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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    浬-かいり-

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    koms。新生徒会の咲咲と、生徒会役員モブと、よく知らない大学生の女の人。

    感情の芽生え 新年度。高校2年生になった私は、この度生徒会長の書記となった。特に学校を良くしたいなんて大それた理由も、内申点になるからなんて将来を考えたなんて理由も無い。ただ中等部でも生徒会に入っていたから、高校でもやらないかって先生から声を掛けられた。ただそれだけの理由だ。


    「えーと……い、一応生徒会長になりました、奥沢美咲、です……」


     メンバーも一新された新生徒会、印象は「この生徒会長大丈夫かな」だった。
     初の顔合わせでのガチガチの就任挨拶、始業式でのぐだぐたな挨拶。自信なさげに泳ぐ目が、私たちを控えめに映した。この生徒会長と一年やっていくことに、少なからず不安を覚えた。


     ただ、そんな不安はすぐに杞憂だとわかった。
     奥沢会長は優しくて真面目な人だ。よく周りを見ていて、困っている人が居るとすぐに声を掛けてくれる。慣れない生徒会の仕事をこなす為に、朝早くから学校へ来て放課後遅くまで残っていることを知ったのは最近のことだ。


    「――あれ、定例会議のここの項目って……、」

    「あ、それもう終わってるから他のお願いしてもいい?」

    「えっ、あれ結構量あったんじゃ……」

    「市ヶ谷さんにも手伝ってもらって、今朝片付けちゃったんだ」

    「いや、私は最初にやり方教えただけだけどな」


     生徒会長は手際の良い人だ。仕事も慣れていないと言いつつも、去年から生徒会に居る市ヶ谷副会長にフォローしてもらいながらこなしている。その仕事を覚える早さはなかなかで、私も頑張らないと追いつけないくらいだ。
     定例会議の準備は終わったから、今日は書類の整理だ。夏に向けた部活・委員会の活動申請などを処理していく。黙々と作業を進める生徒会室は、少しだけ珍しい。いつもだったら、生徒会長や副会長のバンドメンバー達が手伝いや応援に来て、もう少し騒がしいから。

     だから、スマホが机の上で振動する音がやけに大きく響いた。書類から視線を外した奥沢会長が、溜息を吐いてまた書類に視線を戻す。スマホは鳴りっぱなしだ。隣に居た市ヶ谷副会長が声を掛ける。


    「奥沢さん、電話来てるぞ」

    「え? ああー……、大丈夫、後で掛け直すから」


     どうやら電話らしい。市ヶ谷副会長の指摘に気まずそうに苦笑いをした奥沢会長が、首を振って書類作業を再開した。やがてバイブ音が止まって、また静寂が訪れる。
     暫くして、またバイブ音。今度は違うスマホからだった。


    「あ、今度は私の方に掛かってきたけど」

    「出なくていいよ、市ヶ谷さん」

    「もしもし。……はい、今大丈夫です」

    「市ヶ谷さん」


     奥沢会長の懇願するような言葉を無視して、市ヶ谷副会長が電話に出る。つい気になって、書類越しに様子を覗き込んで聞き耳を立ててしまう。

     じっとりした視線で睨みつけるように何かを牽制する会長だが、副会長には伝わっていない。いや、たぶん気付いてる上で無視しているのかもしれない。


    「はい、奥沢さんならここに居ますよ」

    「市ヶ谷さん!!」


     要は、奥沢会長に用がある誰かが電話を掛けたものの、会長が出ないから市ヶ谷副会長に掛けた、ということらしい。
     副会長が敬語を使っているから、弦巻先輩や北沢先輩では無いのだろう。そもそもあの人たちは、電話するより先に生徒会室に突撃してきそうだから。


    「ほら、薫さんから。出てやれよ」

    「…………、」


     副会長が通話中の画面が表示されたスマホを差し出せば、奥沢会長の顔が拗ねたように強張った。ちらり、と私たちの方へ一瞬目をやった後、渋々といった様子でスマホを受け取った。
     電話の相手はどうやら“薫さん”というらしい。聞いたことがあるかもと記憶を辿ってすぐに合点がいった。奥沢会長が所属するバンドのギターの人だったはず。この学校で“ハロー、ハッピーワールド!”は有名だ。まあ、色々な意味で。


    「もしもし、電話代わりました。……え、いや、だから仕事中なんだってば、生徒会の」


     溜息混じりの呆れたような口調だが、その声音はいつもよりちょっと高い気がした。
     

    「……うん、……ええ? いや、いつもの公園とかでいいって……」


     駄々を捏ねるような声色と、眉を下げながら少しだけ染まった頬。生徒会室では聞いたことない声。見たことのない顔。
     静かな空間では、通話画面越しに相手の声がなんとなく聞こえてきてはいるけれど、流石に何を喋っているかまでは分からない。


    「いやほんとに、薫さん目立つんだから絶対学校に来ないで。あたしももう少ししたら行くから」


     私たちに対しては絶対に向けないような少し冷たい口調で言い放った奥沢会長が、電話を切ってスマホを市ヶ谷副会長に返した。
     ごめん、と一言謝った奥沢会長が再び書類仕事に戻る。市ヶ谷副会長は会長の方をちらりと見ると、渡されたスマホをぽちぽちと何やら弄ってから仕事に戻った。

