう。普段関わることの無い大人の女性の雰囲気に、小鳥は小さく鳴くのであった。


    「すまない Lady. 彼女は少し…人との距離が近くて…。これは私からの手土産なんだが、受け取ってくれるかい?」

    「!だ、大丈夫です!少し驚いてしまっただけで…。わぁっ…もしかして、ケーキですか?」


    固まっている小鳥の肩に優しく触れ、持ってきたケーキの箱を差し出す。
    大丈夫だと言葉に出したものの、小鳥の心臓は鳩時計のように飛び出してしまいそうだったため、レラージェに声をかけられほっと息をつく。

    小鳥はそれを受け取ると、ぱっと顔を明るくさせた。


    「この前、君がサーとクッキーを作ってきてくれただろう?だから、私も彼と作ってみたんだ。…お口に合えばいいのだけど」

    「アタシからはチョコレートをどーぞ。味は保証するわ♡」

    「とっても嬉しいです…!お二人共、ありがとうございます…!」


    小鳥は嬉しそうに二人から手土産を受け取れば、翼をはためかせながらお茶の準備へと取り掛かった。
    チャーリーに促され、二人は用意された席へと歩を進める中、レラージェはヴィオレッタに囁くように身を寄せる。


    「そういえば、そちらの姿でよかったのかい?」

    「…ただでさえ臆病なんだろ?“歌姫”だって聞かされてんのに、あっちの姿だとびっくりするだろーが」

    「……驚いた。君がそんなことを考えていたなんて」

    「HAッ オレを誰だと思ってんだ?ーーー地獄一の歌姫よ♡」


    ファンのためならどんな姿も演じてみせるわ、とウインクをして、小鳥の元へと急ぐ。思わぬ彼女の心遣いに、レラージェは優しく微笑むのだった。





    ・・・


    小鳥が切り分けたケーキを一口、ヴィオレッタがレラージェの口元へと運ぶ。


    「はい、あーん」


    何故?と疑問に思いつつ、大人しくそのケーキを食べる。間に挟まれたラズベリーの甘酸っぱさが、チョコレートの甘さを引き立てる。
    生前、料理を嗜んでいたが、地獄に来てから本格的に作るのは初めてだったため、美味しくできたようで我ながら感心する。

    その様子に小鳥も疑問に思いつつも、自身もケーキを口に入れれば、口の中に広がる上品な甘さに目を輝かせる。


    「とっても美味しいです…!手作りとは思えません!」

    「ふふ、お口にあったようでよかったよ」

    「大丈夫そうね。……んんっ、おいし〜!貴方、ケーキ作りの才能あるわよ。お店でも出さない?」

    「それは嬉しい褒め言葉だけれど……君、今私で毒味をしたかい?」

    「あらごめんなさい。別に貴方のことを疑ってるわけじゃないのよ?癖になっていて、つい」

    「Hmm…」


    二人が食べるのを見届けたヴィオレッタは、安心してケーキを食べ始める。
    普段はVOXに食べさせているのだが、今日は彼がいないので仕方がなかったのである。


    「わぁ…このチョコレートすごい…キラキラしてる…地獄にこんな素敵なものがあるんですね…」

    「フフ、それね 惑星をモチーフに作っているらしいわ。気に入ってもらえたかしら?」

    「は、はい!とっても!」


    宝箱のような箱を開けると、見たことも無い輝きに小鳥は目を輝かせる。
    まるでクリスマスにプレゼントをもらった子どものように表情を変える小鳥を見て、ヴィオレッタは笑みをこぼす。

    暫くその様子を眺めていれば、視線を上げた小鳥と目が合う。ヴィオレッタが微笑みかけると、小鳥は気恥しさからか、羽をぶわりと広げる。

    広げられた羽根を見れば、彼女は少しだけ考え込んだ。


    「素敵な羽根ね。…でも、もっとお手入れが必要かしら。貴女、羽根用のシャンプーは使ってる?」

    「ぴっ…は、はい、市販の…」


    小鳥は小さく鳴いて、おずおずと答える。商品名を聞けば、ヴィオレッタは頭を抱えた。


    「せっかく綺麗な羽根なのに勿体ない!Dr.アタシの部屋、開いて」

    「構わないけれど、彼がいるんじゃないか?私が会うのは不味い気がするが…」

    「大丈夫よ。アタシの部屋に勝手に入ったら、一週間セックス抜きって約束だから」

    「ぴぃッ」


    突然立ち上がったヴィオレッタに驚き、小鳥は羽根で身体を覆う。レラージェが仕方がないなとゲートを開けば、そこは彼女の煌びやかなテリトリーだった。

    ヴィオレッタは素早くゲートを潜り、お目当てのものを手に取り戻ってくる。
    去り際に「ヴィヴィ!もう帰ったのか」と言う声が聞こえたが、無常にもゲートは閉ざされてしまった。


    「はいコレ。アタシが使っている羽根のケア用品よ。よかったら使って♡」

    「えっ…こ、こんなにたくさん…!?」

    「当たり前でしょう?Ladyは人一倍気を遣うものよ。こっちがシャンプー、こっちが保湿剤で、こっちが…」


    所謂女子トークというやつが始まってしまい、レラージェは急に蚊帳の外になる。
    二人が楽しそうに会話をしているのを出された紅茶を嗜みつつ、内心警戒心を抱きながら眺めていた。


