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    ▶︎古井◀︎

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    ▶︎古井◀︎

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    ファ通準拠(?)の初期チェモのはなし

    #初期チェズモク
    earlyChessmoke

     雨に打たれたアスファルトに赤い靄が広がった。踏みつけにされた節々が痛み、げほ、と吐き出した咳には、僅かに血が混じっていた。蹴り飛ばされた拍子に口内のどこかが切れたのだろう。モクマが歯を噛み締めると、鉄錆の味がじんわりと舌に広がっていった。頬が冷たい。水浸しの地面に転がされたせいで、雨水が服にしみこんで気持ちが悪かった。
     今宵は、ナデシコから割り振られた、とある「おつかい」――裏社会との繋がりがある某企業への潜入調査の日だった。途中あったトラブルもどうにか片付けて与えられた任務も終え、簡易的な報告も済ませてあとは帰るだけ、といったところだった。「話があります」そういって連れ込まれた繁華街の路地裏にモクマは今、這いつくばっていた。
    「いつまで狸寝入りをして過ごすおつもりで?」
     上等の革靴が、地に伏したモクマの顔を強引に起こす。下品な後光めいてチェズレイを照らしている極彩色のネオン管が、彼の濡れた髪を爛々と輝かせていた。その逆光のせいで、平静を模して見せる表情はひどく読み難い。けれど、その声色から憤怒だけは明確に感じることができた。
    「起きてください。まだ終わっちゃいない」
    「……ああ」
     立ち上がればまた蹴られると、打ち据えられると分かっていて、それでものろのろと身体を起こす。そういえば、眼鏡はどこにいったのだろうか。無意識に鼻筋に指を伸ばし、軽くなっていたそれに気付く。
     視線だけで、左右を見渡すと、チェズレイの遥か後方にそれは転がっていた。遠目にみても蹴り飛ばされてしまった眼鏡は右のリムが外れ、全体的にひしゃげていた。拾ってもう一度使うのは無理そうだった。
    「他所事ですか? 余裕ですねェ」
     髪をわし掴まれ、無理やりに上を向かされる。微かな痛みに眉を顰めると、その瞬間だけ、チェズレイの薄い唇は満足そうに吊り上がった。
    「あなた、本当に不快なんですよ。あれで私を守ったつもりになったんですか? それとも、自分が代わりに死ねたら良いとでも思ったのでしょうか」
     チェズレイが尋問じみて取り沙汰しているのは、先ほどの任務での一件だった。構えているのは下っ端ばかりで大した危険はないと踏んでいたのだが、連携の悪さが裏目に出た。有体に言って、隙を突かれたのだ。
     先頭の途中、体勢を崩して銃口を向けられたチェズレイの前にその身を躍らせ、代わりに撃たれたのだ。敵が所持していたそれが、大した口径数の拳銃でないことは分かっていた。モクマの潜入服には防弾加工も備えられている。故に、さしたるダメージにはならないと予測できたし、その隙にチェズレイがうまく反撃してくれたら御の字だと考えたのだ。
    「今度はだんまりですか? とんだ自己満足だ」
     憎悪にぎらぎらと燃え盛る紫眼が、険しく歪んだ。髪を掴む手が解かれ、ぐらつく背中を湿ったコンクリートの壁に押し付けられる。縫うように掴まれた両手首が、軋むほど強く握り込まれた。感謝されるとは思っていなかったが、これほどまでに怒りの呼び水になるとも考えていなかった。
    「……なにも、言い返す言葉はない」
     だから、好きなだけ殴ればいい。罵倒すればいい。愛する父親を俺に奪われたお前にはそうする権利がある。己の内に絶えず浮かんでいるその感情が、贖罪なのか自罰なのかもわからないまま、それでもモクマは、己の身を差し出す以外の選択肢を見つけられなかった。
    「その態度が不愉快だと言っているんです」
     怒気に震えた声が、冷たい路地裏に暗く染みつくようだった。手首に、爪の先が食い込む。皮がめくれて血がにじんだ。けれど、モクマは青年の手を振り払うことはしない。できなかった。
    「あなたは……結局、父を通してしか私を見ていない。父親を殺されたかわいそうな私。それだけだ。あなたを憎んで痛めつけて、殺そうとしているのは私なのに」
     左手を掴んでいた手が、モクマの顎を掬う。疑問に思う暇もなく、親指が下唇を強引に割り開き、その隙間にチェズレイの舌がねじ込まれた。驚愕と押し寄せる罪悪感にモクマは目を見開く。身体を捩り、初めて抵抗らしい抵抗をした。けれど、彼の細い身体の一体どこにそんな膂力があったのか、縫い留められた身体はびくともしない。ぬるついた舌が絡み、上顎を撫でた。ぞわぞわと背筋が粟立つ。いつの間にか腰を抱かれ、口付けは一層深くなっていく。逃げられない。捕食のようだと、普段は自分を責めるばかりの声が呟く。己の口から漏れる淡い嬌声を、冷静な思考の一部が他人事のように聞いていた。
     どれほどそうされていたのか分からない。際限なく舌を吸われ、唾液を流し込まれ、情愛と呼ぶにはひどく一方的な暴力を浴びせられた。酸欠でぐらつく口を漸く離され、モクマは青年の身体を力無く押しのける。
    「お前、何して――」
    「あなたから見て、私はどこが父に似ていますか?」
    「はあ?」
     言っていることが滅茶苦茶だった。青年はべたつく口元をシャツの袖で乱雑に拭う。鋭さを取り戻した瞳は、青年の問いもあって、死した相棒の姿を嫌でも想起させた。何よりも真っ直ぐで気高かった、宝石めいた輝き。
    「……似てるよ、どこもかしこも。そっくりだ」
     射貫くような眼差しに急かされ、観念したように答えを返す。そう、似ているのだ。相棒と、その息子たる彼は。だから、罪の意識はより強く澱じみて重なり、あるいはあの日のやり直しをしているかのような錯覚を覚えてしまう。
     モクマの懺悔にも似た言葉を最後に、二人の間に、重苦しい沈黙が落ちる。しとしとと降り続く小雨と、離れた通りの喧騒だけが鼓膜を揺らす。わずかな身動ぎで跳ねた水たまりは、モクマの服や靴をじっとりと重く濡らしていく。同じように、チェズレイの上等に仕立てられたスーツも、雨粒を吸って余す所なく黒く色を変えた。
    「……私はあなたのことが嫌いだ」
     沈黙を先に破ったのは、チェズレイだった。
    「あなたは父を殺し、私の幸福を壊した。なのに――血筋とは悍ましいものです。胸を満たす憎しみと同じくらい、私はあなたに惹かれている。誘蛾灯のように」
     青年の美しい声が告げる言葉の意味を、モクマはスンの間、理解できなかった。罪業を詳らかにされる覚悟ばかりしていたモクマは、予想だにしていなかった青年の言葉に愕然とする。
     その言葉が紡がれた瞬間だけは、チェズレイの感情からすっぽりと憎悪が抜け落ちていた。痛みに耐えるような、迷子のような表情。あるいは、雨のせいか泣いているようにも。
    「わかりますか。あなたが憎らしくて仕方ないのに、同時に渇望してもいる。耐えがたいほどに」
    「チェズレイ、それは――」
     未知の感情を発露して見せるチェズレイに、モクマは静かに息を吐く。お前のそれは、憎しみから生まれた執着心だろう。俺が……かつての俺たちが持ってしまった「間違いの感情」なんかじゃない。そう告げようとした。けれど、聡明な青年はいつだって、モクマが告げようとした言葉の先回りをする。
    「間違っても、勘違いなどと勝手に決めつけないでください。そんなことをされたら、この指先は即座にあなたを縊り殺してしまう」
     思い出したように憎しみを再び宿らせたアメジストが、月明かりの下でぎらりと光った。力無く首筋に添えられた長い指に、ぞくりと身体が震える。
    「ねえ、ひとつ賭けをしましょうよ。モクマさん」
     耳元に寄せられた唇が囁く。
    「あなたを深く憎んで、また愛しかけている私が、どちらを選ぶか。あなたを許せずに殺せばあなたが勝ち。そしてもしこの感情が愛に転んだら、その時は――」
     悪魔の契約だ。あるいは、これが与えられた罰なのだろうか。これまで見たことのない顔で歪み微笑む青年が、空いた右手で強引に小指を絡め取る。
    「あなたも、父ではなく私を愛してください」
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。敵アジトに乗り込む当夜の話。■愛は勝つ


