目が覚めると、そこに賢者様の顔があった。そうか、昨日セックスをしたのだった、と俺はぼんやりと思い出す。すうすうと穏やかに寝息を立てる姿は、いつもより幼く見えた。こんな子どもみたいな人間が俺にあれだけの性欲を抱いていたことを思うと自然と口元が上がる。決して上手くはなかったけれど、一生懸命に抱いてもらえるのはなかなかよかった。
そうやって眺めているうちに、彼のまぶたがうっすらと開いた。
「あれ……? フィガロ?」
まだ寝ぼけているのだろう。目の前に俺がいることに少し驚いた様子がかわいらしかった。
「うん。おはよう、賢者様」
だからにっこり笑ってあいさつしてやると、ぱちりと目が開いた。
「あ、」
曖昧な声が漏れる。徐々に頬が染まっていくのがこの距離ならよく観察できる。照れるかな、と思っていたのに、彼は俺から目を逸らさないまま、じんわりと笑った。眉を下げて、目を細めて、噛み締めるように。
「おはようございます、フィガロ」
優しいのに弾むような声。この子は本当に俺のことが好きなのだ、と改めて突きつけられて、俺は妙に胸があたたかくなるのを感じていた。誠実な人間からまっすぐな気持ちを向けられるのは気分がよかった。まるで、自分がそれにふさわしい存在になったみたいで。
「いつまでもきみとこうしていたいけど、あんまりゆっくりしているとミチルが起こしにきちゃうかも」
「あ、そう、ですよね」
賢者様は改めて赤くなった。バレることを想像しただけで恥ずかしくなってしまったのだろう。かわいらしかったし、優越感と背徳感があった。このみんなに優しい人間が、誰にも言えないようなことを俺としたのだ。快楽に溺れて、愛らしい声を上げて、一心不乱に腰を振って。
「だから今朝はここまでだけど、……これきりじゃないでしょう?」
「……、はい!」
返事がやたらと力強くて、俺は思わず笑ってしまった。賢者様は一瞬拗ねたような顔をして、けれどすぐに一緒に笑い出す。小さな笑い声が二人分部屋に響いて、くすぐったい気持ちになる。
「フィガロ」
少し改まった顔つきと声で、彼が俺の名を呼ぶ。
「改めて、よろしくお願いします」
「うん。よろしくね、賢者様」
この関係性の変化に後悔のない様子なのが素直に喜ばしくて、俺は笑みを深めた。