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    rupam17wt

    @rupam17wt ワンライ等支部にあげる予定のないもの、続き物を区切りよく書けたときに使います。

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    rupam17wt

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    いばにゃんとじめにゃんのお話
    オタク仲間と二人の話がチラリと出たので調子乗って書いてしまった
    ノリで書いたので色々許していただきたい

    事務所に向かうためにエントランスホールを歩いていると、馴染みのある後ろ姿を見つけた。
    年齢の割に華奢な体格、春の青空を透かしたような髪。間違いなく彼は紫之創、以前共演したことがあるライバル事務所所属のアイドルだ。
    彼はおっとりとしていてのんびりだなと思うときはある。しかし今日の彼はいつも以上に足取りがフラフラしていて鈍い。それもそのはず、彼は両腕に大きな荷物をいくつも下げていて、薄い腕の肉に袋の持ち手が食い込んでいた。
    「こんにちは、じめにゃん。本日もお仕事ですか?」
    後ろから声を掛けたら、彼は「わあ!」と大袈裟なくらい声をあげて、天敵に見つかった野生動物のように飛び跳ねる。ウサギの名は伊達ではない。
    「こんにちは、いばにゃん。急に声を掛けられてびっくりしちゃいました」
    「いいえ、こちらこそ死角から近付いてしまい申し訳ありません」
    彼はこちらを振り返ってぺこりとお辞儀をする。誰に対しても丁寧で真摯な対応をするその姿勢が、彼の好感度と親しみやすさの秘密で、自分が彼を好ましく思う理由の一つだ。
    じめにゃんもエレベーターホールへ向かっていたようなので、そのまま彼の隣に並ぶ。ほんの少し小柄で歩幅も狭い彼に合わせて、自分も気持ちゆったりと歩くことにした。
    「ぼくはこれから事務所に行くんですが、いばにゃんもお仕事でしょうか」
    「はい、ちょっと打ち合わせが。あ、荷物持ちますよ。貸してください」
    何度も荷物を持ち直していた彼を手伝おうと手を差し出した。しかし彼は首を振り
    「ありがとうございます。でも、これはぼくの荷物ですから、ぼくが持ちます」
    とやんわりと断られた。
    「いやいや、とても重そうですし手伝いますよ」
    それでも彼は遠慮する。
    「重くはないんです。ただ、荷物がちょっと壊れやすいもので。緊張してゆっくり進んでいたんです」
    「そういうことでしたらますます自分が手伝う必要がありますね。これでも自分トレーニングしていますし、慎重に運ぶのならば手分けして運んだほうが良いでしょう」
    何だか頼りないと言われている気がして後に引けず、なかなか首を縦に振らないじめにゃんからやや強引に紙袋を奪おうと更に手を伸ばす。すると彼は「やめてください」と語気を強くして、自分から半歩ほど遠ざかった。
    「いばにゃんから見たら軟弱に見えるかもしれませんが、ぼくはこれでも力仕事とか得意なんです。だからそこまで気を遣わないでください。ぼくだって男なんです、か弱い扱いも度が過ぎると傷ついちゃいます」
    じめにゃんはそっぽを向いてむくれたが、彼のふくれっ面はいじらしさが感じられ、説教されている身の上だが思わず笑ってしまった。
    「もう。真面目にお話しているのに、どうして笑うんですか」
    「いや失敬。白くて細い腕に荷物が下がっているのをみて、じめにゃんの力になりたいという欲が出てしまいました。スマートに助けてかっこいい所を見せたいとね。もうエレベーターまで着いてしまいましたので不発に終わりましたが」
    弁明するうちに恥ずかしくなって、誤魔化すように小走りでエレベーターホールに先回りし、上へ向かうボタンを押す。いいところを見せて名誉挽回だ。
    自分の行き先は二十階なので、十二階へ行くじめにゃんとは乗るべきエレベーターが違うのだが、何となく離れがたく思い同じエレベーターに乗ることにした。きっとその事に気がついていないであろうじめにゃんは、ボタンを押した自分に綻んだ顔で「ありがとうございます」と礼を言う。
    程なくしてエレベーターは到着し、金属の扉がゆっくりと開いた。他にエレベーターを待つ人はいなかったので、じめにゃんと二人で乗り込む。
    「ちなみに、その袋の中は何が入っているんですか」
    扉が閉まって上り始めてからじめにゃんに尋ねると、彼は袋の中が覗けるように見せながら得意げに語り始める。
    「花瓶とか苗です。事務所には毎日いろんなお花が届いて、いろんな場所に飾られているんですが、花束を飾ったりする花瓶とかが足りないみたいで。ぼくの趣味でコーディネイトしても構わないという許可をいただいたのでちょっと張り切ってたくさん持ってきちゃいました。苗は空中庭園で育てるために用意したものです。夏頃に綺麗なお花が咲くんですよ」
    「おやおや、それは楽しみですね」
    花を愛でる趣味なんてない。しかし太陽が高く昇った夏空の下、花壇の前で満開の笑顔を咲かせるじめにゃんを想像したら、茹だるような酷暑が何だか待ち遠しく感じた。
    「えへへ、綺麗に咲いたら是非見に来てくださいね」
    じめにゃんは小指を立てて自分の前に差し出した。よく観察すると、想像よりも長くて関節が太い指だった。ふと、「ぼくだって男なんです」という言葉を思い出す。彼のことを女々しいと思ったことはないが、愛玩動物を見るのと同じ目で見ていたところがあるかもしれない。認識を改めなくてはと反省した。
    可憐な容姿ではあるけれど、目を凝らすと逞しさを感じる。あなたのそういうギャップに世間は魅了されていくんでしょうね。同じように小指を差し出すと、蛇が獲物に襲いかかるような勢いで巻き取られぎゅっと握られた。固結びの指切りに呆気に取られているうちにエレベーターは十二階に到着し、じめにゃんの指はあっさりと離れていった。
    「それでは、ご一緒してくれてありがとうございました。またお時間が合う時にお茶でもいきましょう」
    エレベーターから降りた彼は出会った時よりも深く礼をして、荷物が暴れない程度に小さく手を振ってくれた。彼の微笑みをもう少し見たくなってしまった自分は「閉まる」ボタンが押せず、ドアが自動で閉まってエレベーターが再び上り始めるまでずっと胸元で手を振り返した。
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    rupam17wt