    「……(このまま彼が、来なければいいのだけど)」


    小鳥に執着しているこの世界のアラスターがいつ現れるのか分からない。その時は…と持ってきている別の荷物にそっと触れた。


    「説明はこんなところね。こっちの世界にもあるのかしら…恐らく、エンジェルなら調べてくれるわ。彼にでも聞いてみなさい」

    「あ、ありがとうございます…何から何まで………こ、これ…お高いですよね?私の手持ちで買えるかどうか…」


    ケア用品の説明を一通り受けた小鳥は、恐らくこれがとても高価なものであると察していた。自慢の羽根を綺麗に保つこと自体は、とても有意義で魅力的な話だったのだが、恐らく自分の手には追えないだろうと肩を落とす。

    ヴィオレッタはそんな小鳥の言葉に首を傾げた。


    「あら、そんなの彼に頼めばいいじゃない」

    「…………彼?」

    「ラジオデーモンよ。恋人なんでしょう?」

    「ぴっ」


    ヴィオレッタの衝撃的な発言に、その場に居た一同が凍りつく。レラージェは大きなため息をつきながら頭を抱え、悲鳴を上げた小鳥は、ブンブンと首が取れんばかりの勢いで何度も首を振った。


    「そんなんじゃありません!」

    「あらヤダ。アタシてっきり、激重ヤンデレ彼氏なのかと」

    「私の話からどうやったらそこに行き着くんだ…」

    「だって、日頃から貴方たちを見てるんだもの。そういう愛情表現もあるのかと思って」


    恐怖のあまりガタガタと震える小鳥と、普段あまり見せない表情になっているレラージェを見れば、自分がとてつもない爆弾発言をしたのだとヴィオレッタは悟る。

    周りで話を聞いていたホテルの住人たちも、自分たちを見て引き攣った顔をしていた。


    「(やっちまったか、コレ)………あー…ごめんなさい。お詫びと言ってはなんだけれど、」


    いたたまれなくなったヴィオレッタは空気を変えようと席を立ち、パチンと指を鳴らせば、愛用のスタンドマイクを出現させ、皆の前へと出る。


    ーーーこういう時は、歌ってしまえばいい!

    「一曲いかがかしら?」


    ヴィオレッタはもう一度パチンと指を鳴らすと、どこからともなくメロディが流れ始め、大きく息を吸った。


    「{ こんにちは、小さな小鳥さん。
    驚かせてしまったかしら?

    アタシの知ってるラジオデーモンは、彼にとっても夢中で情熱的だから、貴女の方もそうだと思ったのよ。

    世界ってどうやら広いみたい!
    こんなアタシを許してくれる?



    かわいいかわいい小鳥さん。
    貴女はとってもチャーミングね。

    アタシ、貴女のこととっても気に入ったの。
    仲良くしてくれると嬉しいわ。

    だって、同じ仲間でしょう?
    あらやだ!今のアタシは片翼だったわね。

    でも、そんなこと気にしないで。
    アタシたちは同じだと思うわ!
    自由に飛べる翼があるなら、
    どこへだって飛んでいけるんだもの!

    今日は貴女に会えて最高の気分!
    貴女はどうかしら Little bird.

    ほら、かわいい声で鳴いてみて?}」



    「今日という素敵な日に祝福を!ねぇ、もう一曲いいかしら!」

    『その前にもう片方も引きちぎってやろうか?』

    「っ、」


    小鳥との出会いを祝福するかのように歌う彼女の美声に、全員が聴き入っていれば、それを遮るように現れたラジオノイズ。

    鋭い爪が彼女の羽根に触れる直前に、その手は太い触手で締めあげられ、その動きを止める。


    ヴィオレッタは慌てて距離をとるも、ラジオデーモンの視線は既に彼女には向いておらず、触手の先へと注がれていた。


    『Hi Dr. 殺されに来たのか?』

    「Hi アラスター。まずはその手を退けていただけますか?」


    和やかなムードは何処へやら。
    ロビーの雰囲気が一気に臨戦態勢へと変わる。一触即発の雰囲気に、皆が動けずにいた。

    暫く緊張が続き、アラスターが手を下げると、レラージェも拘束を解く。
    彼はぐるりと全体を見渡すと、小鳥へと目を向けた。


    『Hi Darling』

    「Hi…アラスター…」

    『変ですね〜お茶会があるとは聞いていませんよ?小鳥。聞いていたら、それそれは盛大に出迎えてやったのに』

    「言ってなかったのかよ…」


    アラスターの発言に、小鳥の隣にいたエンジェルが小声で話しかける。小鳥に逐一報告する義務はないし、誘っても来ないだろうとわざわざ報告などしていなかったのだ。


    『外から戻ってみれば、何やら歌が聞こえたものですからねぇ。鳩の歌が終わるまで待っていたのですよ!おっと、片翼しかない者と同じにするのは、鳩に失礼でしたね!まぁ、声は褒めて差し上げましょう』

