はたして、そこにいたのはフィガロだった。
(やっぱり)
胸の中でつぶやいてから、俺はそう思った自分に驚く。自覚はなかった。いや、確かにフィガロは掴みどころがなくて、なのに寂しそうな顔をすることがあって、なんだか目が離せないとは思っていたが。そういう意味では間違いなく、気になっている相手なのだが。
突然振り向いたかと思えば何も言わない俺とホワイトにきょとんした顔を向けていたフィガロは、ふいに笑みを浮かべた。
「何です? 俺の話でもしてた?」
問いかける相手を変えながら近づいてくる。なんとなく気まずくて目をそらした俺の隣で、ホワイトが明るく応える。
「まあ、そんな感じかの」
「へえ、気になるな」
明らかに俺に近い位置で立ち止まったフィガロは、ささやくような声を落とした。
「どんな話だったか聞いてもいい?」
「それは、ちょっと」
「ええ? 陰口でも叩いてた?」
「そんな、」
思わず顔を上げた俺は、しまったと思った。思ったより近い位置で目が合う。フィガロが鮮やかに笑う。
「顔が赤いよ。賢者様」
「……、フィガロの顔が近いからじゃないですか?」
「そう? 振り向いた時からわりと赤かったよ」
観念した俺がうつむいてしまうと、あはは、と快活な声が降ってきた。
「なんてね。大丈夫、きみが陰口を叩くなんて思ってないよ。まあ、ホワイト様が話して君は聞くだけだったのかもしれないけど」
「ホワイトも、そんな話はしてません」
「……今のは冗談。きみの誠意を疑ったわけじゃないよ。もちろん、ホワイト様のもね」
「やれやれ。ほどほどにするのじゃぞ」
呆れたように言ったホワイトに、フィガロが目を細める。面白そうな獲物を見つけた猫のように。それをきれいだと思ってしまったのだから、俺はやっぱりフィガロのことが気になっているのだろうと思った。