放浪中、薬を作って売って生活していたデに「媚薬を作って欲しい」と依頼をしてきた貴族の男。同じく貴族の女に飲ませたいという。ヴィータの浅ましさに内心呆れながらも、こういう欲望に正直な奴がいるから旅の資金を賄えているので何も言わないでおくデ。
その貴族の男はデのために小屋を用意しそこに住まわせ、薬を作っている間何かと様子を見にきていた。(監視のため)
そして数日後、媚薬が出来上がり男に渡すと大喜びで、今夜お祝いにディナーをご馳走すると言い出す。本当は早いところ去りたかったが、あまりにも強引に誘うので仕方なく付き合うことにした。
ディナー後、明日朝イチでこの街を出る為支度をしていると男がやってくる。
「そろそろじゃないかと思って」
「ハァ?何がだ」
突然男がデをベッドに押し倒す。
「これだよ、これ」
男が見せつけてきたのは空の瓶。デが媚薬を入れて渡した瓶であった。
「先ほどの君の飲み物に混ぜさせてもらったよ」
「…女に飲ませるのではなかったのか」
「別にいいんだ。元からあの女に薬を盛って発情させてその辺の誰かと既成事実を作らせたかっただけなんだからな。俺はあの女が嫌いで、それなのに勝手に許嫁にされたから、あの女が誰とでも寝るビッチだって噂になれば…許嫁の話もなかったことになると思って、それで君に媚薬を作ってもらった」
「ふん…そういうことか。ずいぶんと自分勝手なことだ」
「どちらにしろ元から自分勝手さ…でも君だってわかってて俺に薬を作ってくれたんだろ?共犯じゃないか」
「それで?どうして俺にその薬を飲ませることになる」
「…君のことが好きになってしまったからだよ」
一瞬驚いた顔をするが、すぐ軽蔑のまなざしに変わるデ
「君と数日一緒に過ごすうちに、君の虜になってしまった。白い肌も、黒い艶やかな髪も、細い体も、サファイヤのような瞳も、妖艶な声も…俺のものにしたい」
するりとデの頬を撫でる男。気持ち悪く肌が粟立つのを感じながらも目線は男から外さない。
「俺と一緒になったら…君の望むものをなんでもあげよう」
「ハァ…おまえに俺の望むものは絶対に用意できん」
「何故だ?君の為なら何でも、どんな手を使っても手に入れるよ…」
「俺の望むものは…この世界の滅びだ」
ほしいものが予想外でたじろぐ男。
「そ、それでももう君は薬の作用で俺とシたくてたまらないはずだ。俺無しじゃいられない体になって…」
「馬鹿が。薬なら飲んでいない」
「!?」
「自分の作った薬だ、混ざっていたら気付くに決まっているだろう。さっさとおさらばするつもりだったからな、適当に飲んだフリをしていただけだ」
ククク…と妖しく笑うデ。
「くそっ、くそっ…なんでもいい、とにかくお前は俺のものだ…!!」
無理やり服を脱がそうとする男のその腕に、デは小さな注射器を刺した。
「ギャッ!!な、何をした…!!?」
「…痺れ薬を注射した。即効性だ…すぐに体が動かなくなる」
デが話しているうちから男の体がどんどん痺れてくる。ついには体重を支えられなくなりデの上に倒れ込む。
「…チッ、重い…邪魔だ」
ドカッと動けない男を足蹴にして転がし、男の下から抜け出す。そして乱された衣服を整えて途中だった支度を再開する。男は唯一動く目玉でデを追っていたが、デは一瞥することもなく、支度を終えると部屋から出て行った。