    「……」

    『あぁ、飛べないのならDr.の傍まで飛ばしてやろうか?さぁ、お茶会はこれにてお開きです!Quack共には、さっさとご退席「誰が飛べねぇって?」…Huh』


    パチンと指を鳴らせば、アラスターの言葉を遮るようにして、ヴィオレッタが前に出る。

    高く結われていた髪が一瞬にして短くなれば、垂れていた前髪を掻き上げる。
    さらさらとしていた髪も、何処か鳥の羽根を思わせる髪質に変化していた。

    煌びやかなドレスは一変してロングコートに早変わりし、その姿は何処か王族を思わせる装飾が施されている。

    そして、片翼しか無かったその背中には、大きな羽根が二つ。その羽根は先程までと変わらず、美しさを放っていた。


    その大きな翼で飛び立つ瞬間、アラスターに中指を立てながら、侮蔑の目で見やれば、くるりと宙返りをして、レラージェの傍へと降り立つ。


    「大丈夫かい ヴィオレッタ」

    「大丈夫もクソもあるか!よくもオレの歌を邪魔しやがって…アイツ許さねぇッ!」

    「ぴぃ…っ…う、歌姫…さ、ん?」


    雰囲気がガラリと変わってしまったヴィオレッタに小鳥は困惑した表情を向け、自身を守るように羽根で包んでいる。
    胸はあるものの、明らかに女性から男性へと変貌していたことに、レラージェ以外も戸惑いを隠せずにいた。

    ヴィオレッタは、この姿になることで好奇な目に晒されることには慣れている。
    彼自身が、過去に何度も経験してきたことだった。

    ただ、望んで二つの姿を持っているものの、打ち解け始めたであろう小さな鳥仲間を怖がらせてしまったことを、今は少しだけ後悔してしまう。


    「……騙すようなことをして、悪ぃ。でもオレは、」

    「ぴ…っ」

    『それが本来の姿か?滑稽ですねぇ。Quackではなく、con manだったか』


    ヴィオレッタの言葉を遮るようにして現れたアラスターは、小鳥を自分の傍へと引き寄せる。
    小鳥は為す術なく、彼の腕の中へと連れ込まれてしまった。

    レラージェは少しだけ歪んだ表情を見せたヴィオレッタの心中を察し、彼を庇うように立ち上がり、後ろ手に隠す。


    「私の大切な友人を侮辱するのは、やめていただけますか?」

    『HAッ 友人か! それは大いに納得ですねぇ!似た者同士傷の舐め合いでもしているのでしょうか?』

    「こいつ…ッ!何であんなやつと小鳥は一緒にいんだよ!同じ見た目してるけど、絶対にお前んとこよりヤな奴だろ!!」

    『彼女は私の所有物だ。お前たちには関係の無いことでしょう?それに、そちらの腑抜けと同じにされては不愉快極まりないですねぇ!心外です!』


    アラスターの言葉に、レラージェはピクリと反応する。紙袋に覆われていない表情は、あまりにも分かりやすく、アラスターの好奇心を駆り立てた。


    『おや〜?どうやら図星を突かれて怒ってしまったようだ!私は構いませんよ。以前のようにズタズタに引き裂いてやろう!この前のお礼も出来ず仕舞いでしたからねぇ!』

    「…………ふふ」

    『……何がおかしい?』

    「あぁ、失礼。貴方は随分私のことを見くびっているようなので、少しおかしくなってしまって」

    「…ぴぃ……Dr.?」


    目を伏せ、クスクスと笑うレラージェ。

    前回までの彼であれば、アラスターの煽り文句に激情し、速攻で攻撃を仕掛けていただろう。
    これだけ煽っても手を出してこないレラージェに、アラスターは怪訝そうな表情を浮かべる。
    小鳥も同様に、少し雰囲気の違うレラージェに戸惑いを感じていた。


    「前回の敗因は、私の力不足でしたから。もう彼に……私のアラスターに、無様なところを見せる訳にはいかないのでね」


    そういうと、レラージェの髪色が一瞬にして赤く染まる。向こうのアラスターが見せた彼の加護の力には及ばないものの、前回とは違う雰囲気にアラスターは手にしていた杖に力を込めた。


    『(こいつ…どれだけの量を飲んできた…!?)』

    「さあ、お手合わせ願おうか アラスター」



    ーーーこれはブラフだ。

    相手は、あのアラスターである。正直言って、レラージェに勝てる見込みはない。
    理性のギリギリまで愛しい人の血を飲んできたものの、力を出し切ってしまえば、結果は一目瞭然だろう。


    しかし、口元に笑みを浮かべたレラージェは、ゆっくりと目を開く。


    《いいですか ジル。君は顔に出やすい。相手に悟られぬよう堂々としていなさい。なぁに、俺の血をたっぷり飲んだんだ。心配要りませんよ my Dear》


    その瞳には、ラジオのVUメーターを思わせる針が浮かび上がり、かちりと音を鳴らした。


    『…HAHAHAッ!面白い!ここへ来る前に低俗で節操のない行為をしてきたということか!?全くだらしの無い救いようのない奴らですねぇ!』

    「私が何の準備もせずに、貴方のテリトリーに足を踏み入れると思っていたのなら、それこそ心外ですね。それに…今日は彼もいる」

    『Huh?そのペテン師に何が出来ると言うんです?歌うしか脳がない鳥頭に』

    「馬鹿にすんのも大概にしろよFuckin'demon」


    後ろに控えていたヴィオレッタがマイクを手に取れば、怒りと祈りを込めるようにフレーズを乗せる。


    「 { 頑張れDr.♡あんな雑魚やっつけちゃえ♡ } 」

    「…真面目にやってくれるかい“片翼の歌姫”」

    「別に何でもいいだろ。あと空気悪ぃからさ」


    歌は楽しくなきゃな!とアップテンポの曲を掛ければ、先程の茶化すものとは違い、真剣に歌い上げていく。

    その場に居た全員が、レラージェの持つ魔力が増幅するのを感じ取った。


    ーーー彼は “片翼の歌姫”
    その歌で人々を魅了し、聴いたものを虜にする魔性の女であり、男である。

    歌に魔力を込めれば、歌詞はたちまち呪文へと変わり、その効果を発揮する。


    「ありったけの愛をアンタにくれてやるよ Dr!」

    「あぁ、君のプリンスが嫉妬してしまうくらいにね」

    「HAッ 馬鹿言え!」


    あまりの威圧さに、耐性のない小鳥は腰を抜かし、小さく鳴きながら弱々しくアラスターの服を掴む。
    その様子を見たアラスターは、小鳥の肩に手を回し、そっと支える。