    MOURNINGひいあいワンライ お題『雨』『紫陽花』 お借りしました 画像は埋もれてしまうのでこちらにもあげています。お気に入りの傘ほど雨で濡らしたくないと思うのに、その傘を持ち歩いている時に限って大降りになる。雨の日はろくなことが起こらないから藍良は好きではなかった。
    今日は一日晴れと聞いていたのに、十二時を過ぎたあたりで雲行きが怪しくなり、やがて細い雨が降り出し、現在では叩きつけるような激しい雨が降っている。天気の崩れやすい梅雨の時期だからとお守り代わりに傘を持っていたのは不幸中の幸いだが、濡れるのは避けられなかった。
    藍良は足元にできた海のような水たまりをみて、何度目か分からない深いため息を吐いた。水たまりにはうんざりした顔の藍良と、お気に入りのターコイズブルーの傘と、はりきって履いてきたおろしたてのスニーカーが映り込んでいた。
    今日は前から一彩と前から気になっていたお店でスイーツを食べる約束をしていた。オフの日だったから朝から一緒に行動すればよかったけれど、午前中それぞれ用事があったから午後に待ち合わせしようと約束をした。午後三時にお店の最寄り駅前の広場に集合する予定だったのだが、三時を少し過ぎても一彩が約束の場所に来ない。
    空を見上げると、ねずみ色の雲が絶え間なく流れている。しばらく雨は止み 1827

    rupam17wt

    MOURNINGいばにゃんとじめにゃんのお話
    オタク仲間と二人の話がチラリと出たので調子乗って書いてしまった
    ノリで書いたので色々許していただきたい
    事務所に向かうためにエントランスホールを歩いていると、馴染みのある後ろ姿を見つけた。
    年齢の割に華奢な体格、春の青空を透かしたような髪。間違いなく彼は紫之創、以前共演したことがあるライバル事務所所属のアイドルだ。
    彼はおっとりとしていてのんびりだなと思うときはある。しかし今日の彼はいつも以上に足取りがフラフラしていて鈍い。それもそのはず、彼は両腕に大きな荷物をいくつも下げていて、薄い腕の肉に袋の持ち手が食い込んでいた。
    「こんにちは、じめにゃん。本日もお仕事ですか?」
    後ろから声を掛けたら、彼は「わあ!」と大袈裟なくらい声をあげて、天敵に見つかった野生動物のように飛び跳ねる。ウサギの名は伊達ではない。
    「こんにちは、いばにゃん。急に声を掛けられてびっくりしちゃいました」
    「いいえ、こちらこそ死角から近付いてしまい申し訳ありません」
    彼はこちらを振り返ってぺこりとお辞儀をする。誰に対しても丁寧で真摯な対応をするその姿勢が、彼の好感度と親しみやすさの秘密で、自分が彼を好ましく思う理由の一つだ。
    じめにゃんもエレベーターホールへ向かっていたようなので、そのまま彼の隣に並ぶ。ほんの少し小柄で歩 2344

