紡ぎ繭 夢を見ている、はっきりとそう知覚していた。
指先には荒い糸の触覚がある。それは眼前のあたたかい闇から仄かに光を帯びて現れ、手繰り寄せると掌に垂れてあったものは背後の闇へと沈んでいく。先も終わりも知れぬその糸の手触りを、ただ確かめるように前から後ろへと送った。
それには時折絡まった結び目のような瘤があり、また、強く扱けばハラと解けてしまいそうな頼りない部分もあった。そこにきては前後を寄せて強く撚り合わせる。するとそこは清潔でない自分の手垢で薄汚れ歪な塊となった。それでももう千切れぬと安堵すると、また後ろへ送る。
幾時間、もしかすると幾日、そうしていたかしれない。指先が痺れを感じてもなお、糸を送り続けた。
ふと気づくと、目の前に捧げるようにして揃えられた両手が現れた。その人差し指に透明の雫がプクと現れたとみると、そこからスルスルと糸が出てきた。目を凝らす。指先に開いたちいさな肉の穴の、不規則な収縮に合わせてか細い糸は生み出されている。
糸吐く蚕の口はこんなだろうか。糸は水分を帯びてヌラと光り、巻きつくところを探す朝顔の弦のよう空を這っている。誘うように指を伸ばしてやると、それはスルリと巻き付いて、掌にある糸に身を寄せた。
二本の糸を撚り合わせてまた後ろに送る。その湿り気は少し、指先の仕草をなめらかにさせた。糸生む両手は呼吸するように揺れ、眺めていると瞼は重くなってゆく。意識が薄らいで、自分はもう覚醒するのだと悟る。
目を開けた時、同じ繭に眠るひとのかたちは、隣にあるだろうか。
了