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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    浬-かいり-

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    かおみさ+モブ(※オメガバース)

    「それを運命と呼ぶ」のモブ視点。
    ※奥沢がモブに襲われてる描写あり

    それを運命と呼びたかった「あれ、どうしたのこんな所で」


     CiRCLEというライブハウスの中に入ると、使用中のスタジオから出てきた見知った人物に名前を呼ばれた。なんか久し振りだね、と笑う姿に胸が高鳴る。顔を合わせられただけで、私は浮かれていた。


    「ちょっと用事があって。……確かに、こうやって話すの久し振りだよね」

    「同じ学校なのにね」


     嘘。ライブハウスに用事なんて無い。ここを通ればバンドをやっている彼女に会えるかなって、放課後にフラフラ立ち寄っているだけだ。
     同じ学校の同級生であるこの奥沢美咲という子に、私は恋をしていた。去年同じクラスに居たこの子は優しくて、なんでもそこそこ器用にこなすのにそれを全然鼻にかけなくて、ちょっと眉を下げて困ったように笑う顔が素敵な子だった。

     私は自分の“アルファ”という性が大嫌いだった。優れた能力とカリスマ性を持って生まれると言われているアルファだが、どうやら私みたいな例外も居るらしい。成績は中の上、運動神経も普通、絵も楽器も中途半端。
     それでも好きな相手が……美咲がオメガだと知った時、私は生まれて初めて自分がアルファであることに感謝した。私がアルファだったのは、きっと美咲と結ばれる為だったんだ。


    「美咲は練習?」

    「うん、一応」

    「見てもいい?」

    「え、別にいいけど……。なんか恥ずかしいな」


     そんなことを言いつつも、美咲は自販機で飲み物を買ってからスタジオへと先導してくれる。

     いつか告白しようと思っていた。けれどそんな勇気、アルファとしての自信が無い私が兼ね備えている筈もなく。気付けば四月になって、私と美咲は別のクラスになってしまった。部活もバンドもやっていない私は、美咲と話す術を完全に失くしてしまった。今では学校内で見かける彼女を遠目に眺めたり、たまにライブを見に行く程度。
     それでもやっぱり好きで、諦め切れなくて、こうしてチャンスを待っていた。やっと会えた。やっと話せた。美咲が私の名前を呼んで私の顔を見てくれるだけで、心臓がうるさくて堪らない。今日こそ、ちゃんと気持ちを伝えるんだ。


    「あんまり大したことできないけど……」


     スタジオの中に入って、美咲の隣に立ってみて気付いた。彼女から、知らないアルファのにおいがした。
     弦巻さんではないはず。だって同じクラスの彼女は、美咲のにおいを漂わせていなかったから。

     それじゃあ、一体誰が?


    「……美咲は、今日は一人で練習してるの?」


     必死に平静を装って、私は尋ねた。お願い、違うって言って。私の気のせいだって言ってよ。まだチャンスはあるって言ってよ。


    「……ううん。今日はギターの人とふたりだけ」


     そう答えて微笑んだ美咲の、頰を仄かに染めた顔があまりにも嬉しそうで。愛おしそうなその声音があまりにも柔らかくて。
     それで私は察してしまった。その人が番なんだ。美咲は番を持ってしまったんだ。いつ? どうして? 私の知らない間に?


    「今日はギターの練習がメインだから、あたしはあくまでも付き添いで———、……?どうしたの?」


     黙ったままの私の視線は、美咲のうなじに注がれる。私が噛みたかった、噛む予定だった場所。ここも私がよく知らないアルファの人が既に噛んでしまった。
     それが悲しくて、悔しくて。


    「ぁっ、痛……ッ! な、なに?」


     美咲の両手首を後ろから掴んで、そのまま壁に縫い付けるようにして押さえつけた。私に背中を向けて拘束された美咲のうなじがよく見える。勢いよく壁に押しやってしまったので、痛みに顔を歪めた美咲が戸惑いの声を上げた。
     私の方が美咲のことを知ってるのに。私の方が美咲の傍に居てあげられるのに。私の方が、美咲のことを好きなのに!!


    「私の方が……、私の方が!!」

    「えっ、なに、や、やめて!」


     どうして違う人なの。どうして私じゃないの。私が才能の無いアルファだから? それとも私が、告白できずに足踏みしていたから?
     首を振って暴れる美咲だけど、私にとっては抵抗にもならない。私みたいなアルファでも簡単に押さえ付けられるなんて、オメガって非力なんだな。これだったら、告白するか悩んでいないでさっさと噛んでしまえば良かったんだ。


    「美咲、好き。好きだよ。だいすき。ごめんね」

    「やっ、いやだ……っ! ――ぁ、っ!?いだ、いたい……!」


     怒りとも哀しみとも言えない自分でもよく分からない感情が頭の中をぐるぐるして、それでも美咲のことを大好きな気持ちで満たされる。こんな感情に理性を掻き消されるがまま、知らないアルファのにおいがするそのうなじに歯を立てた。ぐっと歯を皮膚へ沈ませれば、悲鳴に近い声が上がって、抵抗が弱くなる。
     口を離せば、私の歯形がくっきりと付いたその場所に征服感を覚えて嬉しくなった。ひどく興奮した。なんだ、私もちゃんとアルファだったんだ。


    「ぃ、う……、」


     力の抜けた美咲の身体が、壁にもたれてずるずると下がる。床に座り込んでしまった美咲は、震える両手で私の付けた歯形を隠してしまった。それにちょっとだけ不満を覚えて、しゃがんでからその手を引き剥がそうとして、そして気付く。


    「美咲……?」


     覗き見た美咲の顔が真っ青になっていた。よく見ると手だけじゃなくて身体も震えている。さっきまで元気で笑ってたのに、どうして。


    (———私の、せい?)


     そんな考えが脳裏を過ぎって、私はようやく我に返った。番がいるオメガのうなじに番じゃないアルファが触れるとどうなるか。そんなの散々習ったはずだった。とんでもないことをしてしまったんだ。


    「あ、ぁ……、」


     立ち上がり、後ろに数歩下がって美咲から離れる。血の気の引いた顔をしている私のことなんて目もくれず、美咲は蒼い顔で震えている。


    「ぁ、ぅ、かおる、さ、」


     助けを求める美咲の声を聞きたくなくて、私は彼女に背を向けるとスタジオのドアを開けて勢いよく外へと飛び出した。
     ライブハウスから慌てて出る時、すれ違った背の高い女の人。すれ違ったのは一瞬だったのに、彼女から美咲のにおいがしたことに気付いてしまった。
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