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    MOURNINGひいあいワンライ お題『宣言』
    またしてもお題にきちんと添えていない……
    これからワンライはこちらにバックナンバーを登録していきます。ちゃんと運用できれば良いのですが。
    読んでくださりありがとうございます。
    土曜日のお昼どき、一彩からESの食堂に呼び出された藍良は、入り口で待ち構えていた彼の鬼のような形相にびっくりした。どうやら怒っているらしい。一彩はその穏やかさととんちんかんな思考回路ゆえに、滅多に感情を荒げることがないのに。一体何があったのだろうか。
    藍良が状況を飲み込めていないことに構うことなく、一彩は藍良の手を引いてずんずんと食堂の奥の方へと向かう。連行や誘拐という表現が正しく思える乱暴さだった。
    やがて二人はテーブル席に辿り着く。四人がけの席は二人きりで占領するには広くて、これから食事を摂りにくる人たちに申し訳なさを感じる。
    一彩は藍良を解放し、席に座るように促した。彼の異様さに面食らっていた藍良は、言われた通りに椅子に浅く座った。藍良の向かいに座った一彩は、重々しく口を開いた。

    「白鳥藍良、僕は『ALKALOID』の君主として、今から君に厳しいことを言わなくてはならない」
    目が据わった一彩を見て、藍良の背中に日当たりの良い食堂が底から凍りつくような悪い予感が走る。思い出すのは解雇を言い渡されたあの日や、ライブで失敗してしまった時。知らないうちに取り返しのつかないことをしてしま 2004

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    MOURNINGひいあいワンライ お題『一周年』『始まり』
    少し前からきちんとお題に添えていない気がします。
    読んでくださった方、ありがとうございました。
    ESの食堂で昼食にオムライスを食べた後、藍良と次の仕事まで時間を潰すことになった。空いている席が日当たりが良すぎる場所しかなかったため、僕らのいる場所は冷房の恩恵があまりない。昼時を過ぎた現在、座る人はまばらになっていたが、僕たちは日陰の席に移動するのも億劫でなんとなくこの場に居続けた。
    すっかり汗をかいたグラスの中の氷で薄まった麦茶を飲んでいたら、「お待たせしました」と店員が小さなお皿を二つ置いていった。お皿に乗っているのは、黄色いクレープ生地と生クリームが何層にも重なっているケーキ。確かミルクレープというんだったか。つやつやとしていて美味しそうだ。しかし、僕にはデザートを注文をした記憶はない。「間違えているよ」と伝えようとしたら、向かいの席に座る藍良が僕の脛に爪先を当ててきた。
    「これ、藍良が頼んだのかい?」
    店員の背中が遠くなってから聞いたら、藍良は「そうだよォ」と言って、銀色のフォークでひとくち分のケーキを切り取り、小さなかけらを口に運ぶ。相変わらず口が小さい。
    「ん〜〜美味しいなァ。やっぱり甘いものは最高だよォ」
    「どうして二人分頼んだんだい?」
    「え、ヒロくん要らないの?せ 2164

    rupam17wt

    MOURNINGひいあいワンライ お題 『桜』『卒業』
    桜の方をお借りしています。当時読んでくださった方ありがとうございました。
    うららかな陽気の三月。授業なし、宿題なし、仕事なし、レッスンなし。穏やかな春休みの一日を、ライブ配信や推しアイドルの出演作を見る時間に充てようと思っていた藍良だったが
    「出かけるよ、藍良。準備して」
    突然現れた赤い悪魔によって、藍良の平和な春休みは終わりを告げられた。


    「ねェ、これどこ向かってんの?逃げないから目的地くらい教えてくれてもよくなァい?」
    一彩に引っ張られるように寮を出発して、知らない路線の下り電車に乗り三十分ほど揺られて辿り着いた終点駅。そこからさらに歩くこと数分。一彩と藍良は道と呼んでいいのか分からないような山道を歩いていた。枯葉が敷き詰められた地面は歩きにくく、藍良は何度か木の根に脚を引っ掛けて転びかけた。
    「それは着いてからのお楽しみだよ」
    すっかり息が弾んでしまった藍良の手を握りながら、上機嫌で歩く一彩は全く疲れている様子がない。鼻歌まで歌っている。山を覆う森は太陽の光が届かず薄暗くて、地面は湿っており、とても不気味であった。藍良は一彩の強引さにうんざりしながらも、置いていかれないようにと繋いでいる手をぎゅっと握り返す。
    「おれついに殺されるの?調子乗りすぎた 1608

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