     とある国に拠点を移したチェズレイとモクマ。敵アジトを見つけ、いよいよ今夜乗り込むこととなった。「ちょっと様子見てくるわ」と言い置いて、忍者装束のモクマは路地裏で漆喰の白い壁の上に軽く飛び乗ると、そのまま音もなく闇に消えていった。
     そして三分ほどが経った頃、その場でタブレットを操作していたチェズレイが顔を上げる。影が目の前に舞い降りた。
    「どうでした?」
    「警備は手薄。入り口のところにライフルを持った見張りが二人いるだけ」
    「そうですか」
     ふむ、とチェズレイは思案する顔になる。
    「内部も調べ通りなら楽々敵の首魁まで行けるはずだよ」
     振り返って笑う顔がひきつる。その太腿に、白刃がいきなり突き立てられたのだから。
    「なッ……」
    「それじゃあ、今日のところはあなたを仕留めて後日出直しましょう」
     チェズレイは冷ややかな声で告げると、突き立てた仕込み杖で傷を抉った。
    「ぐっ……なぜ分かった……!?」
    「仮面の詐欺師である私を欺くなんて百年早いんですよ」
     それ以上の言葉は聞きたくないとばかりに、チェズレイは偽者の顎を下から蹴り上げて気絶させた。はあ、と息を吐く。
    「モクマ 820