    これ以上奴らに好き勝手にさせるのは、彼女にとって毒であると、アラスターはそう結論付けた。


    アラスターと小鳥の様子を伺えば、手で制するようにヴィオレッタの歌をやめさせる。

    レラージェ自身も増幅させていた力を緩めれば、アラスターへと微笑みかけた。


    「お分かりいただけましたか?そもそも、私はLadyのためにも、貴方と無闇な争いはしたくありません。もし良ければ、こちらで勝負をしませんか」

    『…何?』


    持ってきていた荷物を机の上に置き、中身を開封する。中には使い込まれたチェス盤一式が入っていた。


    「チェス。貴方もお好きでしょう アラスター」

    『……随分自信があるようだが、この私に勝てるとでも?HAHAッ無謀な挑戦、受けて差し上げましょう!さぁ、条件を聞こうか!』


    勝敗の見えている無謀な駆け引きに、アラスターはケタケタと笑う。頭のいい彼は生前からチェスが得意だった。それは、レラージェ自身がよく分かっている。


    「私が勝てば、今後も彼女とのお茶会を許していただきたい」

    『負ければ?』

    「……もう二度と彼女には関わりません。この世界に足を踏み入れることもないでしょう」

    「え…」


    レラージェの言葉に、小鳥は悲しそうな声を洩らす。その反応に苛立ちを見せたのか、アラスターは肩を抱く手に力を込めた。


    『いいでしょう。二度とこの地を踏めないよう、足も置いていけ』

    「てめぇ…っ!」

    「構いませんよ。私の足で良ければ、どうぞご自由に」


    ヴィオレッタが怒りを露わにするも、レラージェは冷静だった。あまりにも静かで、不気味な程に。


    こうして、レラージェ対アラスターのチェス対決が始まるのだった。



    ・・・



    両者一歩も譲らない駆け引きに、周りで見ていたチャーリーたちも息を飲む。


    「……俺あんまり詳しくないんだけど、どっちが勝ってんの?」

    「今は…五分五分って感じだな」

    「…頭いいですよ彼。私には及びませんが!」

    エンジェルの問いにハスクとペンシャスが口を開く。対決の内容が分かっているのは、ハスク、ペンシャス、そして、チャーリーとヴィオレッタだった。

    チェスのルールが全く分からない小鳥は、二人の動きを目で追うことが精一杯だった。応援するにしても、どちらを応援していいのか、今の小鳥には決めることが出来ずにいる。


    「……なぁ、小鳥」

    「ぴぃ…っ!」


    隣にいたヴィオレッタに話しかけられた小鳥は飛び上がり、隣に腰かけていたチャーリーの方に身を寄せる。
    流石のヴィオレッタも、眉を下げて悲しそうな表情を浮かべた。


    「…そんなに怯えられると、流石のオレでもちょっと傷つくんだけど?」

    「ご、ごめんなさい…っ…突然のことで、慣れなくて…っ…」

    「ねぇ…そんなに怖がる必要はないわ。だってほら、見た目は変わっても彼女はとっても優しいもの。…あ、ちょっと待って、“彼”の方がいいのかしら?」

    「別にどっちでもいいぜ」

    「あらそう?えぇっと、何にせよ ほら!怖がる貴方を落ち着かせようと、ずっと傍にいてくれているのよ?」

    「いーよ プリンセス。そもそも騙してたオレが悪いし」


    足を組んでそっぽを向いてしまったヴィオレッタに、チャーリーは悲しそうに眉を下げる。

    チャーリーはヴィオレッタのことをよく知らないが、人々を楽しませようと沢山努力と苦労を重ねてステージに立っているのだと、彼のパフォーマンスを見ていて感じた。

    レラージェのこともそうだ。
    小鳥から話を聞いていた以上に紳士的で、地獄にいるのがおかしいくらい優しいお医者様だった。

    彼の話をしている時の小鳥は、とても楽しそうで幸せそうだった。今日のお茶会も、素敵なものにしたいと相談されていたのに、こんなことになってしまった。

    地獄のプリンセスが情けないわ…と、チャーリーは肩を落とす。


    「ねぇ、チャーリー。あなたのせいじゃ…というか、殆どアラスターの仕業よ」

    「ヴァギー…そうだとしても、二人がもう二度と会えないなんて、そんなの悲しすぎるわ…」

    「そうだとしても、今は対決を見守り…」


    『何があった…クソッ…』


    その言葉に全員が勢いよく盤面へと目を移す。

    レラージェのクイーンが、アラスターのキングの斜め前へ移動する。キングの逃げ道は、ポーンよってに塞がれていた。

    ハスクが感心したように声を上げる。


    「ほぉ…Dovetail Mateか。こりゃやられたなボス」

    「どうです。ご自分が馬鹿にした鳩の尻尾にやられる気分は」


    ーーー“ダフテイルメイト”

    クイーンにより、キングの縦横斜めの逃げ道を塞がれるパターンのチェックメイトである。
    逃げ道を塞ぐポーンが鳩の尻尾に見えることから、この名が付けられている。


