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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    浬-かいり-

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    ここみさ。フォロワのお誕生日に捧げたもの

    幸せなら口塞ごう 新年度を迎えて、学校内は浮き足立っていた。
     それはクラス替えだったり、新入生だったり、進級だったり。卒業生が去ったばかりだけど、その時のしんみりした雰囲気はもう既に何処にもない。それが少し寂しかったりもするんだけど、寂しがる暇なんて無くて。
     新しい風が吹き始めた学校の、そのまた新しいメンバーに一新されて新鮮な空気の生徒会室で。


    「はあぁ〜〜〜……」


     その空気に似つかわしくない、クソデカい溜め息が重たく漏れ出ていた。


    「……大丈夫か、奥沢さん」

    「……あんまり、大丈夫じゃない……」


     今年度の新しい生徒会長となった奥沢さんは、大量の書類を前にげんなりしていた。
     新年度は生徒会主催のイベントに、交換留学の準備に、部活や委員会の活動予定や費用の書類に――と、やることが多い。まだ生徒会長になったばかりの奥沢さんは、慣れない仕事に疲弊しきっていた。それでもしっかり抜かりなくこなしているあたり、流石器用な奥沢さんって感じなんだけど。


    「今日はもう、終わりにしようかな……」

    「おー、それがいいって。まだ締め切りまで余裕あるし、まだそんな無理してまでやらなくていいって」


     重たい動作で顔を上げた奥沢さんに労いの言葉を掛けて、書類の片付けを手伝う。
     私も生徒副会長として色々支えてるつもりだけど、生徒会長がやらなきゃいけない仕事っていうのもやっぱり多くて。
     奥沢さんとこうして生徒会の仕事ができることを私は嬉しく思ってるんだけど、こんな風に仕事に追われる奥沢さんを見るとちょっと申し訳ない気持ちにはなる。今度、気分転換に誘ってなんかお茶でも奢るか……。


    「み〜〜〜さき〜〜〜!!」


     そんなことを考えていた矢先、生徒会室のドアが勢いよく開かれる。帰り支度を整えた弦巻さんだ。去年はポピパのメンバーがよく訪れていたこの部屋は、最近はハロハピメンバーの来訪も増えていた。まあ、これは予想できていたことだ。


    「有咲も居たのね! お仕事は終わったところかしら?」

    「終わったっていうか、終わらせたっていうか……」

    「待たせてごめんな、弦巻さん。奥沢さん疲れてるから連れて帰ってやってくれ」


     果たして弦巻さんに連れられて奥沢さんが休めるかは疑問だが、まあ机に向かってずっと書類と睨めっこしてるよりは遥かにマシだろう。
     書類をまとめ終えた奥沢さんの顔を、弦巻さんがまんまるの目で覗き込む。


    「……たしかに、疲れてそうね?」

    「うん、仕事が多くて……、」


     そう答えて奥沢さんが、また溜息を吐く。すると弦巻さんは何か閃いたように目を輝かせると、両手で奥沢さんの頬を挟むように固定させ、自分の方へと向かせた。
     あ、何か嫌な予感がする。そう思った時には既に遅くて、あっという間に二人の唇が重なって、奥沢さんの目が見開かれる。私の目ももちろん見開いて、びっくりし過ぎて椅子の背もたれに思いっきり肘を強打した。


    「……どうかしら?」

    「ど、どどっ、どうって、なにが……!?」


     得意げな顔の弦巻さんに、顔を真っ赤にした奥沢さんが動揺しながら困惑の言葉を吐き出す。奥沢さんの顔を未だ捕まえたまま、弦巻さんは上機嫌に笑った。


    「溜息を吐くと幸せが逃げるって言うじゃない?」

    「え? ……えっ?」

    「だから塞いだの! これで幸せが逃げなくなったでしょう?」


     呆気に取られた表情の奥沢さん。成る程、言ってることは理解できた。できたけど、だからってキスで口を塞ぐっていう行動は私は理解できなかった。奥沢さんの表情を見ると、彼女もどうやら私と同じ気持ちらしい。


    「いや、だからって普通、急にこんなことする……?」


     呆れた顔の奥沢さんが、また溜息を――……あ、


    「あら、まだ溜息が止まっていないわ!」

    「えっ、いや、ちが、」

    「また塞いであげるわね!」

    「違う違う、ほんとに待っ――、」


     再びキスで塞がれる唇。しかもさっきより長い。奥沢さんが後ろに引いて逃げようとしても、弦巻さんの手が後頭部をがっちり掴んで逃げられずにいた。


    「ん、んむ……、」


     目の前で繰り広げられる濃厚なキスを直視できなくて、思わず両手で目を覆う。いや嘘、指の隙間からちょっと見た。さっきも赤かったのに、それより更に真っ赤に染まった奥沢さんの顔。人の顔ってここまで赤くなれるのかと感心するけれど、きっと今の私の顔も同じくらい赤くなっている。


    「……ぷは、」


     やがて弦巻さんが奥沢さんを解放する。どれくらいの間なんて、数えていられる余裕なんか私にあるわけない。ぐったりと机に倒れ伏す奥沢さんと対照的に、弦巻さんは満面の笑みでご機嫌だ。


    「もう、幸せは逃げなくなったかしら?」

    「な、なった……」

    「じゃあお茶にしましょう! あたし、美味しいお菓子を持ってきたの! 有咲も一緒にどうかしら?」

    「参加できるかこんな空気で」


     バッグからコンビニの袋を取り出してお菓子を並べ始める弦巻さんを、未だ机に突っ伏した姿勢のままの奥沢さんが虚な目で眺めている。私にちらっと寄越した視線は助けを求めているような、目撃してしまったことに対する絶望の目のような、そんな気がした。そんな気がしたけれど、私は何もできないのだ。


    「……えと、私はもう帰るから。あとはごゆっくり」

    「ええ! また明日ね、有咲!」


     ちくちく刺さる視線を背中に受けながら、私は生徒会室を後にする。
     せめてもの助け舟として、扉には“会議中”の札を掛けてやることにした。ていうか今から一年、あんなのを見せられ続けなきゃいけないのか? と思ったが。
     よく考えなくても、去年と大して変わっていないことに気付くのだった。
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