     再び数分の沈黙が流れた後、不意に市ヶ谷副会長が口を開く。


    「この後、薫さんと会うの?」

    「あー……、うん。なんか急に儚いメロディを思いついたんだってさ」


     呆れたように笑って肩を竦める。バンドやバンドメンバーのことを話す時の奥沢会長は、嬉しそうで、楽しそうで、バンドが好きな気持ちが伝わってくる。
     ……本人は、あんまり顔や声色に出してる自覚は無いかもしれないけど。

     やがて積み重なった書類が半分くらいになった頃。今日はこの辺で終わりにしようと、副会長が切り出す。
     

    「奥沢さん、最近生徒会の仕事頑張ってくれてただろ。片付けは私たちに任せて先帰れよ」


     副会長の提案に、私たちも頷いた。会長は私たちよりも早く仕事に取り掛かっているし、私たちよりも遅くまで残って仕事をしている。
     本人だって部活やバンド活動があるのに、「早く仕事に慣れたいから」と、率先して生徒会の仕事に取り組んでいる。それはもう、頑張りすぎてるくらいに。


    「いやでも、みんなを置いて生徒会長が先に帰るっていうのは、ちょっと……」


     ただ、会長の返答は煮え切らないものだった。まあ、そんな真面目な会長が大人しく帰るわけないか。
     もう少し私たちのこと、頼ってくれてもいいのにな。なんていうか、器用なんだけど不器用な人だなと思う。


    「じゃあ言い方変える。顔色あんまり良くないから早く帰りなよ、迎え頼んだから」

    「え!? ちょ、迎えって……、!?」


     市ヶ谷副会長に言われてみれば、最近の会長の顔色はちょっと蒼いようにも見える気がする。よく見れば目の下に隈もあった。……あんまりじろじろ顔を見るのも良くないので、書類に視線を落とす。
     そのタイミングで、また奥沢会長のスマホが震える。はっとしたような顔で慌ててスマホを取った会長が、今度は通話開始をタップした。


    「もしもし、薫さん!? 今どこに……、……え!?」


     生徒会室の窓に駆け寄り外を覗き込んだ会長が、分かりやすく動揺している。


    「あーもう、分かった、行く、行くから! それ以上目立たないでくださいね!」


     そう言い捨てて通話を切った会長が、恨めしげな顔で副会長を見た。


    「おー、早いな到着」

    「……呼んだの市ヶ谷さんでしょ。迎えって……、」

    「だって薫さんも心配してたぞ。最近忙しそうにしてるけど様子はどうかって」


     悪びれない様子の副会長に、会長は溜息を吐いてから申し訳なさそうに眉を下げた。


    「……ごめん、やっぱり薫さん回収して帰る。今日はお言葉に甘えていいかな」

    「おー、もちろん。しっかり休めよ」

    「うん、ありがと」


     そう言って荷物をまとめて、慌ただしく生徒会室から出て行った。じゃあ片付けよう、という副会長の号令で全員が動き出す。
     書類をファイルに入れながら、私は窓の外を覗き見た。ここから見える校門に、何故か人集りが出来ている。その中心にいるのは紫色の髪の、背の高い女の人。私服姿だったので、そうか、大学生だったっけ。と会長が以前話していたことを思い出した。

     そこへ、奥沢会長が小走りでやって来た。背の高い彼女が手を振ると、周りに居た生徒たちが会長に道を譲るように動く。
     会長が背の高い彼女の背中を押して、早々に立ち去ろうとする。背の高い彼女は人集りへ優雅に手を振ると、会長の頭にぽんと手を置いて撫でるような仕草をした。会長が即座にその手を振り払うのが見える。


    (あれ、なんだろ、この気持ち)


     奥沢会長は、当然だけど私より年上で、先輩で。まだ生徒会長としては頼りないところはあるけれど、誰よりも誠実で、優しくて。先輩としてはとても頼りになる人だ。
     ただきっと、今あそこに居るのは“生徒会長”ではない奥沢会長なのだろう。でも、バンドメンバーだからって言うには……弦巻先輩や北沢先輩と居る時とも、また何か雰囲気が違うような気がした。ただ、その違和感が何かは分からない。


    「片付け終わった?」

    「あ、す、すみません! もう終わります……!」


     そんなことを考えてたら、後ろから話しかけてきた副会長に素っ頓狂な声で返事をしてしまった。慌てて開きっぱなしのファイルを閉じる。
     やばい、外見てたのバレた。不思議そうな顔をした副会長が私の隣に来て外を見て、並んで一緒に歩き出した会長と背の高い彼女に気付く。


    「あー……、」


     そんな、何か含みのある声で肩を竦めた副会長が、呆れたような困ったような、そんな笑みを浮かべて私の方を見た。首を傾げる私に、副会長がやや言いづらそうに、


    「……奥沢さんは、やめといた方がいいと思うよ」

    「えっ、あっ!? な、何がですか!?」


     そんなことを言うものだから、私はひっくり返った声でファイルを床に落っことした。
     顔がなんだか熱いのは何故なんだろう。私も存外、分かりやすいのかもしれない。
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