    『…………HAッ、どうやら相当練習してきたようですねぇ。しかし、この手はステイルメイトです。引き分けですよDr.』

    「えぇ、まずは引き分けにさせていただきました。彼の借りも返したかったのでね」

    「Dr.…アンタ…」


    レラージェはヴィオレッタの方を見れば、彼の真似をするようにウインクをしてみせる。

    わざと引き分けに持っていったというその言葉に、アラスターは心底不愉快そうに眉を顰める。


    『つくづく腹の立つ男ですねぇお前は』

    「ゲームは楽しい方がいいでしょう?さあ、もう一度お手合わせ願いますよ」


    仕切り直しと言わんばかりに、アラスターはその申し出を受け入れる。
    正直、目の前の男を甘く見ていた自分に嫌気が差すが、そう何度も上手くは行かないだろう。


    険悪なムードのまま、第二戦目が始まった。


    理解出来ぬうちに一戦目が終わり、小鳥はまたそっぽを向いてしまったヴィオレッタに、おずおずと声をかける。


    「……歌姫、さん」

    「…………なに?」

    「ぴぃ…………その、……今の姿が、本当の歌姫さんなんですか…?」

    「本当の、ねぇ……だったら?」


    素っ気なく対応されれば、小鳥はまたひとつ鳴いて、怖気付く。
    チャーリーは二人の様子を見守るように、心の中で小鳥にエールを送る。


    「もし、以前の姿でいることが歌姫さんの負担になっていたのなら、私…嫌です。…お、お友達の前では、素の方がいいでしょう…?」

    「!……別に、どっちの姿も負担じゃねぇよ。……ただ、Dr.から“歌姫”だって聞かされてたのに、いきなり男が目の前に現れたら、今みたいにびっくりさせると思って…」

    「ぴっ…!」


    言葉を選ぶように紡がれるヴィオレッタの気遣いに、小鳥の心は大きく揺れる。
    自分のことを思って、彼は親しみやすいであろうあの姿で居てくれたのだと思うと、それだけで嬉しくなってしまうのだった。


    「…悪かったよ。騙したみたいになって」

    「アラスターが現れなければ、あのまま帰るつもりでしたか…?」

    「そりゃ、そうだろ」

    「む……それはちょっと、やです!」

    「は?っちょ、何」


    小鳥はヴィオレッタの手を掴む。

    自分よりも大きな手に小さな自分の手を合わせぎゅっと繋げば、小鳥は意を決したように顔を上げる。


    「私のことを思っていてくれるなら、次はその姿でお話したいです。せっかく教えてもらったケアの仕方も、私は直ぐに忘れてしまうので、また教えてください!」

    「……っぷは、なんだそれ。てか、次があると思ってんの?」

    「それは、えぇっと…その…」


    次があるということは、アラスターが負けるということだ。小鳥は必然的に、そう願ってしまったのである。

    慌てふためく小鳥を見れば、ヴィオレッタも意地を張っていた自分がおかしくなり、ケラケラと笑い始める。


    「はーー、アホらし。お前だいぶ天然だろ。Dr.といい勝負だわ」

    「ぴっ!?」

    「そうね、小鳥は…ほんのちょ〜っと天然かも」

    「貴女もよ チャーリー」


    ヴァギーがチャーリーの肩を叩き、皆でおかしくなって笑い始める。さっきまで張り詰めていた空気はどこへやら、小鳥とヴィオレッタは身を寄せ合い、楽しそうに笑いあっていた。

