Bitter ─出不精なところは、好きじゃない。
「なぁ~、せっかくのいい天気が勿体ないぜ?」
「昨日だって散々外で暴れまわっただろう……休みの日ぐらい薄暗い巣穴に籠らせてくれ」
「SNAKEの習性か? へっ、普段からダンボールに包まってるくせに」
ここんとこ、オフの日はすっかりオッサンの部屋に入り浸ることが増えた。
もっとも、それ以外の日も夜は寝床に潜り込んだりしてるけど…乱闘の日は身支度もあるし、そのまま日がな一日過ごすようなことは流石にないからな。
でも、オレは正直言って外を走り回る方が好きだ。陽の光も、流れる風も、全身で感じてこそ生きていると感じられる。
幸いこの世界は豊富な自然だけじゃなく、各ファイターの故郷を再現したゾーンが大量に存在しているから、その風景にもまだまだ見飽きることはない。
最近はお馴染みのグリーンヒル風のゾーンだけじゃなく、シュルクの出身世界を再現した雄大な大地も駆け回り甲斐があるし、
ジョーカーの出身世界をイメージしたゾーンなんかもCoolなサウンドに包まれながら走れるのがお気に入りだ。
でも、そういうのを共有したいって気持ちを、オッサンはちっともわかっちゃくれない。
今だって定期連絡がどうこうと理屈を付けてずっとコンピューターに張り付きっぱなしだ。
……部屋に居るなら居るで、せめて構ってくれてもいいのに。
モニタの光に向かう無骨な背中を、ベッドの縁で腕組みしながら睨みつけるオレ。
自分で言うのもなんだけど、誰かと歩調を合わせるのなんて大の苦手といってもいい方だ。
いつだって周りを置き去りになるのも厭わず好きに走り抜けてきたし、そのことで仲間たちの苦労や不満だって聞こえてこなかったわけじゃない。
そんなオレが、一緒に行こうって言ってんのに。このありがたさをオッサンは少しは知るべきだな。
「一日中画面とにらめっこしてるつもりかよ? 身体に根っこが張っちまうぜ」
「……お前と違って大人には色々と済ませるべきことがあるんだ」
「けっ」
何かあればすぐ大人大人オトナ、人をガキ扱いするところも好きじゃない。
そりゃ、ニンゲンの年齢で言えば15歳は子供かもしれないけど。
その基準をそのままオレ達に当てはめるのは間違ってるよな、多分。
シャドウ…は年齢不詳だからともかく、エミーやナッコォズだって子供という感じはしないだろ。
…なんて、『子供じゃない』とムキになって言えば言うほど、何か余裕ぶった口ぶりで『クソガキが』と返されるだけ。
へん、だったらガキで結構。大人なら責任持ってガキの面倒見てくれよな。
「なぁ、今それ何やってんの?」
ベッドに転がっているのにも飽き、オッサンの肩に顎を乗せてモニタを覗き込む。
画面に乱舞する、こまごまとした文字の数々…Yuck.ゾッとしないぜ。
「……"仕事"だ」
どうせ具体的に説明しても無駄だろう、と大きくため息をついた顔にはっきりと書いてある。
癪だけど、いつ聞いても専門用語まみれでわけがわからないということしかわからないからな。
でもさぁ、その、単語で会話するの、一番寂しいんだよな。
「そういうことを聞いてるんじゃなくってさぁ…」
「あのなぁ…今日はどうした? やけに絡んでくるじゃないか」
「べっつに…そんなんじゃねぇけど」
「ヤキモチか? ホームシックか? まさか発情期でもないだろう」
「!! なっ……」
何を言うんだ、いきなり…!どれも違う、そんなんじゃない、けど、特に最後のは絶対違う!
「人を盛りの付いたペットみたいに言うなよな!」
「だったら静かにしててくれ。動物型ファイターの寮に移されたくないならな」
「なんだよ、そんな言い方しなくってもいいじゃんか……」
皮肉屋なとこも…今は好きじゃない。
普段のオレにとっては、自分と同等かそれ以上にウィットに富んだ会話ができる数少ない相手だけど
こういう時、平気でグサッとくる言葉を刺してくる鈍感さ。
jokeってのは、受け止める相手が居てこそなんだぜ……
「……もういい、ひとりで出かけて───」
グイ。
ふいに肩にゴツい手が回り、抱き寄せられる。
「……んっ…」
「……少しは癇癪が収まったか、クソガキ」
言うだけ言い捨てると、ぷい、と顔を背けるオッサン。
別にいいさ、オレだって…真っ赤になっているだろう今の顔は、見られたくない。
「……苦いんだよ、バカ」
オッサンの、一番キライなとこ。
舌に絡まるタバコの味は、いつまで経っても好きになれそうにない。