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    勢いに任せたばっかりにあとから仕切り直す羽目になりました
    ざまぁどころか、このあとエルガド行きが確定して教官は2年ほどお預けを食らうことになるんですけどね!

    ##それゆけ僕らの因習村

    猛き炎の嫁取り物語 告白編 ……討伐完了。相性の悪い軽弩とはいえ、こちとら神殺しの英雄だ。落ち着いてやればこんなもんなんである。えっへん。
     教官曰く、大社跡では滅多に見なかったモンスターなので、初めて相対するモンスターに対応が遅れても仕方がないんだよ、との事。いや対応が遅れた原因に言われましても。教官は相手が何か知ってたんだから、里長とじゃれて無いで早々に対応策を練れていたらこんな事にはならなかった筈である。まあ、今回は特別に色々サポートしてくれたし、何故か師の装備が私の装備以上に破損しているのを見ると何も言えなくなってしまうんだけど。ヨツミワドウと相撲でも取ってきたのかな?

     狩猟達成の知らせをフクズクの足に結びつけていると、あたりを警戒していた教官が戻ってきた。
    「大物はあの一匹だけみたいだね。
    狩猟お疲れ様。あとは俺に任せて、君は先に帰って怪我の治療を…」

     すっと。
     教官が伸ばした手を、何故だか身体が勝手に避けた。

     大きな手で頭を撫でられるのは好きだ。ほっぺをもちもちされるのだって、実は嫌いじゃない。……でも昨夜、髪を掻き乱され、頬を優しく擦られる事に別の意味が生まれてしまったから。
     教官はあからさまに竦んだ私にそれ以上の深追いはせず、曖昧に笑ってみせた。
    「あの、違うんです」
     咄嗟に口からまろび出たけど、いったい何が違うというのか。触れられるのは嫌じゃないです。触れられたくて無理を押し通したんです。

     ならなんで、この身体は逃げるんだ。

    「君が嫌なら、もう触らないよ」

     そんなことは有り得ない。
     優しく微笑む教官が、ぱっと両手を広げてみせた。これ以上何もしないという意思表示。
     嫌だ、私、その顔は好きじゃない。
    「里長に、まずは冷静になれと叱られたよ。俺、そんなに狼狽えてるように見えたのかな。ヒノエさん達もカンカンだった。流石に燻製は嫌だから、今後について、少しお話させて欲しいな」
     一部理解不能な言葉があったが今は流しておこう。
     今後、今後。なぜだか先程、巨大カニを相手にしたとき以上に足がすくんだけれど、こういうときの「お話」からは逃げられないのは分かっている。
     教官は苦笑して、極めてなんでもない事のように、
    「その、君が嫌な事はしないから。無理に触ろうとしないから安心してほしい。夫婦なんだから色々せっつかれることはあるだろうけどね、急ぐことでもないんだし。
     だからあの、
     離縁だけは…」

     教官のお話はまだ続いていたけれど、あとの言葉は入ってこない。
     今この人、なんて言った?

     りえん?
     離縁。
     するの?
     …したいの?

     血の気が一気に引く音がした。

    「触られるの、嫌じゃないです。だって私がみんなにお願いして、教官をお嫁に貰ったんです。次はちゃんと出来ます」

     頭の中でごうごうと音がする。血を流しすぎたのだろうか、視界がきゅっと狭くなる。いやだからね、となおも何か言い募る、教官の声が聞こえない。

    「だから離縁なんか絶対にしない」

     離縁。離縁。
     その言葉だけがぐるぐると頭を回る。
     所詮紙切れ一枚の成約だ。そうだ、結んだから終わりじゃない。破棄することだって出来るんだ。

    「教官がやっぱり嫌だって言っても分かれてなんてあげないです。届けにちゃんと署名したんだから、受理されたんだからもう駄目です。絶対別れない」

     違う、違う。そんなことが言いたいんじゃない。こういうときは、ごめんなさい、もう逃げたりしないから、頑張るから、離縁だなんて言わないでって。しおらしくお願いしなくちゃいけないのに、この口も、この体も、ちっとも言うことを聞いてくれない。