    アラスターとレラージェ以外が輪になって笑い合っている中、二人は接戦を繰り広げていた。


    「…仲直り出来たようでよかった」

    『心底不愉快ですね』

    「彼女が“自分以外”に笑顔を向けていてはご不満ですか?」

    『HAッ 減らず口を。お前の方はどうなんです。手が止まっていますよ ジル』

    「……………次その名で呼んだら、角を折りますよ」


    二人の様子を横目で和やかに見ていたレラージェは、アラスターの発言に青筋を立てる。


    ーーーその名前を呼んでいいのは、お前じゃない。


    『これは失礼。名前を呼ばれたくらいで心を乱すなんて…


    まだまだ坊やなんですねぇ ジ ル 』

    「 チ ェ ッ ク メ イ ト 」


    バキッ

    レラージェはその言葉と共に、アラスターのキングを手に取ると粉々に砕く。彼の目にいつものような優しさはなかった。


    「こりゃしてやられたなぁボス」

    「ある意味連勝?ちょー強いじゃん先生」

    『ぐ……ッ…』


    ハスクとエンジェルの言葉にアラスターは顔を歪める。そんなアラスターを見たことがなかったハスクは、心底気分が良かった。

    いい酒を開けようとエンジェルとペンシャスに声をかけ、バーの方へと移動する。


    小鳥と戯れていたヴィオレッタは、チェスでDr.に勝てるわけがないんだよなぁと内心アラスターを哀れんでいた。


    『何が…何が起こっている…?何故、この俺が…』

    《彼は飛び級で大学に合格していますからねェ。貴方じゃ勝てませんよ》

    『ーーーッ』


    突如現れたラジオノイズに、レラージェ以外が驚きの声を上げる。向こうの住人のヴィオレッタでさえ、まさか着いてきているとは思わなかったのだ。

    アラスターは飛び退くように席を立てば、苦渋の表情で同じ顔の男と対峙する。


    《おやおやおや…まさか着いてきていないとでも思っていたんでしょうか?彼の胸元から、ず〜っと見ていましたよ》

    「…やっぱりアレ、そうだったのかよ…」

    「ぴぃ…っ……あ、アレって…何ですか?」


    突然現れた別世界のアラスターに小鳥が固まるも、ヴィオレッタの言葉に我に返れば、何のことだろうと首を傾げた。

    ヴィオレッタは、レラージェの胸元を指差す。そこには光り輝く真っ赤なブローチがひとつ。

    小鳥は感心したように納得する。


    『全く、過保護にも程がある…!』

    《HAHAッ!そっくりそのままお返ししますよ。それにしても鈍い奴ですねェ。一度お前の手を掴んでやったと言うのに》

    「勝手に影から出てくるんだもの…びっくりしたよ」

    《あのまま気づいていないフリを続けるのは実によかったですよ。後で褒めてあげましょうね!…感謝なさい Diva。君の翼がどうなろうと私にはどうでもいいが、それを傷つけられると少々面倒な奴がいるのでねェ》

    「あれ、ラジオデーモンのだったのかよ…」

    「私のはもっと細いからね」


    ヴィオレッタに言われれば、にょんっとゲートから細い触手が顔を出す。

    チェスで負け、万全の対策を施している彼らと対峙すれば、このホテルも、自分自身もタダでは済まないだろう。

    しかし、それを自らから切り出すのは自身のプライドが許さなかった。


    《さて、彼との約束は覚えているだろう?Brother》

    『……好きにすればいい。元よりいつでも彼の首など捻り潰せるのだからな』

    《素直じゃないですね〜!まぁ私の事ですから、プライドが許さないんでしょう。それはそうと、小鳥》

    「ぴぃっ!?」


    突然指名された小鳥は、その場で大きく飛び上がる。声をかけた本人はその様子を見てクツクツと笑いながら、幾分か優しい声色で問いかける。


    《チョコレートは美味しかったですか?》

    「………へ……?は、はい…!」


    あまりに検討ハズレな問いかけに、小鳥は呆気に取られ、自身の飼い主の機嫌など気にも留めず、思うままに返答を返す。

    《そうでしょうねェ!チョコレートは君の大好物であり、Dr.が腕によりをかけて作った特別なケーキと高級なチョコレートです!それはそれは美味しかったでしょう!……おや〜?どうしたBrother.顔色が悪いですよ。まさか自分の所有物と謳っておきながら、好物のひとつも知らなかったとは言いませんよねェ?》

    『っ…!』


    煽りに煽りを重ねる自身のアラスターにレラージェは苦笑しながら肩を竦める。
    前回、選りすぐり珈琲豆を台無しにされたことを根に持っているのだろう。

    レラージェはそんなことを思いながら、楽しそうに捲したてる彼を眺めていた。本当の理由はそれだけでは無いのだが、彼が知る由もないだろう。


    《ちなみに彼の好物は私の作るベニエだ》

    「あ、アル、僕の話はいいんですよ」

    《HAHA あまりにも不公平かと思ってね。それに君にも構ってやらないと拗ねてしまうだろう?》


    ぽんぽんと触手で頭を撫で、そのまま頬をするりと撫でれば、レラージェは少しだけ頬を染める。色恋沙汰に敏感なチャーリーは、まあ!と声を上げる。


    「まさか…ヴィオレッタ、貴方がさっき言ってた、勘違いしたのって…」

    「そゆこと。反吐が出るほどラブラブ」

    「まぁ〜!!」


    チャーリーの中で全てのピースが合わさり、感動のあまりヴァギーに抱きついてはしゃぎ出す。女性陣の黄色い歓声に、レラージェはまた少しだけ赤くなった。


    「せっかくかっこよくキメてたのになぁ Dr.」

    「…ヴィオレッタ、茶化さないで」

    「やーだ♡」


    チャーリーがお話聞かせてちょうだい!と呼ぶものだから、レラージェは仕方なくその輪の中に入る。勿論、小鳥もその中にいた。

    楽しそうに話す小鳥の様子を見れば、苛立ちが更に増していく。


    ーーー何故、俺を無視して楽しそうにしている?


