# フェイス・ビ一ムスには、うなじと肩甲骨と尾てい骨の下と膝の裏にほくろがあるらしい◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アーカイブ配信等で朗読劇を視聴・閲覧されていない場合、前提のネタが一部わかりにくいかと思われます。予めご承知おきくださいませ。
※2nd🎧のカドスト読了後なので、兄に対して少し余裕を見せた振る舞いをしている弟 の幻覚を具現化しました。
ビリー達の前でこんなふうに振る舞ったりしないだろうけど、(冷静なオタクの理性)
ブラフェイが成立している(かもしれない)時間軸ではこんな🎧もいる……(かもしれない)というオタクの脳内妄想マンデーナイトリーディングです。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「邪魔をする」
その一言だけを発して突如ウエストセクターの居住室へと現れたブラッドは、なんだなんだと目を丸くする親友二人に何を説明することもなくスタスタとリビングを横切ると、一直線にルーキーの部屋を目指した。
突然の、そして意外すぎる来訪者に、ベッドの上でいくつかの音源を聴き比べていたフェイスはメンター二人と同じく目を丸くしたし、ギターのチューニングに勤しんでいたジュニアは
「ぴっ?!」
驚きのあまりペグを思いきり回してしまい、愛用のギターからなんとも素っ頓狂な音を響かせた。
「……ブラッド? なに、どうしたの」
何名かのヒーローと共に、司令部主催の親睦イベントに出席していた筈のブラッドが、何故ウエストセクターの共有スペースを、しかもルーキーの部屋を訪ねてきたのか。
フェイス達ウエストセクターは、人数調整の兼ね合いと各々の都合から参加を見送ったため詳細は把握していないが、終宴後はお偉方に捕まるのが定番の流れだろうに、一体どうしたというのか。フェイスには皆目見当がつかない。
「フェイス、少し触るぞ」
「………………は? え、なに……なんて?」
しかし訪問の用件を尋ねたフェイスへ返された言葉は、あまりにも脈絡がなさすぎて。困惑に満ちた声に答えることもなく、ブラッドはつかつかと歩み寄ると、フェイスの後ろ髪をぐいと掻き上げて白いうなじを室内灯の下に晒した。
「ちょっ、なに?!」
「うなじにふたつ並んだ小さなほくろ……本物だな」
「だから何が?!」
「あとは肩甲骨と尾てい骨、膝の裏にもあった筈だな……よし、服を捲れ」
「ねえ本当になんなの頭でも打ったわけ?!」
「おいクソDJ、コイツほんとにブラッドか……?」
「俺が聞きたいよ……っ」
世にも奇妙なものを目にしたかのような顔をしているジュニアの気持ちは十分わかるが、大事なギターを呆然と抱えているその腕は、血縁者からの唐突かつ不審過ぎる奇行に巻き込まれている相棒へと差し伸べて然るべきだろう。
そんなフェイスの心の叫びが口から溢れ出す前に、場の空気をさらに掻き乱す陽気で軽快な声が、混沌とした室内に飛び込んできた。
「Hey, Hey, ブラッドパイセンちょっと落ち着いて〜! キースパイセンとディノパイセンへの聞き取り調査によると、DJは今日、ず〜っとウエストセクターの共有スペースにいたんだって!」
「のわっ?! ゴーグル!? マジでなんなんだよお前ら、揃いも揃って?!」
「……それは本当かキース、ディノ」
「お、おう……?」
「うん、まあそうなんだけど……ブラッド、いったいどうしたっていうんだ?」
ルーキー部屋の入り口で様子を伺っていたキースとディノは、ひとまず事実を肯定する。しかしそれとこれと、何がどうなってどう繋がるのだという疑問符が、そこいらじゅうに浮かんでいる。
「つまりつまり、ここにいるDJはオイラ達がよ〜く知ってる、13期生トップクラスの顔面偏差値、顔面力53万のフェイス・ビームス本人ってことだヨ〜!」
「……ビリー? どういうことか、俺たちにもわかるように説明してくれるよね?」
