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    rupam17wt

    @rupam17wt ワンライ等支部にあげる予定のないもの、続き物を区切りよく書けたときに使います。

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    rupam17wt

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    ひいあいワンライ お題『宣言』
    またしてもお題にきちんと添えていない……
    これからワンライはこちらにバックナンバーを登録していきます。ちゃんと運用できれば良いのですが。
    読んでくださりありがとうございます。

    土曜日のお昼どき、一彩からESの食堂に呼び出された藍良は、入り口で待ち構えていた彼の鬼のような形相にびっくりした。どうやら怒っているらしい。一彩はその穏やかさととんちんかんな思考回路ゆえに、滅多に感情を荒げることがないのに。一体何があったのだろうか。
    藍良が状況を飲み込めていないことに構うことなく、一彩は藍良の手を引いてずんずんと食堂の奥の方へと向かう。連行や誘拐という表現が正しく思える乱暴さだった。
    やがて二人はテーブル席に辿り着く。四人がけの席は二人きりで占領するには広くて、これから食事を摂りにくる人たちに申し訳なさを感じる。
    一彩は藍良を解放し、席に座るように促した。彼の異様さに面食らっていた藍良は、言われた通りに椅子に浅く座った。藍良の向かいに座った一彩は、重々しく口を開いた。

    「白鳥藍良、僕は『ALKALOID』の君主として、今から君に厳しいことを言わなくてはならない」
    目が据わった一彩を見て、藍良の背中に日当たりの良い食堂が底から凍りつくような悪い予感が走る。思い出すのは解雇を言い渡されたあの日や、ライブで失敗してしまった時。知らないうちに取り返しのつかないことをしてしまったのだろうか。思い当たる原因がないから余計に恐怖に駆られた。

    「これが終わるまで君を『ALKALOID』から破門するよ」

    一彩はそう宣言すると、使用していない椅子に置いてあった紙袋から教本やノートを取り出し、どさどさと藍良の前に積んでいく。使用感があまりない真新しい本たちは、藍良が学校のロッカーに「置き勉」しているものたちだった。
    「待って、なんでヒロくんがおれの教科書とか持ってるの?しかも多くなァい?それに破門ってなにさ、どこの道場だよ」
    想像よりも軽い原因に安堵し緊張から解放された藍良は、すかさず文句をいう。一彩はシャープペンシルを向けて「藍良に文句を言う資格はないよ」と脅す。
    「僕たちあれだけお勉強もちゃんとやろうって言ったよね。それなのにまた赤点取ったらしいじゃないか」
    「うっ……おれなりにやってはいるんだけど。というかおれの成績をなんで知ってるの?クラスの人にも話していないのに」
    「この間、プロデューサーと事務所でお話ししていたら、通りかかった椚先生に言われてね。もしかしたら彼は進級できないかもしれませんとも仰っていたよ」
    「夢ノ咲はアイドルの業績で成績決まるんじゃなかったのォ?ただでさえ年下でみんなに置いていかれるのに、卒業がさらに一年先送りになるなんて嫌だ」
    「だろう?だから今はアイドルのことは忘れて、お勉強に集中しよう。これは命令だし、先輩たちも合意の上だよ。ちなみにマヨイ先輩もこっそり見張っているから、逃げようとしても無駄だからね」
    「おれからアイドル要素を取ったら皮と骨すら残らないよォ」
    退路を断たれ、やるしかないと涙目になりながら、一彩が用意した教本を手に取る。表紙には「世界史」と書かれていた。
    「世界史って……アイドル活動に関係あるの?」
    「関係があるかないかはどうでもいいよ。歴史を理解することで、考え判断する力をつけるというのが目的だと僕は思うよ」
    「ぐっ、正論振りかざしやがって」
    「いいから進めよう。課題の範囲は先生から聞いている。僕も勉強道具を持ってきたから、一緒にお勉強しよう。分からないことがあったら遠慮なく聞いてほしい」
    一彩は紙袋からノートと教科書を取り出した。表紙には重々しいゴシック体で「数学Ⅱ」と書かれている。「数学Ⅰ」よりやや分厚い教科書を見て、藍良は思わず「うげえ」とつぶれた声で呻いた。
    「藍良、手を動かさないと本当に破門するよ」
    一彩はぱらぱらと教科書をめくりながら言う。
    「だって覚えることが多すぎるよ……無理だって……人間の理解できる範疇を超えてるよォ」
    藍良は教科書を捲る手を止め、机に突っ伏して、ノートの罫線をシャープペンシルでゆっくりなぞる。世界史の用語を覚えるために、教科書を読めば良いのか、書き写せば良いのか、藍良にはさっぱり分からない。机につけた耳から、一彩が数式を書く振動が伝わる。
    「ではこうしよう、藍良。藍良が目の前の課題を終わらせられなかったら、僕はアイドルをやめて、故郷に戻る。事務所にも伝えて、SNSにも投稿しよう」
    「はあ?冗談でも、言っていいことと悪いことがある!そんなの絶対ダメだから!」
    藍良はペンを握る一彩の右手を掴んで、絶対に逃がさないという思いを込めてぐっと力を込める。指先が白く染まっていくのを見た一彩は、嬉しそうに口角を上げた。
    「僕もみんなと離れ離れにはなりたくないな。だから頑張ろう。ちなみに世界史は128Pからだと聞いたよ」
    手元の教科書を見ると全然違うページが開かれていた。やるしかないのか。シャープペンシルをノックしながら、128Pを目指して一枚ずつ教科書を捲った。
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    rupam17wt

