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    カゲロウさんの、突撃!となりの因習村

    ○○事件、愛弟子日記の下地の話になります
    ハッピーエンドが確定してるなら過去にどんだけ鬱盛っても大丈夫ってブッチーが言ってた


    ※【重要】一部登場人物が可哀想な目にあっています。ウツハン♀世界線の話ですがこの話はあまりウツハン♀してません。作中の里の設定等全ては妄想です【/重要】

    ##それゆけ僕らの因習村

    カムラふるさと老人会活動記録より「この子は私の子だ。相手なんか関係ない。私が産んで、私が育てる」



     …書に曰く、娘の相手など想像に難くないが、がんとして口を割らないその頑なな態度こそが古老たちを怒らせたのだという。
     行き遅れの小娘の分際で、若い衆に祭り上げられたあの男と同様に、何か勘違いしてはいないかと。

     例えばハンターの世界、野生の世界であれば実力主義、そこに男も女もないのかもしれない。だがここはカムラ、禍群れる隠れ里。狩り場の荒野ならば風に煽られ流れ行く淀みも、里に吹き込んだが最後行き場を失くしてただ澱むばかり。
     彼女のそれが許される歴史も風土も、ここには何も育っていなかったのだ。


     結果、頼れるものも居らず行き場を無くした娘は、暗くじめじめとした座敷牢で子を産み落とした。






     カビ臭い書庫の隅でカゲロウは身動いだ。堆積した埃を飛ばさぬよう、長く静かにため息を吐く。いっそ明かり採りの蝋燭をウッカリ倒して蔵ごと一切合切焼却してやろうかとも思う。陰惨な記録に見知った者の名前があるのは些か応えるものだ。だが、こんな記録でも里の者たちにとっては先人たちの生きた証なのだろう。里長がこれらの存在を許している、その事が証左だ。


     …娘のその後はようと知れない。産後に野垂れ死んだのかもしれないし、何処ぞへと逃げおおせたのかも知れない。編纂者の興味が他へ移ったのか、なけなしの良心が今更疼いたのか。残された資料からは伺い知れない。
     ただ里に、親のない子供が残された。母もなく父は知れず、寄る辺のない子供がひとり。彼には戸籍さえ無く、産まれてからどうやって生き延びていたのかは記録からは分からない。書に彼らしき存在があらわれるのは娘の「失踪」から何年も後だ。

     流行り病に効く薬草が足りない。
     肉の備蓄が心もとない。
     砦建設の資材の調達を。
     増えすぎて畑を荒らすブンブジナの駆除を。

     当時の喫緊の命題としてあげられた項目には、解決に当たった主要な人物の名が併記されていたのだが、年が下るごとに同じ名前の頻度が増える。

     ウツシ
     ウツシ
     ウツシ/ウツシ/ウツシ/ウツシ……

     果たしてこの名前の人物はカゲロウの知る彼なのか。現在の年齢から逆算して、とてもじゃないがこなせる仕事量ではないし子供にさせる仕事でもない。
     常々その仕事量から、実はウツシ教官は3人居るのでは、などと民の間で笑い話になっていた。それを受けても曖昧に笑ってばかりのウツシだが、なんのことはない。彼にとっては日常の事だったのだ。
     それを知るものは居るのだろうか。

     里の者を守るため、外部の人間に厄介事を負わせる、それができなければ里の人間とは認めない。長年培われてきた故どこかで歪んだのだろう慣習を、カゲロウは理解できない。「外から来た人間」である彼に理解できるものでも無いと思う。だいたい、何を「外」とするかも曖昧なのだ。里の娘の肚に宿り、里内で産まれた子供すら「外」とするなら、「内」とは権力をもつ者の、その裁量で決まる不確かなものでしかない。

     …フゲンはどうしていたのだろう。この頃には既に里長の地位に着いていた筈だが、どうもこれらの記録からは彼の意志が読み取れない。外様の人間へのこの扱い、義に厚い彼ならば放っておくはずがないというのに。
     今では強い団結力を見せるカムラの里も、ずっと一枚岩というわけではなかったということか?

     だがこれだけは理解できた。ひとつ間違えば自分が、姫みこ様が彼と同じような目に合っていてもおかしくなかったのだと。

     流れ着いたカゲロウが養生を終え、新たな道を歩むため伝手を訪ねて里を離れていた頃。
     護りぬいた姫みこ様が新たな環境や養親にも慣れ健やかに過ごされていた頃。
     この里では、ハンターを志した里長の姪が早くに出奔し、その結果年端も行かない幼い少女が狩人になる事を一方的に定められ、いかめしい名前を与えられ、厳しい修行を修めていた。
     ただ庇護者のいない、里外の生まれの者であったという理由で。
     …恐らく、姫みこ様も、ヨモギ殿も。あのままでは数年のうちに彼女のあとに続いていたに違いない。いやヨモギ殿の見事な弩さばきを思えばそれもアリだったのかもしれないが、強要されるのと自ら選ぶのでは全く違う。
     それが成されなかったのは、指示を出していた古老達がそれどころではなくなるからだ。


     書に曰く、この里では神隠しが頻発していた時期があった。
     犠牲者はゆうに3年間で5人。人口150に届かない小さな集落では無視できない数字だ。何れも齢60を超えた老境のものばかり。過去の百竜夜行を乗り越え里の復興に一躍担った名士だったという。

