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    小さなチェズレイの家。ヴ愛トラック13の感想代わり。

    ##BMB

    20220419 家を買った。
     住むのは二人きりだから、小さな家だ。

     その家は、南の国にある。この国とは違って、一年中、白ではなく緑で覆われた、暖かい土地だ。
     この国とは、違えば違うだけいい。この国のことも、この国での辛い出来事も、思い出さないように。

     南の国の小さな家には、海の見える窓がある。空の色を映す絵画のような景色を通して、あなたが時の流れを感じられるように。
     外階段を上がった先、玄関ポーチには、二人掛けのベンチブランコが揺れている。庭の木の葉擦れの音を聞きながら、あなたといつまでもおしゃべりできるように。
     リビングルームには、大きなソファが置いてある。あなたがふとその身を横たえられるように、わたしの身体が大きくなっても、あなたと二人で座れるように。
     寝室のベッドは、枕は、とくべつ質の良いものを選んだ。あなたが、朝までゆっくり休めるように。
     胸の内で渦巻く思いが、あなたが眠りにつくのを妨げないように。
     夜半の悪夢が、あなたを起こさないように。
     朝まで、ずっと。

     ようやくここまできた。
     父の汚れた仕事に手を染めてから、何年もかけて準備してきた。
     父が率いるファミリーを殲滅できる力のある組織を探すこと。彼らに、父に対する恨みを抱かせ、全面的な抗争を引き起こすこと。襲撃の渦中で、ニコルズ親子が命を落としたように見せかけること。偽名の身分証明書を手に入れること。新しい生活の場を用意すること。二人の家を。小さな家を。

     うまくいくはずだ。
     うまくいかなくては。

     ハウスキーパーすら寄り付かなくなった家。いつの間にか薬でいっぱいになったドレッサーの引き出し。荒れ果てて花の咲かなくなった庭。

     もう待てない。
     もう時間がない。


     食事にしましょう、と母が呼ぶ声がする。
     エーコファミリーとベニーデファミリーへ、手筈通りに、と一報を入れて、チェズレイ・ニコルズは席を立った。
     階下からは、母の作るスープの香りがしている。


    BGM: My Sleepy Fall / Take It Easy Hospital
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    mavi

    DOODLEモクチェズ版ワンドロワンライ【キャラブックネタ】【野花】
    先週書き上げられなかった分(【ティータイム】)を合体させたのでワンドロではなくほぼツードロです
    20220508 晩酌がモクマの領分なら、ティータイムはチェズレイの領分。
     申し合わせたわけではないのだけれど、気がつけばそうなっていた。

     いちばん初めのきっかけはなんだっただろうか。
     たしか、チームBONDとしての、ミカグラ島での最後のミッションを終えて、同道の約束を交わして。その約束に差し込んだいくつかの条件、そのひとつ、「時々は晩酌を共に」が初めて実現した翌日のことだった。
     チェズレイは酒を嗜まないので、自然、酒やつまみはモクマが見繕うことになる。そもそも酒を飲んだ経験がほとんどないと言われれば、いっとう美味いものから紹介したいと思うのが人情というものだ。あれやこれやと集めるうちに、テーブルはちょっとしたホテルのミニバーもかくやという賑やかさになってしまった。部屋に通されたチェズレイはそれを見て、ちょっと驚いたように目を見張り、続けて、おやおや、とでも言いたげな揶揄いの目配せをモクマに寄越した。しかし結局何も言わず、自分はこのようなもてなしを受けて当然の人間だという風な、悠々とした動きでモクマの隣に座った。その晩、モクマの、アーロンには及ばずとも常人に比べればうんとよく見える目は、チェズレイの、度々卓上に向けられる目線も、その度に喜びが溢れるようにきゅっと持ち上がる口角も捉えていたけれど、先ほどの沈黙への礼として、それを指摘することはなかった。
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