Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    蜂須賀

    いろいろ置いてます

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 32

    蜂須賀

    ☆quiet follow

    ちょっと不思議話の1篇
    弐之助さん主催のアンソロジー『幻想奇譚蒐集録』より再掲です

    紡ぎ繭 夢を見ている、はっきりとそう知覚していた。
    指先には荒い糸の触覚がある。それは眼前のあたたかい闇から仄かに光を帯びて現れ、手繰り寄せると掌に垂れてあったものは背後の闇へと沈んでいく。先も終わりも知れぬその糸の手触りを、ただ確かめるように前から後ろへと送った。
    それには時折絡まった結び目のような瘤があり、また、強く扱けばハラと解けてしまいそうな頼りない部分もあった。そこにきては前後を寄せて強く撚り合わせる。するとそこは清潔でない自分の手垢で薄汚れ歪な塊となった。それでももう千切れぬと安堵すると、また後ろへ送る。

    幾時間、もしかすると幾日、そうしていたかしれない。指先が痺れを感じてもなお、糸を送り続けた。
    ふと気づくと、目の前に捧げるようにして揃えられた両手が現れた。その人差し指に透明の雫がプクと現れたとみると、そこからスルスルと糸が出てきた。目を凝らす。指先に開いたちいさな肉の穴の、不規則な収縮に合わせてか細い糸は生み出されている。
    糸吐く蚕の口はこんなだろうか。糸は水分を帯びてヌラと光り、巻きつくところを探す朝顔の弦のよう空を這っている。誘うように指を伸ばしてやると、それはスルリと巻き付いて、掌にある糸に身を寄せた。
    二本の糸を撚り合わせてまた後ろに送る。その湿り気は少し、指先の仕草をなめらかにさせた。糸生む両手は呼吸するように揺れ、眺めていると瞼は重くなってゆく。意識が薄らいで、自分はもう覚醒するのだと悟る。

    目を開けた時、同じ繭に眠るひとのかたちは、隣にあるだろうか。




                            了
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    蜂須賀

    DOODLEちょっと不思議話、1篇。
    弐之助さん主催のアンソロジー『幻想奇譚蒐集録』より再掲
     二次元、映す面、その輪郭 三綴りその朝は頭痛と上がってくる胃酸の不快感で不機嫌に髭をあたっていた。電動は好かないから毎朝カミソリを使っている。
    目覚めたのは居間の床だった。カーテンを閉める習慣を忘れて久しい窓から射す朝日が、目の前のアルミ缶から零れた液体と、緑の瓶に当たり煌めいていた。まるで他人事のようにそれをぼんやり眺めるが、数時間前の自分と今の自分が繋がっていないわけはない。浴びるように飲むアルコールはやがて循環代謝され頻繁に通うトイレで体外に排出されるものが、飲酒したという自己嫌悪だけはそうはいかず、体内に溜まり続けた。肉体を管として、なにもかもがただ通り過ぎればよいものを。
     うつろな顔と荒れた肌を見たくなくてカミソリを当てる部分だけに視線を集中する。それから目を閉じて指先の感覚で顎のラインと三日分の伸び丈を探る。ふと、かすかなカビの匂いがした。のろのろと手を動かしながらぼんやりと思う。雨? いや、ついさっき陽の眩しさで目が覚めたのだ、そんな予報だったか。天気などに関心を向ける生活でもないが、けれど時折見上げる空の色を無意識に読む癖程度は残っていた。
    5207

    recommended works