譲介くんの素敵なバレンタイン道路脇のベンチに背中を預けて、和久井譲介は息を吐いた。
視線を上げると、爽やかな水色の空を形どるように地面から生える数多の背の高いビル陣。夜勤明けの目に沁みる鮮やかな景色である。
道ゆく人々から聞こえる話声は異国の言語で、大通りを走る車やバイクも母国とは違う勢いがある。
アメリカに住んで半年ほど、驚くことも大分減ったが、少し気を抜くと『ここはロサンゼルス。初めて住む異国の街』という、渡米したての頃の感覚が五感を介して蘇る。
「ンッ」
固く縮こまった肩をほぐすべく、譲介は長い手足を空へ向け、身体を伸ばした。
昨晩から今朝にかけて、長時間の手術があった。緊急性も難易度も高い症例で、気を張る仕事だった。手術自体は明け方には終わったが、術後管理等々している間に昼近い時間になり、退勤時間になった。
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