花だけが聞いていた まだ寒い冬の早朝。
あさぼらけの空を見上げながら、なんとなく目が覚めたので鶴丸は庭をそぞろ歩く。
綿入れの半纏、首には毛物の襟巻きを巻いてしっかりと防寒しているのは、うっかり大倶利伽羅に見つかろうものなら渋い顔をされるからだ。
馴れ合うつもりはない、が常套句でありながら情の深いあの子は旧知の鶴丸を放っては置かない。
半纏も襟巻きも夜半や明け方のいっとう冷える時間にふらっと本丸の敷地を彷徨く鶴丸の癖を知った大倶利伽羅がいつの間にか用意して、ある夜更けに無言で着せられた。
その顔があまりに真剣であったので、されるがままとなり現在に至る。
夏用には薄手の肩掛けまでが常備されている辺り、彼自身がどう思っていようとも優しくて世話焼きな子だ。
2534