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    壱 軸

    @fullkawauso
    わんぱくなカワウソです。

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    壱 軸

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    ※生還後の水木について、モブ視点

    #ゲ謎
    #水木

    テープ起こしより水木さんね、覚えてますよ。
    すごい事件の生き残りでしたからね。
    村一つ全滅ですから。
    入院先にブン屋がなだれこむんじゃないかって思ってたんですが、全然でしたね。
    いやほんとに。
    記事だ取材だって来たのは今頃になってあんたぐらいなもんだ。
    まあ書こうとしても書けなかったんだろうなあ。
    口封じがあったんじゃないかな。
    政治家に関わるようなでかい製薬会社が仕切ってる村だったらしいじゃないですか、燃えちまった村ってのは。
    あのあたりが関わってるんでしょうね。
    まぁ私みたいな小僧はその時そんな想像にも及びませんでしたね。
    ただ私は何だか聞いたり見たりしたことをやたらも覚えちまうだけで。
    あちこちの建物に掃除に入るでしょ?
    そこで何となく見聞きしたことを勝手に覚えちまうのさ。
    そういうのを情報だっつって売り買いできたりね。
    情報屋?
    いやいや、そんなのにはなれなかったよ。
    まぁ怖い目にあったもんでね。

    ああ、水木さんね、最初に見かけたのは病院だったなあ。
    通りかかった部屋に寝てるやつがふと見えてな。
    白髪頭のじいさんが一人で入ってる部屋かと思ってね。
    でかい部屋を一人で使ってんだ、きっと金持ちに違いねえと、
    ぶっちゃけ小遣い目当てだわ。
    言いつけられた部屋でもねえのに
    失礼しまぁーす屑籠をお片付けしまーす
    ってな。
    そしたらベッドから起き上がったツラ見てな、ビックリしたよ。
    髪どころか眉毛も真っ白だしやつれちゃいるがまだ若い男だったんだよ。
    そうそう左目にビッと傷がある人。
    そう、水木さん。
    え?写真あるの?どれ。
    おーたしかにあの人だ。
    こりゃまだ髪が黒い頃かい。
    ええ?その事故に遭う1週間前に撮られたもんなの?
    はぁこの髪があんなにきれーに白くなるなんてなぁ。何があったんだか…。
    いや、私はほんとに知らないんだよ。
    水木さんに会ったのもその金持ちじいさんと間違えて部屋に入った時だけだしね。
    ああ、で、その時の水木さんね。
    私も何話したらいいかわからんで黙っちまってたんだけど、水木さんも黙ってこちらをじっと見ていてな。
    呆けてるわけでも怒ってるわけでもねえ、
    何だか私の周りの風景も含めて広く観察してるっつうのかな。
    その時の目が、目の色がね、何だか青く見えたんだよ。
    私は急に怖くなってね、後退りしようとしたら、
    水木さんこう言ったんだ。

    「見たもん聞いたもん、あんまりベラベラしゃべるんじゃないぞ。」

    そう言うと途端に、もうお前にゃ興味がなくなったってな様子でベッドに横になっちまったんだ。
    何だよどういうことだよって思うじゃない?
    聞き返そうとしたんだけど、その直後に警察の方がどやどやと入ってきちまってね、追い出されちまった。
    でも気になってね、扉の外から盗み聞きしたのさ。
    耳も記憶もいいんだよ、いらないぐらいにね…。
    で水木さんはさ、
    発見された時に血まみれだったんだけど、それが本人の血じゃないってわかったっつうんだわ。
    じゃあ何かって大量の返り血だと思われると。
    そしたら聞き耳立てなくてもいいぐらいの大声で
    「お前が村人を殺して火をつけたんじゃないのかー!?」
    って。
    刑事ドラマで怒鳴る刑事役見ると今でも思い出しちまうわ。
    私ぁその声にびびっちまったけど、水木さんは何も返事もしなかったようだな。
    それで怒鳴ったのとは別の刑事さんが、きっと怒鳴る方をまぁまぁとか宥めながらだろうね、こう言うんだわ。
    「あなたの衣服の血を鑑定した結果、少なくとも数十人分以上の血液であり、そして人間に似ているが人間ではない未知の生物の血液でしたよ。水木さん、あなたはあの村で何をしたんですか?」って。
    しばらくシーンと静かになって、水木さんが話したんです。