    「愛弟子、落ち着いて。離縁なんてしないよ、そう言ってるでしょ?俺の話、聞いてる?」

     落ち着いてる。私はこれ以上ないくらい落ち着いてる。ごうごうと頭の中で音がする。聞きたくない音を遮るかのように、溺れたように心臓が脈打って、血が巡って、空気が足りなくて、ふいごのようにしゃくり上げて、眦から水分を押し出した。泣いてなんかない。こんな時に泣き出すなんて子供みたいじゃないか。私は英雄なんだから。きっとさっき飲んだ強走剤がなんか精神的に作用してアレなんだ。きっとそうだ。
     取り乱して(いや断じて取り乱してなんかいない!)耳をふさぐ私を前に、教官は目を丸くして、(嫌だ、嫌だ、呆れないで)
    「ねえ、君ひょっとして、俺が里長に言われたから、君とめおとになったと思ってる…?」
     今更そんなことを言った。
     だってそうじゃない。周囲を固められて、あなたは観念して、仕方なく。
     しゃくり上げながらなんとか頷くと、教官が拳を握って気色ばんだ。
    「ち、違うよ!?昨夜ちゃんと言ったよね?俺君のこと好きだって!好きだよ!?」
     言った。嬉しかったから覚えてる。また言ってくれた。何度聞いても耳に嬉しい。
     でもそれは。
    「ま、愛弟子だから……」
     私は、里を救った英雄だから。
    「そうだよ、誰より可愛い俺の愛弟子だよ!
     でもそれだけじゃないだろう、弟子とか、妹とか、娘とか、そんな…」
     教官はあの夜のように、頭をばりばりと搔いて、何かを探すように視線を彷徨わせた。
    「そうだね、これは俺が悪い。君に選んで貰えて浮かれて、大事なことを疎かにした俺が撒いた種だ。
    待ってね、ちゃんとする。ちゃんと言うから」
     そうして深呼吸をひとつ。内から拾い上げた言葉を、ためつすがめつ吟味して、あれでもないこれでもないと放り出す。何度も口を開いて、閉じて、繕った上っ面ではなく、自分の中で言葉を探してくれている。

     私のための言葉なんだから、聞かなくちゃ(聞きたくない)。

    「ええと……俺はとっくに君のご飯が無いと生きていけないし、君の顔が長く見られないのは耐えられないし、笑った顔も怒った顔も全部欲しいし、君の声で何度でも呼んでほしい。許されるならずっと君に触ってみたかった。あのときから」
     あのとき、がいつを指すのか。昨夜のことだろうか、もっと前の事だろうか。教官は「なんだか俺がしたいことばっかりだな…んんー」そこで言葉を切って、もごもごと咀嚼して、……それは飲み下すことに決めたようだった。

    「…………。もうずっと、それっくらい、好きだよ……。
    君が好きです。俺とめおとになってください」

     最終的にはそうまとめて、手を彷徨わせ、私に触れることはせすに、装束の裾をそっと摘んで、ぎゅうっと握りしめる。直に触れずとも、離さない(逃さない)と示すように。


     もっと言葉で話し合うべきだったのかなと、今更ながらに思う。

     私は考え無しに実行する(そして往々にして痛い目を見る)タイプだし、教官は外面を誤魔化す事に慣れすぎて、内心を表すことが本当に難しい人だ。里長に直談判したのは確かに最短経路だったかもしれないけれど、もっとゆっくり時間を掛けて、私の気持ちと、教官の言葉が、ちゃんと追いつけるようにするべきだった。

     そんなまどろっこしいこと耐えられなかったからこうなったんだけど。

     そこでようやっと思い至る。ああ、私、このひとの口から否定の言葉を聞くのが怖かったんだ。
     弟子と一緒になどなれるかと、妹分などその気になれないと。
     現に教官は里長に言われるまで、そんなそぶり見せたことも無かったじゃないか。今更言葉をくれたって、早々信じられるものじゃない。

     でもそれは、私だっておんなじだ。

     奇襲だ速攻だなんて騙し討ちみたいにして、周りの力に頼ってばかりで、ここに至るまで、まともに正面から告白して当たって砕ける勇気も持てなかったのだ。
     ……本当に、子供で嫌になる。離縁の言葉ひとつに狼狽えて、何が猛き炎の英雄か。

     ごめんなさい、私の方こそちゃんとします。ちゃんと言いたい。言うことを聞かない唇が戦慄いて、ああだのううだの、意味のない音を吐き出すけれど。

     いつも師匠を困らせる、不束かな弟子ですが。
    「私も、わたし、あなたがすきです!」
     三つ指つかない代わりに、微かに震えるその手を取った。
     ああ、言葉も表情も、あなたはいくらでも作れるけれど、固く握られた拳は雄弁だ。
     狩猟後の、泥と埃と汗と涙と鼻水に塗れたきったない顔だけど、せめてあなたが見たいと言ってくれた顔で笑えただろうか。
     …いつか飲み込んだ言葉も教えてくれたら、嬉しいな。

    「改めまして、私のお嫁さんになってください!」
    「なんでか拘るねそこ!喜んで!」






    「やっぱり段階を踏むって大切なんですね」
    「技術も学びも、人の気持ちも、なかなか一足飛びにとはいかないものだよ」
     狩猟の後はいつもの反省会である。放置されたダイミョウザザミの殻に寄りかかって、教官が手渡してくれた水筒を煽る。ギルドを通した狩猟ではないので、この躯は里に持ち帰って調査する必要があるとのこと。今はお迎えの里守さん待ちだ。……その間にこの瞼の腫れは引くだろうか。
     取り敢えず、固い殻を持つモンスターへの対処は今後の課題となった。太刀が使えたら良かったんだけど、どうにもモンスターを目の前にしてカウンターが取れない私には向いていない。元々はそれで弩を使い始めたのだし。教官もそれは分かっているようで、今度大槌や大剣を試してみようかと言っている。私の目元を覆う濡れ手拭いを取り替えながら。