    《今日は私も争うつもりはないんですよ Brother.お前がど〜してもやりたいというのなら、受けて立つが?》

    『たかがチェスでいい気になって、随分と頭がお花畑のようだ!私がこのまま引き下がると思っているのか?』

    《今日の所は引くでしょうねェ。前回までとは違い、今のジルはDivaの加護を受ければ、俺に匹敵する力を出すことが出来る。お前もそれは分かっているだろう?》


    アラスター自身も、先程感じたとてつもなく膨大な力をそう何度も使えるとは思ってはいないが、あまりにも一撃が強大すぎることを頭では理解していた。

    ーーー小鳥への被害も、免れない。


    『………約束は約束ですからねェ。良いでしょう。今日のところは大目に見て差し上げますよ』

    《流石は私ですねェ。お気遣い感謝するよ my Brother》


    アラスターは杖を回しながら、楽しそうに話をしているレラージェの元へと歩みを進める。その後ろ姿を、この世界のアラスターは静かに見つめていた。



    ・・・


    ーーーゴーンと、鐘の音がなる。

    ヴィオレッタは時計を確認すると、声を上げた。

    「やべ…そろそろアイツが癇癪起こして暴れまくる」

    「それじゃあ…そろそろお暇しようか」


    名残惜しさもありながらも、またいつでも会えるのだと各々に別れを告げていく。

    ヴィオレッタがパチンと指を鳴らし、ここに来た時と同じ姿へと変わると、レラージェは彼女の部屋のゲートを開いた。


    「歌姫さん、今日はありがとうございました」

    「…お礼を言うのはこっちの方よ。ありがとう 受け入れてくれて」

    「そんなっ……今度会う時には、もっと綺麗な羽根でお会いできるようお手入れ頑張りますね!」

    「!…ふふ、」


    ゲートを潜る前に、ヴィオレッタは小鳥の頭を優しく撫でる。彼女と、彼女の傍にいるアラスターのことが気がかりだったが、恐らく彼女の強い心で切り抜けていけるだろう。

    ヴィオレッタは、女性の姿のままニッと口角を上げる。


    「じゃあな、小鳥!」

    「ヴィヴィ遅かッ「るせぇっ!!余韻に浸らせろポンコツプラスチックが!!!」


    とてつもない罵声と共にゲートが閉じれば、レラージェは小鳥と共に苦笑する。

    そして、扉近くにゲートを開き、レラージェも別れの挨拶を交わす。


    「今日は色々あったけれど、とても楽しかったよ Lady.またいつでもこちらにおいで。……きちんと許可はとるんだよ?」

    「私もとっても楽しかったです!素敵な友人にも巡り会えて……ぁ、えっと…はい…取ります…多分」

    「Oh……多分じゃだめだよ Lady」


    仕方がない子だなぁとわしゃわしゃと頭を撫でてやる。アラスターに許可を取ることなどできるのだろうかと、小鳥は撫でられながら考えていた。

    監視の名目でお互い近くにいたアラスター同士が視線を交える。

    帰り際、レラージェ側のアラスターが思い出したように口を開いた。


    《あぁ、一つ忘れていた!》

    『まだ何か?早く帰って二度とその顔を見せないでいただきたい』

    《 小 動 物 の 味 は お 気 に 召 し た か な ? 》

    『ーーーッ!!』


    以前小鳥が来た際に、噛まれたと言っていたことを思い出したアラスターは、自分たちの行為を羨み、真似事をした目の前の男を嘲笑うかのように囁いてみせた。

    逆鱗に触れられたアラスターは、勢いよく触手を繰り出し、目の前の男を殺す勢いで攻撃を仕掛ける。迫り来る攻撃を相殺するように触手で応戦するもう一方のアラスター。

    突然の出来事に周りは困惑し、ゲート前のレラージェと小鳥も何事かと声を上げた。


    「ぴぃっ!?アラスター!?」

    「アル!貴方、何かしましたね!?」

    《HAHAHAHAッどうやら図星だったようですねェ〜その様子だと、やはり結果はご愁傷様と言ったところでしょうか》

    『その減らず口、縫い付けてやる…』

    《やってご覧なさい。できるならね》


    帰りますよとレラージェの肩を叩き、攻撃を避けながらゲートを先に潜る。レラージェは、毎回どうしてこうなるのかと頭を抱えた。


    『おいそれと逃がすわけないだろうッ』

    「アラスター!やめてくださっ、ど、Dr!さ、さようなら!」

    「Ladyッ、本当にすまな…」


    レラージェは小鳥へ別れを告げようと振り返る。

    彼は油断していた。

    先程までの攻撃が自分自身に向いていなかったが故に、完全に意表をつかれたのだ。

    ーーー視界に映るのは彼と同じ赤い髪。

    肩口に埋められた鋭い牙が、彼の首筋を貫いた。予期していなかった痛みに、レラージェは顔を歪める。


    「ーーーっ、な、痛ッ」

    「ピィッ」


    衝撃的な光景に小鳥は悲鳴を上げ、その場に尻もちを着く。
    咄嗟のことに身動きが取れず、溢れ出た血液を啜る生々しい音が、レラージェの鼓膜を揺らした。


    「ぐ、…ッ、」

    『じゅる、』


    加減を知らない吸血行為にビクビクと身体が震え、カクンと力が抜けた。アラスターは身を委ねたと思ったのか、力が抜けたのをいいことに、レラージェの腰に手を回そうとする。


    《 俺 の “血(所有物)” に 手 を 出 し た な 》


    いつに無く取り乱したラジオノイズが頭に響く。先にゲートを潜っていたアラスターの手がレラージェを抱き抱えるように頭と身体に回され、相手の身体に触手を巻き付け、無理矢理引き剥がした。

    無理矢理引き剥がしたせいで、ブチブチと音を立て、首筋の肉が持っていかれる。


    「ゔッ、ぁ、ぁ…ッ…っ、」

    『ーーーは、ッ…はは…HAHAHAHAッいい気味ですねェ!お前の歪んだ顔が見れるなんて!もっと早くこうしておけばよかった!…あぁ………成程、…お前が執着するのも無理はない…これは、まるで』


    ーーー禁断の果実だ。


    アラスターは今までにない極上の血を味わい、舌なめずりをしてゲートへと沈んで行くレラージェに目を光らせる。

    アラスターの怒り狂った触手は、あろうことか小鳥目掛けて突き進み、突然の矛先に小鳥の目は大きく開かれる。


    しかし、小鳥側のアラスターがその触手を叩き落とす前に、触手の動きは止まった。


    「……ッ……だ、め…アル、…それだけ、は…」

    《…………………… 覚 え て い ろ 》


    今にも意識を手放してしまいそうなほど息も絶え絶えなレラージェが、我を忘れて取り乱すアラスターの頬を撫でる。怒りの収まらなかった触手は素早く小鳥のアンクレットを引きちぎり、粉々にして叩きつけ、ゲートへと消えていった。