    「よく覚えておりませんが、誰かを助けようとして、桜を切りました。」

    何のこったと首を傾げてたら怒鳴る方がまた何か大声を出してたね。
    その後バタバタとお医者さんやら看護婦さんやらが駆けてきてね。私も退散したのでそれきりですわ。

    気になったんだけどねえ、いつも病室前にやたら人がいてさ。まぁ何か言ってりゃ聞こえちまうんだけど。
    だいたいは水木さんが浴びたっつう血の話だったね。
    そう、人間のものじゃない血。

    よく見かけたのは頭禿げたじいさんとお付きのおじさんが来ていてね、どうやら水木さんの勤め先のお偉いさんみたいで、
    「焼け落ちた例の村に関わる製薬会社内にて、鑑定した血液成分に類似した成分を記した書類を発見した」
    「血の付いた衣服を提供してほしい」
    と医者にも警察にも何回も言うんだよ。
    警察の人が「大量殺人の証拠品のため応ずることは出来ない」って断ったら、
    禿げのじいさんの方が土下座しちゃってさ。
    お付きのおじさんが「シャチョー!」なんて言ったから、
    へーあのじいさん社長さんなのかーって、何だか笑っちまったなあ。
    何やってる会社だったんだろうなあ。

    え?血液銀行?

    それは…ああ、うん、私は子どもだったからあんまりよく知らないけどね。
    まだまだ金もないし仕事もなくて追い詰められてる人がたくさんいたからねえ。
    お袋に「いくら困ったからって自分の血肉を売ったら死んじまうよ」って言い聞かされたことがあったけど、周りで何かあったのかもなあ。
    行方不明になる人も多くて…ああそういえば近所に住んでいた女の子が母親といっしょになって急に消えたなあ。
    あの頃はとにかく空気も川も汚くて、そのせいかゲホゲホひどい咳していてね。
    ん、ああ思い出した、
    母親の方がうちのお袋と立ち話しているのを聞いたんだった。
    「親切な人に仕事を紹介してもらった、空気が綺麗な田舎の方の旅館で住み込みで働くから今晩の夜行で出る」って言ってたから別に行方不明とかではないか。

    で何だったか、そう、シャチョーさんとお付きのおっさん達
    あんまりごねるもんだから警察の方がついに折れてさ「立ち合いの元で確認ならば〜」って。


    ………あんた知ってるんでしょその後何があったか。
    何て書いてあったかね?

    『保管場所にて証拠品の血染めの衣服は見当たらず。捜索により警察署敷地内の焼却炉にて発見された僅かな燃え滓が該当すると思われる。

    何者かに持ち出された事と考えられるが、目撃者は、』

    うん、
    そう、目撃者は病院と警察署を…
    …掃除で出入りしていた小僧。
    私だよ。
    ああもう大変だったよ、
    何か見なかったか、誰か見なかったかって、
    警察の人、病院の人、得体の知れない人、
    道を歩いてる時も働いてる時も、
    家にまで誰か来て聞いてくるんだ、
    何回も何回も。
    そのたびに知らない知らないってね。
    結局お袋が参って引っ越しちまったよ。
    まあ引っ越し先が良いところだったし、今もこうして住んでるぐらいだから結果的によかったけどね。

    で、その私の目撃証言、何て書いてあるの?

    『あちらの窓ですよね、あれがね、すぅっと窓がね小さく開きまして、そこから、おまわりさんがおっしゃっていたシャツだのズボンだの?を、まとめた袋が押し出されるようにずいずい出て、あららと思ってるうちに下に落ちて行ったんですよ。』

    うーん、まあ嘘は言ってないなあ。

    本当だよ。窓がすぅっと小さく開いてそこから出ていっちゃったんだ。
    まあ、
    誰が、どうやって、
    ってのは誰にも話した事ないなあ。

    ベラベラ話すなってことでね。

    山田さんって言ったか、あんたラッキーだね。

    これ今日だからやっと話せるんだわ。

    私が見たのはねえ、おじょうさんさ。
    きれいなおじょうさん。

    その日は警察署の清掃でね。
    署内の人に挨拶しながら廊下を掃いたりゴミを拾ったりしてね、俯いて歩いてるうちに誰もいない廊下にいたんだよ。
    たまたまその時その場所から人が途絶えたんじゃない、急に人の気配すらかき消えたんだ。
    さっきまで失礼しまーす失礼しまーすなんて言いながら通り過ぎる人の足を見ていたのに、あれ?と思いつつ顔を上げたら、薄暗い廊下に人ひとり無しだよ。
    後ろを見たら、信じられんことに先が見えないほど長い長い廊下ができてるじゃないか。
    そんなにでかい建物でもなかったのにさ。
    何だか、大きな大きな筒?カステラ箱みたいな箱に放り込まれたネズミのような気になってね、
    一瞬で怖くなっちまってね。
    少し先にある一室の、少し開いたドアから漏れる光に飛びつくように駆け寄ったよ。