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。嫉妬するチェズ。■わたしの一番星


     二人の住むセーフハウスにはグランドピアノが置かれた部屋がある。今日もチェズレイが一曲弾き終わって、黙って傍の椅子でそれを聴いていたモクマは拍手をした。応えるように立ち上がって軽く一礼する。
    「ところでモクマさん。あなたも弾いてみませんか?」
    「えっ、俺?」
     驚いたように自分を指差すモクマを、ピアノ前の椅子に座るよう促す。困ったな、なんて言いながら満更でもなさそうだ。そんな様子に少し期待してしまう。
     モクマは確かめるように、両手の指を鍵盤にそっと乗せる。そうして指先で鍵盤をゆっくり押し下げて弾き始めた。
     ――きらきら星だ。
     多少調子外れながらも、鍵盤を間違えずに一分弱の曲を弾いてみせた。
    「――はい。おじさんのピアノの十八番でした」
     仕向けておいてなんだが、チェズレイは正直驚いていた。きっと片手を使って弾くのがやっとだろうと思っていたから。それと同時に、興味が湧いた。
    「どこで、覚えたんですか」
    「あーね。おじさん二十年くらいあちこち放浪してたでしょ? いつだったかバーで雑用の仕事してる時に、そこでピアノ弾いてたお姉さんに教えてもらったの」
     若い頃のモ 871

    高間晴

    DONEモさんの好きな場所「海と雪原」を踏まえて、チェズモクが雪原の夜明けを見に行く話。
    巷で流行りの「おじさんが〇〇だった頃の話」構文が使いたかった。
    ■夜明けを見に行こう


     とある冬の夜更けに、二人で温かいカフェオレが飲みたいと意気投合した。ベッドから二人抜け出すと、寝間着のままでキッチンの明かりをつける。
    「……そういえば、前にあなた『ヴィンウェイにいたことがある』というようなことを言っていましたよね」
     コーヒーを淹れながらチェズレイが訊ねた。モクマはコンロから温め終えた牛乳の小鍋を下ろしながら「えー、そうだっけ?」と答え、火を止める。チェズレイはおそろいのマグカップにコーヒーを注ぎ分け、差し出される温かい牛乳の鍋を受け取る。その表面に膜が張っていないのは、二人で暮らすようになってからモクマが気をつけ始めたおかげ。モクマひとりで飲む分には膜が張っていても気にしないが、神経質なチェズレイはそれを嫌うためだ。
     チェズレイはモクマの記憶の引き出しを開けようと、言葉を続ける。
    「ほら、ここで暮らしはじめて間もない頃ですよ。ボスにヴィンウェイ名物を送るためにスーパーに行った日」
    「……んー? ……あ! あの燻製サーモンとナッツ送った、あの時の」
    「そうそう、その時です」
     チェズレイは鍋からコーヒーの入ったマグカップに牛乳を注ぎ、黄 3173

    高間晴

    DONEタイトル通りのチェズモク。■愛してる、って言って。


     チェズレイはモクマとともに世界征服という夢を追いはじめた。そのうちにチェズレイの恋はモクマに愛として受け入れられ、相棒兼恋人同士となった。
     あのひとの作った料理ならおにぎりだって食べられるし、キスをするのも全く苦ではないどころか、そのたびに愛おしさが増してたまらなくなってくる。ただ、それ以上の関係にはまだ至っていない。
     今日もリビングのソファに座ってタブレットで簡単な仕事をしていた時に、カフェオレを淹れてくれたので嬉しくなった。濁りも味だと教えてくれたのはこのひとで、チェズレイはそれまで好んでいたブラックのコーヒーよりもすっかりカフェオレが好きになってしまっていた。愛しい気持ちが抑えられなくて、思わずその唇を奪ってしまう。顔を離すと、少し驚いた様子のモクマの顔があった。
    「愛しています、モクマさん」
     そう告げると、モクマはへらっと笑う。
    「ありがとね。チェズレイ」
     そう言って踵を返すモクマの背を視線で追う。
     このひとは、未だに「好きだよ」だとか「愛してるよ」なんて言葉を言ってくれたことがない。キスも自分からしてくれたことがない。まあ二十年もの間 2609