    MOURNINGひいあいワンライ お題『雨』『紫陽花』 お借りしました 画像は埋もれてしまうのでこちらにもあげています。お気に入りの傘ほど雨で濡らしたくないと思うのに、その傘を持ち歩いている時に限って大降りになる。雨の日はろくなことが起こらないから藍良は好きではなかった。
    今日は一日晴れと聞いていたのに、十二時を過ぎたあたりで雲行きが怪しくなり、やがて細い雨が降り出し、現在では叩きつけるような激しい雨が降っている。天気の崩れやすい梅雨の時期だからとお守り代わりに傘を持っていたのは不幸中の幸いだが、濡れるのは避けられなかった。
    藍良は足元にできた海のような水たまりをみて、何度目か分からない深いため息を吐いた。水たまりにはうんざりした顔の藍良と、お気に入りのターコイズブルーの傘と、はりきって履いてきたおろしたてのスニーカーが映り込んでいた。
    今日は前から一彩と前から気になっていたお店でスイーツを食べる約束をしていた。オフの日だったから朝から一緒に行動すればよかったけれど、午前中それぞれ用事があったから午後に待ち合わせしようと約束をした。午後三時にお店の最寄り駅前の広場に集合する予定だったのだが、三時を少し過ぎても一彩が約束の場所に来ない。
    空を見上げると、ねずみ色の雲が絶え間なく流れている。しばらく雨は止み 1827

    rupam17wt

    MOURNINGいばにゃんとじめにゃんのお話
    オタク仲間と二人の話がチラリと出たので調子乗って書いてしまった
    ノリで書いたので色々許していただきたい
    事務所に向かうためにエントランスホールを歩いていると、馴染みのある後ろ姿を見つけた。
    年齢の割に華奢な体格、春の青空を透かしたような髪。間違いなく彼は紫之創、以前共演したことがあるライバル事務所所属のアイドルだ。
    彼はおっとりとしていてのんびりだなと思うときはある。しかし今日の彼はいつも以上に足取りがフラフラしていて鈍い。それもそのはず、彼は両腕に大きな荷物をいくつも下げていて、薄い腕の肉に袋の持ち手が食い込んでいた。
    「こんにちは、じめにゃん。本日もお仕事ですか?」
    後ろから声を掛けたら、彼は「わあ!」と大袈裟なくらい声をあげて、天敵に見つかった野生動物のように飛び跳ねる。ウサギの名は伊達ではない。
    「こんにちは、いばにゃん。急に声を掛けられてびっくりしちゃいました」
    「いいえ、こちらこそ死角から近付いてしまい申し訳ありません」
    彼はこちらを振り返ってぺこりとお辞儀をする。誰に対しても丁寧で真摯な対応をするその姿勢が、彼の好感度と親しみやすさの秘密で、自分が彼を好ましく思う理由の一つだ。
    じめにゃんもエレベーターホールへ向かっていたようなので、そのまま彼の隣に並ぶ。ほんの少し小柄で歩 2344