    誰かいたら怒られてもいい、「すみませぇん迷い込んでしまいましてぇ」と屈強な刑事でも何でも泣きつこうと思ってね。
    刑事なんかいなかったけどね。
    というか、警察署なんて場所にいないだろうなって人がいたんだよ。
    赤、いやピンクかなあ、キレイな着物を着た女の子がいたんだよ。

    長い黒髪が艶々していてね、大きなリボンもつけていたなあ。
    まさに良いとこのお嬢さんって風体さ。
    そのお嬢さんが窓に背を向けて俯いていて立っていてね、胸に布袋を抱えていた。

    それが多分「おまわりさんがおっしゃっていたシャツだのズボンだのをまとめた袋」だったんだろうね。
    それを大事そうに抱えていたんだ。
    少し撫でたりしてね。

    一瞬見惚れた後、私はそのお嬢さんに声をかけようとしたんだ。歳の頃も多分同じくらいだろうし、良かったらいっしょに行かないかって。

    ええ?ナンパ?はは、それならこれが人生最初で最後のナンパだな。
    ナンパねえ。

    まぁそれでは一緒に行きましょうとも、話しかけないでいただけます?なんて断られることもなかったなあ。
    何せ私は、おじょうさんの顔を見て腰を抜かしちまったんだ。

    私が話しかけようとしたらおじょうさんは俯いた顔をゆっくり上げたんだ。
    その顔は、

    待て、今の音は何だ
    雨か?
    だいじょうぶ?
    だいじょうぶだよな?

    おじょうさんの顔は、左目だけが

    うわっ
    何だ
    ああ
    ああ、まあ、
    そうだよなあ
    顔の話はな、
    女の子だもんな…

    ええと、顔の話はいいか?
    ありがとう…
    おじょうさんは口元だけでニコッと微笑んで、薄く開いた窓の隙間に、袋を抱えたまま、
    頭の先から、
    蛇、
    いや、
    すまない、
    粘土?粘土だ
    粘土が細くなって伸ばされるみたいに、
    この話は大丈夫なのか、
    細くなってスルスルッと出ていっちまったんだ。
    本当さ。
    俺は腰を抜かしたまま泣きべそかいててな。
    頭の中ではあの言葉がグルグル回ってたよ。
    水木さんのあの言葉さ。

    「見たもん聞いたもん、あんまりベラベラしゃべるんじゃないぞ。」

    実際しゃべろうとするとさっきみたいなことが起きた。家鳴りなのか風なのか。あの唸るような音が聞こえてな。昔はもっとおっかなかったんだぜ?
    何で今は話せるのかって?
    ううん、多分もういいかなって。
    いつかなあ、確か一昨日だったか、病院の帰りに、カランコロンって、多分下駄の音がして、今時珍しいよな、それが聞こえたら何だか、
    もういいのかって咄嗟に思ったんだよ。

    ああ疲れた。すまないね長々と。
    この話は記事になるのかね?
    え?
    おいおいじゃあ何で聞いたんだよ。
    理解を深めたい?何だそりゃ。
    まあ何も根拠もなく何でもいいやって書くよりは良いかもなあ。
    いや、私も話せてよかったよ。
    吐き出さないと溜まっていくもんでね、
    言ったろ、聞いたり見たりしちまうって、
    そんで忘れられねえんだ。
    若い頃は何とかなったけど、年取るにつれて自分の中がギュウギュウになってきたような気がしてきてね。
    話して吐き出して少しずつ余裕作らんと、新しく料理を食べても本を読んでも何だか腑に落ちないって言うかね。
    記事が書けたら送ってよ。
    あんたに話してあけた分にあんたの書いたもんを入れるからさ。

    【終】
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