夜の告白帝国首都オーディンの高級住宅街に佇むミッターマイヤーの私邸は、夜の静寂に包まれていた。外界の喧騒を拒むように閉ざされた室内は、暖かな照明に照らされ、寝室の重厚な木製のベッドには二人の男の影が映っていた。
ガイエスブルク要塞の戦いで勝利を重ねたミッターマイヤーとロイエンタール。戦場での信頼を超え、二人の間には肉体を重ねる関係が築かれていた。それは、互いの欲を満たすだけでなく、言葉にしない絆を確認する時間だった――少なくとも、ミッターマイヤーにとってはそうだった。
ミッターマイヤーはロイエンタールの首筋に唇を這わせ、彼の反応を確かめるように見つめた。ロイエンタールの瞳は、いつも通り冷たく澄んでいるように見えたが、その奥に揺れる何かを感じ取っていた。彼を抱くたびに、ミッターマイヤーは思う。この男は、自分を心から受け入れてくれているはずだと。
「ロイエンタール…」ミッターマイヤーは低く囁き、彼の腰に手を滑らせた。「お前がこうやって俺を受け入れてくれるのは、俺にとって大きな意味がある。」
ロイエンタールは一瞬、視線を逸らした。薄い笑みを浮かべ、軽やかな口調で答える。「そうか。なら、それで良いのではないか? 互いに楽しめれば、それで十分だろう。」
その言葉に、ミッターマイヤーの動きが止まった。楽しむ? 十分? 何か違和感があった。彼はロイエンタールの肩を掴み、顔を覗き込んだ。「…どういう意味だ?」
ロイエンタールは冷静な表情を崩さず、ミッターマイヤーの視線を軽く受け流す。「言葉通りの意味だ。俺たちはこうやって互いの欲を満たしている。それで良いのではないか。」
ミッターマイヤーの胸に、冷たいものが広がった。彼はロイエンタールを抱くとき、ただの欲ではないものを感じていた。戦場で背中を預け合う信頼、共に過ごす時間の温もり、そして何より、ロイエンタールへの深い愛情。それが彼を突き動かしていた。だが、今のロイエンタールの言葉は、あまりにも軽く、冷たかった。
「お前は…本当にそう思っているのか?」ミッターマイヤーの声には、抑えきれぬ苛立ちが滲む。「俺が抱いているのは、ただの性欲処理だと考えているのか?」
ロイエンタールは一瞬、言葉に詰まったように見えたが、すぐにいつもの皮肉な笑みを浮かべた。「ミッターマイヤー、深く考えすぎだ。俺たちは分かり合っているだろう。こういう関係は、互いに割り切って楽しむものではないか?」
「割り切る?」ミッターマイヤーの声が低く、鋭くなる。「俺はお前を愛しているから抱いている。身体だけではなく、心も全てだ。お前も…俺のことを好いているから、こうやって俺を受け入れてくれているのではないか?」
その言葉に、ロイエンタールの表情が一瞬だけ揺れた。だが、彼はすぐに冷静さを取り戻し、ミッターマイヤーの手をそっと押し退けた。「愛? ミッターマイヤーらしいな。だが、俺はそんな甘い幻想には興味がない。俺たちは戦友で、こうやって互いの欲を満たす相手だ。それ以上でも以下でもない。」
ミッターマイヤーの胸に、怒りと失望が渦巻いた。彼はロイエンタールの両肩を強く掴み、ベッドに押し倒した。「ふざけるな、ロイエンタール。俺はお前をそんな軽い気持ちで抱いていない。お前が俺をどう思っているのか、本当のことを話してくれ。」
ロイエンタールはミッターマイヤーの激しい視線を受け止めながら、なおも冷静に答えた。「本当のこと? ミッターマイヤー、お前は俺を高く評価しすぎだ。俺みたいな男を、誰が本気で愛する? お前は良い男だ。義理堅く、誠実で…だからこそ、俺みたいなのはお前には不釣り合いだ。俺はただ、こうやってお前の欲を満たしているだけで良い。それで十分だ。」
その言葉に、ミッターマイヤーの怒りは一気に冷めた。代わりに、深い悲しみが胸を締め付けた。ロイエンタールが自分を卑下する姿に、耐え難い痛みが走る。「不釣り合い? 何だそれは。お前がそんな風に思っているなんて、俺は一度も考えたことがない。俺にとってお前は、戦場でも、こうやって二人きりのときでも、かけがえのない存在だ。なぜ…なぜお前はそんな風に自分を下げるんだ?」
ロイエンタールは目を閉じ、静かに息を吐いた。「ミッターマイヤー…お前は本当に良い男だ。だからこそ、俺には眩しすぎる。お前が俺を本気で愛しているなんて、信じられるはずがない。俺は…ただ、お前が俺を抱く理由を、欲だと思っていたかった。それなら、俺にも理解できるからだ。」
ミッターマイヤーはロイエンタールの頬に手を添え、力強く、しかし優しく囁いた。「ロイエンタール…お前は俺を誤解している。俺はお前を愛している。欲ではない、心からだ。お前が俺をどう思っているのか、本当の気持ちを聞かせてくれ。」
ロイエンタールは目を閉じたまま、しばらく黙っていた。ミッターマイヤーの手が彼の頬を撫でる感触が、心の奥まで届くようだった。彼はこれまで、自分の気持ちを押し殺してきた。ミッターマイヤーのような男が、自分を本気で愛するはずがない。そう信じることで、自分を守ってきた。だが、今、ミッターマイヤーの真摯な瞳を前に、嘘をつき続けることができなくなっていた。
「…俺は…」ロイエンタールの声は震えていた。「俺はお前が…大好きだ。ミッターマイヤー…お前と一緒にいるとき、戦場でも、こうやって二人きりのときでも、俺は…幸せなんだ。でも、俺みたいな男が、お前に愛される資格なんてないって…ずっと、そう思っていた…」
その言葉を聞いて、ミッターマイヤーの胸に熱いものがこみ上げた。彼は感情を抑え、ロイエンタールを強く抱きしめた。「ロイエンタール…お前がそんな風に思っていたなんて、気づかなかった。俺はお前を愛している。資格など関係ない。お前は俺にとって、唯一無二の存在だ。」
ロイエンタールはミッターマイヤーの胸の中で、初めて涙を流した。抑えていた感情が溢れ出し、嗚咽となって零れる。「ミッターマイヤー…俺…お前を…愛してる…本当に、愛してる…」
ミッターマイヤーはロイエンタールの涙を指で拭い、力強い視線で彼を見つめた。「俺もだ、ロイエンタール。俺はお前を愛している。これからも、ずっと。」
二人は互いの唇を重ね、愛情を確かめ合った。ミッターマイヤーはロイエンタールの身体を優しく愛撫し、彼の全てを受け止めるように抱いた。ロイエンタールもまた、初めて心からミッターマイヤーに身を委ね、互いの愛を身体で感じ合った。ミッターマイヤーは終始、力強くロイエンタールをリードし、彼の心と身体を包み込むように愛した。
夜はまだ深く、二人を包むように静かに過ぎていった。すれ違いを乗り越え、本当の気持ちを伝え合った二人は、互いの存在をこれまで以上に強く感じていた。戦場でも、夜のベッドでも、彼らはこれからも共に歩んでいく――心と身体、両方で。