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    MOURNINGひいあいワンライ お題『宣言』
    またしてもお題にきちんと添えていない……
    これからワンライはこちらにバックナンバーを登録していきます。ちゃんと運用できれば良いのですが。
    読んでくださりありがとうございます。
    土曜日のお昼どき、一彩からESの食堂に呼び出された藍良は、入り口で待ち構えていた彼の鬼のような形相にびっくりした。どうやら怒っているらしい。一彩はその穏やかさととんちんかんな思考回路ゆえに、滅多に感情を荒げることがないのに。一体何があったのだろうか。
    藍良が状況を飲み込めていないことに構うことなく、一彩は藍良の手を引いてずんずんと食堂の奥の方へと向かう。連行や誘拐という表現が正しく思える乱暴さだった。
    やがて二人はテーブル席に辿り着く。四人がけの席は二人きりで占領するには広くて、これから食事を摂りにくる人たちに申し訳なさを感じる。
    一彩は藍良を解放し、席に座るように促した。彼の異様さに面食らっていた藍良は、言われた通りに椅子に浅く座った。藍良の向かいに座った一彩は、重々しく口を開いた。

    「白鳥藍良、僕は『ALKALOID』の君主として、今から君に厳しいことを言わなくてはならない」
    目が据わった一彩を見て、藍良の背中に日当たりの良い食堂が底から凍りつくような悪い予感が走る。思い出すのは解雇を言い渡されたあの日や、ライブで失敗してしまった時。知らないうちに取り返しのつかないことをしてしま 2004

    rupam17wt

    MOURNINGひいあいワンライ お題『一周年』『始まり』
    少し前からきちんとお題に添えていない気がします。
    読んでくださった方、ありがとうございました。
    ESの食堂で昼食にオムライスを食べた後、藍良と次の仕事まで時間を潰すことになった。空いている席が日当たりが良すぎる場所しかなかったため、僕らのいる場所は冷房の恩恵があまりない。昼時を過ぎた現在、座る人はまばらになっていたが、僕たちは日陰の席に移動するのも億劫でなんとなくこの場に居続けた。
    すっかり汗をかいたグラスの中の氷で薄まった麦茶を飲んでいたら、「お待たせしました」と店員が小さなお皿を二つ置いていった。お皿に乗っているのは、黄色いクレープ生地と生クリームが何層にも重なっているケーキ。確かミルクレープというんだったか。つやつやとしていて美味しそうだ。しかし、僕にはデザートを注文をした記憶はない。「間違えているよ」と伝えようとしたら、向かいの席に座る藍良が僕の脛に爪先を当ててきた。
    「これ、藍良が頼んだのかい?」
    店員の背中が遠くなってから聞いたら、藍良は「そうだよォ」と言って、銀色のフォークでひとくち分のケーキを切り取り、小さなかけらを口に運ぶ。相変わらず口が小さい。
    「ん〜〜美味しいなァ。やっぱり甘いものは最高だよォ」
    「どうして二人分頼んだんだい?」
    「え、ヒロくん要らないの?せ 2164

    rupam17wt

    MOURNINGひいあいワンライ お題 『桜』『卒業』
    桜の方をお借りしています。当時読んでくださった方ありがとうございました。
    うららかな陽気の三月。授業なし、宿題なし、仕事なし、レッスンなし。穏やかな春休みの一日を、ライブ配信や推しアイドルの出演作を見る時間に充てようと思っていた藍良だったが
    「出かけるよ、藍良。準備して」
    突然現れた赤い悪魔によって、藍良の平和な春休みは終わりを告げられた。


    「ねェ、これどこ向かってんの?逃げないから目的地くらい教えてくれてもよくなァい?」
    一彩に引っ張られるように寮を出発して、知らない路線の下り電車に乗り三十分ほど揺られて辿り着いた終点駅。そこからさらに歩くこと数分。一彩と藍良は道と呼んでいいのか分からないような山道を歩いていた。枯葉が敷き詰められた地面は歩きにくく、藍良は何度か木の根に脚を引っ掛けて転びかけた。
    「それは着いてからのお楽しみだよ」
    すっかり息が弾んでしまった藍良の手を握りながら、上機嫌で歩く一彩は全く疲れている様子がない。鼻歌まで歌っている。山を覆う森は太陽の光が届かず薄暗くて、地面は湿っており、とても不気味であった。藍良は一彩の強引さにうんざりしながらも、置いていかれないようにと繋いでいる手をぎゅっと握り返す。
    「おれついに殺されるの?調子乗りすぎた 1608

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