     ………て、手厚くない?狩猟後の福利厚生がいつもより手厚くない??私さっきからカニを枕に指先一つも動いて無いんですけど、勝手に汗や汚れは拭われるわ傷に応急手当されるわ挙げ句口に飴ちゃん放り込まれるわ、めっちゃ手厚いですね!?
    「だって俺、書類上は妻なんでしょう?疲れた旦那さんを甘やかしたい気分なんだよね、新妻として!」
     鼻歌交じりに水を絞った手ぬぐいで私の足を拭う新妻(30代男性)。

     ……世の男性がこぞって所帯を持ちたがる気持ちがちょっと分かったかも。今度センナリさんにお話聞いてみようかな。

     まあ、それで段階である。この場合の段階とは狩猟の話ではなく、私達の関係の話である。今回は私の力技で城門を抉じ開けようと大技を発動したは良いが、発生前で潰されて返り討ちにされた良い事例である。または下位ハンターにいきなりヌシジンオウガをシバキに行かせたようなもんである。結果、ダイナミックお手にワンパンされてクエスト失敗なのである。
     よって段階だ。一般的なこ…恋仲の二人がゆっくり進める通過儀礼を、きちんと調べて確認して、トライアンドエラーを繰り返し一歩一歩確実にクリアする。かつてクソ雑魚ナメクジ呼ばわりされた私が英雄へと至るまでに築き上げた経験則は伊達じゃない。

    「そう、まず……手、手を繫ぎましょう」
     思い出せ、学びを深める為読み漁った絵巻物……いや総天然色(グラビア)の方ではなく。
    「書物で読みました…こ、恋仲の二人はまず手を繋いで、デートして、親交を深めるものだとか」
     それで文を交わして、ご両親にご挨拶して。その辺は飛ばしてもいいだろう。なんといっても私達は既に夫婦なのだからして。
     教官はなるほどとひとつ頷くと、隣の位置に座り込んで、私の手を取って指を絡めた。知ってたけど、教官の手、おっきいな。様々な武器を扱うその手のひらはタコで固くて、暖かくて、あーこれなんか安心する。やっぱり段階を踏むの疎かにしちゃ駄目だな〜。教官の手、好きだな〜。こんなふうにしっかりと手を握ってもらえるのは成人して以来かも。改めて考えてみると成人してからの教官のスキンシップ、極端に減ってたんだなあ。一応気を使ってくれてたんだろうか。なんだか嬉しくなってひたすらにぎにぎしていると、されるがままにしていた教官からぽそりと声が漏れた。
    「口付けは?」
    「へぁ!?」
    「恋仲の二人は、いつ口付けするものなの?」
    「それは」
    「俺たちもうこれ以上ないくらい物凄く親交を深めてるし、寸前まで色々しちゃってるし、口付けくらいは良いと思うんだよね」
     私の肩をがっしと掴んだ教官の手が外れない。
     そ、そんな怖い顔で口付け口付け連呼するな!
     ええい、今更真顔を取り繕うかのようににっこり笑ってみせたって誤魔化されてなんかやらないぞくそう可愛い小首かしげた私の教官(30代男性)あざとい可愛い。

     ……いや多分、私が嫌だと言ったらやめるんだろうなこの人。あの夜みたいに我慢するんだろうな。男性は閨事を途中で止めることは出来ないって書物に書いてあったのに、教官止めてくれたんだよね。これ以上このひとに我慢を強いるのは、それは……嫌だな。

     ずるい私はぎゅっと目を閉じて、それを答えとした。

     ……
     ………
     …………

     お迎え担当の里守さん達、早く来て。猛き炎からの必死の救援要請です。そしてこの調子に乗った駄目教官を止めて。ほんと急いで。手遅れになっても知らんぞ…!

     私が、色々あって狩猟達成の知らせを結びつけたフクズクを飛ばし忘れていること、そのことを教官が敢えて黙っていることに気付くのは、散々唇を貪られ酸欠に喘いだあとであった。

     ……段階ってなんだっけ。





     なお。
     ようやく来てくれた里守衆と、巨大ガニの大八車を引いての帰り道。平静を装ってはいるものの分かる人間には分かるくらいうっきうきに舞い上がっていた教官は、寸前までルナガロンの接近に気付かなかったし、なんならここで初登場のフィオレーネさんに肩ドンされて吹っ飛ばされていた。
    ざまぁ!!!


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