この本丸には、この本丸には顕現された刀剣男士が少なかった。
短刀1振、打刀2振。
打刀のうち一振りは初期刀である。
そのため、審神者自身が鍛刀して励起までした刀剣男士は、実質2振しかいないとても小規模な本丸であった。
実をいうと、ここの主が審神者として配属されたばかりの頃は初期刀しか来なかった。
何度も鍛刀を試みるも、励起されるのは初期刀ばかりで、かの刀剣の乱舞能力の跳ね上がりっぷりは凄まじかった。
"もしや自分の刀しか来ないのでは?"
と、初期刀である加州清光は、目の前で積み上げられていく自身の刀の山をみて、ほんのりと満たされる独占欲と、漠然とした不安で胸がいっぱいになった。
就任2日目以降も、本丸の主は熱心に鍛刀していた。
3日、5日、10日…毎日、毎日、加州清光の主は欠かさず鍛刀した。
加州清光が遠征や出陣から持ち帰った刀を励起出来ずとも、こんのすけの空元気な励ましを「ああ。」と受け取りながらも、この本丸の主は鍛刀をやり続けた。
しばらくすると1日も欠かさず鍛刀していた成果なのか、次第に加州清光以外の刀も鍛刀される様になった。
これは光明とばかりに加州は主を褒め称え、努力の実りを喜んだ。こんのすけも今日はなんとめでたい日なのか!と審神者の足元を跳ね回った。
だがしかし、
いやむしろやはりというべきか、顕現するのは加州清光のみ。他の刀は鞘に収まり静かに横になっているだけであった。
30日間真顔で鍛刀していた審神者の顔が少し哀しげに見えて、加州清光とこんのすけは言葉を飲み込んだ。
そして、その日は突然やってきた。
栄えある70日と50振目にして、ようやく小夜左文字が、61振目にして同田貫正国が励起されたのだった。
それはもう大いに喜んだ。
加州は"これで毎日の家事炊事が楽になる!"と大喜びした。こんのすけも"尻尾による埃落としの練度はこれで頭打ちになるだろう"と涙ぐんだ。毎日無表情で鍛刀を続けていた審神者も、この時ばかりは笑顔を見せた。加州はこの笑顔を必ず守らねばと胸に誓った。
だが喜びも束の間。
その後の40回は全くダメであった。
あまりの励起のされなさに先程までの祝いの空気は尻すぼみ、妙な焦りのような空気が流れる。いやいや!資材をかき集めてもう少し頑張ってみよう!とダメ押しの10回鍛刀。
全く同じ短刀が7振、そして全く同じ打刀が3振顕現されたのみで、小夜左文字と同田貫正国の習合の機会にとても恵まれただけであった。
蔵にはウンともスンとも言わない刀がさらに増えた。
審神者は任務とは別に蔵にある刀達の手入れを直接行っていたのだが、そこにさらに数十本増える事となった。
ふいに「刀箱より刀箪笥が必要なんじゃないか?」と誰かの純粋な疑問の声が上がった。本丸に刀箪笥が3個届いたのは翌日だった。
こうして、謎の励起能力の偏りのある審神者1人と、刀剣男士3人、そして管狐1匹のこぢんまりとした本丸運営はそこから約1年半続くこととなった。