「Hi, ベスティ! うーん、お代なしで話せる範囲だと、かくかくしかじか、これこれ見たまま〜⭐︎って感じなんだケド……」
「ビ リ ー ?」
「あっははは……♪ まだ詳細は調査中だから、今話せるのはざっくり要点だけだからネ〜? うーん、ボクちん太っ腹〜!」
そう前置きしたビリーは、怪訝な表情で部屋着のファスナーをきっちり上まで締めたフェイスに睨まれながら、某会場前で起こった出来事をかいつまんで説明し始めた。
「――――というワケで、もうもうオイラたちほんっっっとにビックリ、色々大変だったんだヨ〜! あ、アキラっちのほうはウィルソン氏とレンレンが向かって、さっき無事に確認できたって連絡きたから、安心してネ♪」
「……話は大体わかったけど。それで、一報も入れずに突然押しかけてきたってわけ?」
「まあまあ、そう怒らないでDJ〜。アキラっちとDJに何かあったんじゃないかって、みんなほんとに心配したんだヨ??」
「ああ、そう……」
にわかには信じ難い話だが、そのくらいの非現実的なアクシデントでもない限り、あのブラッドが 'こう' はなるまい。
フェイスは溜め息を一つ吐いて、まくれ上がったジャージの裾を直す。押し問答の結果、半ば強制的に確認させられた膝裏に、まさか本当にほくろが存在していた事実など、すぐにでも忘れてしまいたかった。
しかしこのまま、ただ振り回されっぱなしというのも、性に合わない。
「…………ねえ、ブラッド」
「? なんだ?」
悪戯心に火がついてしまった年少者の声色を、兄は愚かにも忘れてしまったようだ。
マゼンタの瞳を細めたフェイスは、すいと伸ばした指で自身のうなじをトントンと叩く。
「どっかの誰かさんのおかげで、俺自身も知らなかった情報をミリオンが誇る情報屋に知られちゃったわけだけど……勿論、なんとかしてくれるよね?」
「………………ビリー」
「ハイハ〜イ♪ DJ ビームスのネタはお安くないからネ〜♪ しかも今回はとっておきのマル秘情報! 独占するとなると〜……んーーー……このくらいでいかが?」
「構わん」
「ワーォ即答〜! さっすがブラッドパイセン! お買い上げ、ありがとうございマ〜ス♪」
ご機嫌な様子のビリーは、「それじゃあオイラは、そろそろ自分の部屋に戻ろうかな♪ ブラッドパイセン、今後ともどうぞごひーきに♪ DJ、稲妻ボーイも、まったネ〜!」と嵐のような騒がしさで退出して行った。
「……何だかよくわからねえが、一件落着ってヤツか?」
「そう、だな? ブラッドもフェイスの顔を見て安心できたなら良かった」
「……ディノ、キース」
「ん? どうしたんだジュニア? なんだか難しそうな顔してるぞ?」
「あー……ちょっと、なんだ、その、いいからちょっと、こっち」
「おあっと、おい押すなって、何だよ、リビングになんかあんのか?」
雑な誘導でキースとディノを部屋から追い出した相棒の背中をありがたく見送ったフェイスは、伸びをする猫のようなしなやかさで、ブラッドの顔を下から覗き込む。
「……『俺』に冷たくされて、そんなにびっくりしちゃったんだ? オニーチャン?」
「………………そうやって、相手を揶揄うような言動は改めるべきだと以前から、」
「知らんぷりされるのって、嫌だよね。ああ、別に深い意味はないんだけど」
「……フェイス、」
「アハ、冗談だよ」
胸の辺りで消化不良を起こしていた本日の不満がようやく溶けて、小さくなっていくのを感じる。
――まあ、このくらいにしておこうかな。
「でも、忙しさにかまけてあんまりほったらかしにしてたら……電話越しの声も、何日かぶりに合わせる顔も、忘れちゃうことだってあるかもね? 『あんた、誰?』って」
「……善処しよう」
「アハ! まあ、期待しないでおくよ」
「お前も、まだ知らない場所のほくろをまた確認されたくなかったら、忘れないよう努力をしてくれ」
「………………負けず嫌い」
「お互い様だろう?」
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