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    #ネオロマ失恋夢企画
    企画への寄稿です〜

    遙か3

     同じ小学校から中学、地元の高校と上がって彼等の仲を知らない生徒なんて、恐らく存在しない。
     一年間同じ学校に通った者ですら、余程他人に興味がないか、はたまたそういった話題を意図的に避ける性格でなければ、彼等───有川将臣と春日望美の二人が恋愛漫画の主人公達のような幼馴染であることは程度の差はあれど公然の事実として知っている。

     そんな二人であるから、やはり恋愛漫画のごとく、高校生活ももう残り少なくなってきたというの仲の良い幼馴染からカップルにシフトチェンジする気配はない。
     とはいえ、何がきっかけでいつ付き合い出すか時間の問題で、一部の男子生徒の間では学校行事の度に「今回こそ付き合い出すだろう」と昼飯の賭けにされるぐらい、間に入ろうものなら馬に蹴られて死んでしまうと揶揄されていた。
     もしも入れるとしたら、これも一部では有名な話の、有川将臣の弟の譲の方が、学年差と兄の存在を超えた時くらいのものではなかろうか。
     だがしかし。
     ビジュアルもさることながら性格も良いと地域で評判の三人だ。
     当然、三人の関係を知らない者からは横恋慕されることもあるし、玉砕覚悟で告白を受けることもあるらしい。

     かく言う自分も、あの明るくて笑顔が眩しくて、誰に対しても分け隔てなく接してくれて、ちょっと日本史と家庭科が苦手だと噂の『春日望美』に恋をしてしまった。
     馬鹿だとは思う。
     もしも友達に相談なんてしたら、「絶対やめとけ」と言われるに決まってる。
     無理ゲーなのは自分だって知ってる。
     でも好きになってしまったのだ。
     短い青春を棒に振っても他の子を好きになることが出来ないくらい、徐々に想いが膨らんでしまった。

     キッカケは中学に上がってすぐの、些細なことだった。
     何が原因か知らないが、たまたま泣いているところを見てしまっただけだった。
     声を掛ける勇気もなくて見ていたら、こちらに気付いて涙を拭って「内緒にしてね」と笑っていたから。
     それだけで、最初は苦手なぐらい明るくて前向きな女の子だったのに、「辛いことも悩むこともある普通の女子なんだ」と思ってしまったから。それ以来目で追うようになってしまって好きになってしまった。
     初めから終わっている恋なのは分かっている。だけど付き合っていないならまだチャンスはあるかもしれないとか、もしかして、万が一にも、自分の方が実は彼女の好みかもしれない可能性を捨てきれずにズルズルと告白もせずに誰にも言わずひっそりと五年ぐらい片思いし続けている。
     少しでもいい印象を持たれるように、陰キャの自分が髪型を整えてみたり明るめの声を出して毎朝おはようと挨拶を心がけたり、苦手な体育でもせめて持久走くらい根性出そうと走ってみたりとかいう努力を知って振り向いてくれる可能性は、多分ゼロじゃない。
     きっと一学年下の有川譲も、こんな気持ちで見つめているに違いない。
     兄に用事があるフリをして春日さんを見るために教室に来る有川弟が同志でありライバルであることにちゃんと気付いているのだ、自分は。
     ………………。
     ……絶対に本気を出さないでそのまま弟には想いを秘め続けていて欲しいところだけど。


     と、そんな日常が続いたまま卒業まで行くのだろうかと思っていたのだが。
     ついに変化する時が来たようだ。
     決心したのだ。
     春日さんに告白しようと。

     ───なーんて、そんなはずもなく。

     春日さんに彼氏が出来たらしいと、クラスの女子が話していたのだ。

     相手は有川将臣か!?弟の方か!?と目の前が真っ暗になりつつも、まだ噂だ、とバクバクする心臓を抑えながら、「それホント?」と噂好きの友人を引き連れて、委員会の仕事とかくらいでしか関わったことのない女子に話しかける。
     一瞬驚かれたが怯まない。
     一人じゃないから別に女子に話しかけてもヘーキだし。別に緊張とかちょっとしかしてないし。

    「マジだよ!先週の土曜日に手繋いで小町通り歩いてるの見たもん!」
     幼馴染だろ、手ぐらい繋ぐかもしれない。だって一緒に買い物行ったら人混みではぐれるかもしれんだろ休みの小町通りは。
    「もーラブラブって感じで、すげービビったよねアタシも。ちょっと前まで友達といる方が楽しいみたいにしてたのにいきなり何で!?って感じ!」
    「マ!?望美が〜?見間違いじゃね?」
    「いや絶対望美だから!聞いてみようよ!って、望美いねーわ」
     ぐるりと教室を見回して春日さんがいないことに、ホッとした気持ちが半分と、死刑宣告がのびたような気持ちが半分。
     と、そこに

    「あ、有川くん戻ってきたじゃん!」

     自販機で買ったらしいコーヒーを飲みながら戻ってきた有川の姿に心臓がギュッと雑巾絞りされたような錯覚を覚えた。
     いやマジか、お前なんかい。戻ってくんな。春日さんから聞くよりお前から聞きたくないやめろ惚気けたらぶっ飛ば……すことは出来ないけどホントやめてください。お願いします。

     そう祈る自分の顔は多分蒼白だったと思う。喉カラカラする。
     お前、お前のコーヒー寄越せコノヤロウ。

    「ねぇ望美のことなんだけど───」
     しかし自分のそんな気持ちを無視して女子は続ける。
     ヤバい聞きに来るんじゃなかった。
     胃が痛い。
     もう帰ろうかな?

    「土曜日?そういえば出かけてたっけ、あいつら」
     え、有川じゃないの?弟?弟ならワンチャン年下扱いしてただけとかある?

    「その様子なら望美とのデート楽しめてたみたいだな、敦盛のやつ」

    「誰だよアツモリ!?」

     思わず教室に響き渡るくらい叫んでしまった。

     終礼の鐘が響く校門に世紀の美少年が立っていると校内が騒然としたのは、それから三日後の出来事である。
     春日さんがめちゃくちゃ笑顔で駆け寄って、美少年の両手を包み込むように握り締めているのを見て、「アツモリって誰だよォ……」
    と、まさかの第三勢力がいたことに、一人部屋で咽び泣いていたことは、多分この世で自分の母親だけが知っている。
     有川兄弟のどっちかじゃないなんて、聞いてねぇよ……。
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