真夏のGATE「あー、渡れなかったね」
小走りに急いだものの間に合わなかった、信号が変わるまで長くかかる横断歩道。
「仕方ないよ」
と、呟き隣に立った人影に顔を向ける。
よく見慣れた顔なのに、どこかに感じる違和感。
さっき変わったばかりの赤信号を見つめる新緑の眼も、それを包むかのようなまっすぐな睫毛も。筋の通った鼻先まで何もおかしなところはない。
噴き出して止まらない汗が、その肌を滑り続けているのはこの猛暑だからお互い様だ。
と、視線を少しずらしたところでハッとする。
赤いその前髪を横に流してまとめているヘアピン。いつも几帳面に二つ並んでいるそれのうち一本が、斜めにずれて落ちそうになっていた。
こういうの、知らないうちはいいんだけど一回気付いちゃうともう気になってしょうがないんだよな。
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