    ▶︎古井◀︎

    DONE #チェズモクワンドロワンライ
    お題「三つ編み/好奇心」
    三つ編みチェとおめかしモさんの仲良しチェズモク遊園地デートのはなし
    「チェズレイさんや」
    「なんでしょうかモクマさん」
     がたん、がたん。二人が並んで座っている客車が荒っぽくレールの上を稼働してゆく音が天空に響く。いつもより幾分も近付いた空は、雲一つなくいっそ憎らしいほど綺麗に晴れ渡っていた。
    「確かにデートしよって言われたけどさあ」
    「ええ。快諾してくださりありがとうございます」
     がたん。二人の呑気な会話を余所に、車体がひときわ大きく唸って上昇を止めた。ついに頂上にたどり着いてしまったのだ。モクマは、視点上は途切れてしまったレールのこれから向かう先を思って、ごくりと無意識に生唾を飲み込んだ。そして数秒の停止ののち、ゆっくりと、車体が傾き始める。
    「これは――ちょっと、聞いてなかったッ、なああああああっ!?」
     次の瞬間に訪れたのは、ジェットコースター特有のほぼ垂直落下による浮遊感と、それに伴う胃の腑が返りそうな衝撃だった。真っすぐ伸びているレールが見えていてなお、このまま地面に激突するのでは、と考えてしまうほどの勢いで車体は真っ逆さまに落ちていく。情けなく開いたままの口には、ごうごうと音を立てる暴力的な風が無遠慮に流れ込んできた。
     重力に引かれて 3823

    ▶︎古井◀︎

    DONE春の陽気に大洗濯をするチェズモクのはなし
    お題は「幸せな二人」でした!
    「そろそろカーテンを洗って取り替えたいのですが」
     朝。さわやかな陽光が差し込むキッチンで、モクマはかぶりつこうとしたエッグトーストを傾けたまま、相棒の言葉に動きを止めた。
     パンの上で仲良く重なっていた目玉焼きとベーコンが、傾いたままで不均等にかかった重力に負けてずり落ちて、ぺしゃりと皿に落下する。
    「モクマさァん……」
     対面に座っていたチェズレイが、コーヒーカップを片手に、じっとりとした眼差しだけでモクマの行儀の悪さを咎めた。ごめんて。わざとじゃないんだって。
     普段、チェズレイは共用物の洗濯をほとんど一手に担っていた。彼が言い出しそうな頃合いを見計らっては、毎回モクマも参加表明してみるのだが、そのたびに「結構です」の意をたっぷり含んだ極上の笑みだけを返され、すごすごと引き下がってきたのだった。しかし今回は、珍しくもチェズレイ自ら、モクマに話題を振ってきている。
    「それって、お誘いってことでいいの?」
     落下した哀れなベーコンエッグをトーストに乗せなおしてやりながら、モクマは問う。相棒が求めるほどのマメさや几帳面さがないだけで、本来モクマは家事が嫌いではないのだ。
    「ええ。流石に 3560

    FUMIxTxxxH

    DONEknot for two.

    ED後、チェズレイの手の話です。
    お手て繋いでイチャイチャしてるだけ。
     夕食の香草焼きが美味かった。サラダのドレッシングはモクマが作ったが、こちらも会心の出来だった。チェズレイも気に入ってくれたらしい。
     どこまでもマナーの行き届いた彼が最後までひとくち分残しておくのは、食べ終わってしまうのを惜しむ気持ちの表れだと、今のモクマは知っている。たぶんもう、今のこの世でモクマだけが知っている。


     片付けを済ませると、どちらからともなくリビングのソファに並んで腰を下ろした。テレビも点けず穏やかな静けさを共有する。
     二人では居るが、特に交歓に耽るでもなくただ二人で居る。それが心地好い関係に落ち着ける日がくるなんて、かつては思いもしなかった。決して楽しいばかりではなかった二人の馴れ初めを手繰れどただただ小気味良いばかりだ。
     モクマは晩酌に徳利一本と猪口を持ち込み、チェズレイはタブレットで何やら悪巧みを捏ね回している。しかしお互いに片手間だ。何故なら、ふたりの隣り合った手と手は繋がれているから。チェズレイが求め、モクマが応えた。逆の日もある。時折ふたりの間に発生する、まるで幼い恋人同士のような戯れ。
     ……そんな片手間に、モクマはぼんやりと宙を仰いだ。まだ一杯 4701