     記録の編纂者は綴る。「隠された」老人たちは雷狼竜に喰われたのだと。
     そして、次は己の番だと。




    「どうですか、カゲロウさん」
     まるで図ったかのように蔵の扉が開かれた。







     観測拠点エルガドから王都へと辿り着いたカムラの里の文化は、概ね好意的に受け取られたらしい。
     エキゾチックな芸術の花咲くツワモノの里。民は皆屈強な戦士であり、独自の加工技術と仕立てた武器を携え、秘伝のニンジュツで空を駆け、己の肉体でモンスターと渡り合っている……。
     ……まあ当たらずとも遠からずな評ではあるが、そうなると噂が噂を呼び、実際に現地を見てみたい、異国の地を踏んでみたいと望むものも必ず出てくる。
     つまりは観光客である。
     カゲロウはこの度、里長より外つ国向けの観光資源の発掘を任されていた。なにせ50年ぶりに外に扉を開いた里である。何が特殊で何が一般的なのか、何が里外の人間の琴線に触れるのか、てんで分からないのだ。ゴコクの絵画ならともかく、ウツシが手慰みで作ったお面やミノトの習作の絵すら有り難がる外国人。何を見ても珍しいだろうが、出来ることなら外貨を絞り取り……もとい、精一杯饗したいではないか。
     商売柄、他国の文化に明るいカゲロウならば、里に住むものでは気が付かない利点が分かるかもしれないと、今日は里に伝わる蔵の一つを開けてもらった次第である。残念ながら中は昔の記帳が積まれており、有用なものはありそうも無かったが。

    「何か外つ国にウケそうなもの、見つかりました?」
     俺にはそういうの、本当に分からなくて……にこやかに、だが音もなくするりと蔵に入ってくる男。基本動作が気配なく無音なので、声掛けなく近づかれると未だに気付けないのだと彼の弟子が愚痴っていたのを思い出す。

    「ああこの本、懐かしいな」
     ウツシが書棚をひょいと覗き込む。棚に差し込む手にギクリと身を強張らせるカゲロウを気に留めず、隅にあった老竹色の表紙を取った。
    「里長が、俺が教官職についた際によこした書なんですよ」

     糸綴じに製本してあるその表紙には、教官の心得の書、と大書してある。手書きの、拙い…恐らくは子供の字か。
     中身はこれまたはみ出すほどの元気な文字で、狩りの基本は食事と睡眠、命あっての物種、弟子は宝、皆愛弟子と心得よ…云々。
    「当時は大変でしたよ。俺も愛弟子が初めての弟子で、加減が分からなくて。そんなときにフゲン様が、偉大な先達の書だから参考にしろって」
     ギルドの講習では足りなかったところを補ってくれた書であると。
     遠い過去を伺うように目を眇める。あるいは、愛弟子との修行の日々に思いを馳せて。

     虐げられた子供。使い潰される犬。長じた彼は自らの環境を顧みる事はなかったのだろうか。

     それまで大人しく飼われていた雷狼竜が、ある日突然轡を噛み千切り、飼い主に襲い掛かる事は?

     …そんなことは自分の知ったことではないと、カゲロウは頭を振った。

    「ならばその本、王都の方々に公開しても良いかもしれませぬな。英雄を育てしカムラの教官の必携の書として。
     ……ふむ、写本を土産物として出しても良いですな、英雄殿やウツシ殿の署名やらぶろまいどやら付けて……これはろんでいね殿にご相談せねば」
    「うちの愛弟子の顔と名前は使わせませんよ!そこは教官ストップかけますよ!」
     マイドさんといい、油断ならないなあ!
     商売っ気を出した商人ほど恐ろしいものは無いと、うろたえるウツシ。それは残念。しかし、写本を売るのは良いかもしれないと心中に書きつける。
     里の外に広めるのなら、こういったものがいい。

    「さてウツシ殿、それがし少々疲れました。そろそろ休憩を取りたいのですが」
    「そうですね、もう八つ時だ。茶屋でお団子でも?あ、経費で落ちますので」
    「なにヨモギ殿の団子なら、それがし喜んで身銭を切りましょうとも」
     男二人で連れ立って歩く。蔵から出れば真昼の陽光が目を焼いた。遠く聞こえる茶屋の呼び声、住人のざわめき。ようやく現在の、己が第二の故郷と定めたカムラに帰ってこれたと息をつく。

    「あの蔵ですが、やはり外部への公開は止めておいたほうが宜しいかと。蔵書にめぼしいものは無いようですし、技術指導ならハモン殿やウツシ殿に直接ご教授願うが筋でしょう。口伝も多いことですし。里長にはそれがしからご報告申し上げます」
    「ハモンさん厳しいから。外の人でついてこれたの、ミレーネ殿くらいなんだよなあ…」
    「あなたの指導に付いてこれたのも、英雄殿とタイシ殿くらいなのでは?」
    「俺はほら!里守訓練とかもやってますから!初心者向けの指導もお手の物ですよ!」






    後に、カゲロウは里長に問う。何故自分にあの蔵の記録を見せたのか。
    里長曰く、
    「なに、お前もカムラの民と見込んでのこと。それとまあ、なんだ」
    もし里の外で、やたらうるさい年嵩の女教官の噂をを聞き付けたなら、宜しく頼む。
    こればかりはウツシに調べさせるわけにもいかんからなと、苦く笑った。
     


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