    足首に痛みが走った小鳥は、自分の足首を見やると、引きちぎられた拍子に皮膚が裂けていた。

    自分の血の色にさっと血の気が引くも、脳裏に焼き付いているのは首元から大量の血を流すレラージェの姿。

    小鳥は震えながら、自身の羽根で身体を包み込む。


    『おや、怪我をしたのですか。それはいけない。私が直々に手当をしてやりたいところなのですが………今は少し、難しいようだ』

    「ぴッ…?」


    羽根で覆っているため、アラスターの顔は見えない。

    ーーーとぷん、と彼が闇に潜る音がした。

    ゆっくりと羽根を開くと、そこに彼の姿はない。いつもなら、抱えられて部屋に連れていかれるはずが、今日は何故か置き去りにされてしまった。

    先刻までの楽しい時間から一変、あまりの温度差に小鳥はペショペショと泣きながら、チャーリーの手当を受けるのだった。




    ・・・



    「ジル」

    「…っ、…ごめん、なさい…油断…した…」


    自分の腕の中で、荒く呼吸をするレラージェの頬を優しく撫でる。せっかくの一張羅も今は血まみれになってしまい、使い物にならなくなってしまった。


    ーーー油断した。

    それは、アラスター自身にも言えることであり、彼を叱りつけるには自身のプライドが許さなかった。


    何故、先にゲートに入ったのか。
    何故、煽るタイミングを間違えたのか。

    弱々しく息をし、額に汗を滲ませるレラージェの髪を掻き分ける。噛み切られた首筋には、痛々しい傷跡と彼の血で塗れていた。

    アラスターはベッドに彼を寝かせると、舌を噛み、自分の血に塗れた舌を首筋に這わせる。


    「ッ…!ゔっ…ぁ、あッ…!ァッ…ゃ、だ…ァル、痛ぃ、ッ、痛…」

    「っ…は…、消毒です。我慢なさい」



    抉られるような痛みに耐えかね、レラージェは力任せにアラスターの髪を掴む。普段ならば振り払うその手も今は好きさせてやる。

    暫くすれば血も止まり、子どものようにぐずりながらも、自身で縫合を始めたレラージェを優しく介抱してやる。


    次に会った時、果たして俺は
    冷静でいられるだろうか。

    あの小さな命を、
    生かしておけるだろうか。



    縫合を終え、力の入らないレラージェは、アラスターに身体を預ける。
    いつもおしゃべりな彼が一言も発さなくなったのが気がかりだったが、自身に触れる手つきがあまりにも優しいものだったから、今は彼の好きなようにさせる。


    暫くして、何かを考え込むように自身の髪を弄るアラスターに気づけば、レラージェはポツリと零す。


    「……アル、駄目だよ」

    「………何がです」

    「何でも。…僕は貴方がいる限り死なない。だから、変なことは考えないで」

    「………ジル。君は甘すぎる。いつか、きっと痛い目を見るぞ」


    そんなことを言われ、レラージェは小さく笑う。

    確かにそうかもしれない。
    あのアラスターだけでなく、迫り来るエクスターミネーションで、天使に引けを取るかもしれない。

    それでも、あの子を放ってはおけないし、何より今日はいつも以上に楽しかったのだ。


    まだ力の入らない手を伸ばし、影を落とす彼の頬に優しく触れる。


    「その時は……僕の全てを、貴方に捧げるよ my Dear」

    「………はっ、元よりそのつもりだよ my Love。骨の髄までしゃぶり尽くしてあげよう」

    「ふふ、ありがとう」



    微睡む意識の中、愛しい人の匂いに包まれて、レラージェは目を閉じた。
    またいつか、あの楽しいひとときを過ごせるように、今は少しだけ休息を取ろう。






    次の日、一応挨拶はしておくかと診療所を訪れたヴィオレッタは、スプラッタ映画のように血まみれの二人を見て、悲鳴を上げるのだった。


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    269_tsumugu

    DONE【よその子お借りシリーズ】
    OC男主/OC女主/パラレルワールド設定

    SPAAAAAAACEさんが素敵なその後のお話を書いてくださったので、懲りずにまたこの続きを書きました!今度は小鳥ちゃんの世界へお邪魔します。

    VOXの夢主である歌姫ちゃんも出ております。
    立ち絵とお話もきちんとしたものはありませんが、どうしても登場させたかったのでご了承ください。


    SPAAAAAAACEさん承諾済
    お手合わせ願おうか



    VOXTEC社周辺には、高級品を取り扱うお店が立ち並んでいる。

    レラージェは、友人である小鳥の為に高級スイーツ店に足を運んでいた。彼の隣には、いつもいるはずのラジオデーモンはいない。

    代わりに隣に立つのは、高く結われたスミレ色の長い髪を靡かせ、煌びやかなドレスを身にまとった片翼の女性。

    “片翼の歌姫”と呼ばれている彼女の名前は、ヴィオレッタ。VOXTEC社所属の歌手であり、レラージェの患者兼友人である。


    「その子、確か鳥って話だけど…チョコレート大丈夫なのかしら」

    「…鳥はチョコレートがダメなのかい?本人が“チョコレートが好き”と言っていたから、大丈夫だと思ったのだけど…」

    「普通の鳥なら中毒症状が出たり、最悪死ぬわ。…まぁ、アタシは平気だし、本人が言うなら大丈夫でしょ。こちら一ついただける?領収書はVOXTEC社でお願いね♡」
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